16話 変装のペンダント
「何を考えているんだ?」
第一声を上げたのはネフィリアードだ。
「アリュスくんが心配なんだろう? だったら、一緒にいるのが一番じゃないか」
「理由になっていないぞ」
何を考えているのか分からないコルエに、ネフィリアードはため息をつく。
「賛成」
意外にもアリュスはコルエの提案に賛同した。
「鑑識の結果は数値と文章でしょう? 枯らす魔法に使われた魔力の持ち主が何処にいるのか探せるのは、現時点で俺だけ。最適解だと思う」
魔力には量だけでなく、個体差がある。それは色や香りに例えられるが、その差を感じ取るのは簡単な事ではない。同じ花から産まれた双子の魔女がほぼ同質の魔力を持っている場合や、犯人が道具に保管した別の魔女の魔力を使い火災を発生させた事例があり、判別には技術と経験が必要だ。
ネフィリアードの結晶の蝶も方法の1つだが、子供達の背後にいる犯人に気づかれてしまう恐れがある。相手に小細工をされないためにも、あえて人力で行う必要がある。
「君の指示は聞くし、邪魔はしない。どうかな?」
オパールの輝く瞳が、ネフィリアードを映している。
アリュスの安全を最優先にしたいが、コルエだけでなくミランジュも加勢して来るのが目に見える。
「……わかった。アリュス。力を貸してほしい」
「もちろん。聞き入れてくれて、ありがとう」
目を細め、微笑むアリュスは嬉しそうに応えた。
「そうと決まれば、アリュスくんにはこれを渡そう」
コルエは、銀の台座に埋め込まれた青い宝石と紐だけのシンプルな首飾りを懐から取り出すと、アリュスに渡した。
「これは、捜査用で特別に用意してもらった姿を変える魔法の道具さ」
「危険なモノって、ついさっき話していたのに、どうして?」
掌の上で首飾りを転がしながら、アリュスは訊いた。
「変身よりも変装や仮装に近いから、特別に許可が貰えたんだ。性別、身長、骨格をそのままに、色だけでなく髪の長さと多少の肉付きを変えられるよ」
コルエはそう言って首飾りの上に指先を乗せる。淡い光が彼女の髪を包み込み、金髪のロングヘアへと変わった。そして指を離すと光が零れ落ちると共に、元の黒髪へ戻った。
「へぇ、悪影響は少なそうだね。俺の場合はどうなるの?」
「私達と大差ない肌の質感になり、髪が生えるよ。肉付きの補正も入る。ただ、先程言った通り性別は変わらないから、服を工夫する必要があるね」
わかった、と一言言ったアリュスは、首飾りを着けた。
「宝石に向かって強く念じれば、発動する仕組みだ。試してみてくれ」
「やってみる」
アリュスは目を閉じ、握る込んだ宝石に〈姿を変えたい〉と強く念じる。
指の間から光が徐々に漏れ出し、そして目を瞑りたくなる程の輝きがアリュスを包み込んだ。
間もなくして、頭の上から水が垂れていくように光は下へと落ちて行く。
そして、
「あらぁ」
「へぇ」
ミランジュは満面の笑みを浮かべ、コルエは興味深そうにアリュスを見つめる。
愛らしさの中に透き通った美しさを兼ね備えた美青年が現れた。氷河の色を内包する水色の長い髪。雪のように白い肌に淡いピンクの唇。黒曜石のように黒い瞳をしているが、元がオパールの義眼である為に光の加減で虹の色が浮かんでは消えていく。ただ、変装や仮装に近い為か、左目は自動的に閉ざされたままだ。
「鏡ってある?」
2人の反応に嫌な予感がしたアリュスは、普段通りのネフィリアードに訊いた。
「あぁ、今出すから待ってくれ」
彼は自身の杖を手に取ると、結晶で造られた鏡を生み出す。
光の反射によって変身した姿が写し出され、其れを見たアリュスは顔を思わずしかめる。
「色……変える」
アリュスはもう一度首飾りを握る。
「気に入らないなら、そうすると良い」
「……そうじゃない」
耳の良いネフィリアードは小さな返答を聞き逃さなかったが、色合いが揃うのは目立つからだろう、と詮索をしなかった。




