14話 クッキーを摘まむ
「久しぶりね。アリュスちゃんのコーディネート、上品で素敵よ」
「ありがとー」
アリュスの隣に座ったミランジュがにこやかに挨拶する中、コルエはネフィリアードに紙の束を渡した。
「鑑識班からの報告だよ」
「ありがとう」
隣に座ってクッキーを摘まむコルエをよそに、ネフィリアードは報告書の内容を確認する。
踊り、暴れていた飾り達に、抵抗の痕跡有り。
外部から掛けられていた魔法は〈特定の地点へ飛ぶ〉〈落下〉〈爆発〉〈爆音〉の効力が確認されている。特定の地点に関しては、調査中。
広場の置き型イルミネーションにも同様の効果があったが、夜に発動するように仕組まれていたので被害は無し。
ツリーの建造中は大勢の見物客がいた為、犯人を特定するのは時間を有する。
「この三人を目撃した魔女がいるかどうか、調べてもらえるか?」
一旦おおまかに内容を把握したネフィリアードは、先程アリュスが描いた絵をコルエに見せる。
「この子達は?」
「昨日私がアリュスへ送った花束を枯らした」
いつもは何処かぼんやりとした様子のコルエだが、狩をする豹のように緊張の糸を一瞬で張り詰めさせる。
「枯らすなんて、政府から禁止指定されている魔法じゃないか」
魔法は万能とも呼べる力と奇跡のような現象を引き起こす。
かつて〈枯らす魔法〉は、雑草の除去の為に使用された。庭の手入れをする手間が省けると好評だったが、悪用する者は必ず出てくる。品評会でライバル達の育てた薔薇を枯らす者が現れ、最後には闇の魔女によって作物への被害が発生し、飢饉が引き起こされた。運悪く虫の大量発生の時期と重なるだけでなく、枯らす魔法によって伝染病の特効薬の材料が不足し、多くの死者を出してしまった。
魔法自体には善悪は無く、其れを操る術者によって如何様にも変化する。数多の過ちと死、苦しみを繰り返し、乗り越え、国には法が整備された。
「あぁ、そうだ。その花束を買った店に行った可能性も浮上している」
「花屋さん……リュアンナの好きな子がやってる店だね」
第一部隊の大多数は知っていそうだ、とネフィリアードは思う。
「あんまり彼女を揶揄うなよ」
「わかっているとも」
コルエはクッキーをもう一個摘まむ。
「この子達の捜索を優先する様な言い回しだけれど、他の隊に任せる事も出来るよね。どうしてだい?」
ネフィリアードは2人に、アリュスとの会話と経緯の説明をする。
「えーと? ツリーの真下を流れる地下通路に、魔方陣が書かれているのは僕達も確定だと思う。花屋さんとの会話から、その魔法陣から零れ落ちた残滓が生活用水に混入したせいで、利用しようとした魔女達に被害が出ている説が浮上し……でも、自分の不注意と思える程に被害が小さいから、通報が入って来ないと考えた。だから今日のところは被害状況を調べるために、聞き込みを続行しようとした。今は周囲のお店にリュアンナが事情聴取を行っているね」
「事情聴取を続けようとした第一の理由は、水に植物と来たから、虹の薔薇に最終的に繋がる恐れがあると考えたからね。でも、アリュスちゃんが保護されて、花束を枯らした犯人がネフィちゃんと挨拶を交わした女の子と判明して、話が変わって来ちゃったのね。ネフィちゃんの行動をずっと見ていたとすれば、花屋からブティックへ行った可能性も出て来てしまうもの。ネフィちゃん繋がりで行っていたのなら、学園の先輩が携わっているツリーの暴走も同一人物による犯行として視野に入ってしまう……飛躍している様で、共通点があるから厄介ねぇ」
「何処に転んでも大変そうだよね。花屋の店主の回答と採取した土の鑑定、そして地下水路の魔方陣次第では、この子達がツリーの飾り暴走の犯人と確定する。未成年だから背後に大人がいる可能性が出てくる。そいつが一番の悪者で、少女達を保護したいとネフィは考えている……説明はこれで合っている?」
「あぁ、まとめてくれてありがとう……その通りだ」
妙な自己解釈を入れずに、説明された内容をそのまま理解し復唱するのは、簡単なようでかなり高度な知性が必要になる。
ネフィリアードは理解してくれた2人に感謝しつつ、スケッチブックの絵をもう一度見る。
「全ての事態が繋がらずとも、枯らす魔法の使用は危険だ。あれは単に枯らすだけでなく、腐敗の意味も含まれる。マーケットでやられては、被害が拡大する」
食中毒等の問題だけではない。
禁止指定はどれも強力であるが、代償もしくは副作用が大きい物ばかりだ。目先の華やかさと幼稚な万能感に支配され、利用され、一生の後悔と罪を背負う若者の事例が多く記録されている。
これ以上罪を重ねないためにも、少女達を止めなくてはならない。
「変身されていたら、捜索が難しくならない?」
何気なくアリュスは言ったが、ネフィリアードは軽く首を振った。




