11話 捜査の中
「食虫植物もツリーも、四季の魔女の手で作り出されたものだ」
飾りを作ったのは建築の魔女だが、ツリーを生み出したのは四季の魔女である。
「彼女を疑っているのですか!?」
「早とちりをするな。彼女の食虫植物は預かりモノだぞ。四季の魔女が王都に何人いると思っているんだ」
声を荒げてしまったリュアンナを、ネフィリアードは諫める。
「先輩が四季の魔女の手で作り出したものって……」
「彼女達に品種改良された植物も、魔法で生み出された植物も、魔力を吸う能力上がある。そう続けて言いたかったんだ」
「す、すいません」
リュアンナは申し訳なさそうに謝罪をする。
虹の薔薇より産まれた時より、魔女はそれぞれの魔法の才能と性質を秘めている。系統があり、〈建築の魔女〉〈芸術の魔女〉〈四季の魔女〉と分野別に大きな枠組みを設けている。彼女達が本能的に見つけ出す星であり、多くの魔女がその職業に就いている。例え教師や清掃員、考古学者であっても、彼女達の進む道は決して変わりはしない。
「四季の魔女にとって植物達は我が子も同然だが、処分する事も出来る。植物達もそれを理解しているのなら、魔法の杖一振りで燃やせる魔女相手に消化液を飛ばすなんて命知らずだ。彼女でなければ、消し炭になっていたかもしれない」
「先輩は、あの食虫植物が不機嫌で暴れたのでは無いと御考えなのですか?」
穏やかな様子の食虫植物を思い出しながら、リュアンナは問う。
「あぁ、そうだ。彼女は水をやった後に、暴れたと言っていたからな。食べた料理に毒が混入していたように、水に何らかの魔法や呪いが含まれていたとすれば取り乱す理由になる」
何気なく聞いてしまっていた〈水〉の単語に、リュアンナは気づいた。
「長期に渡るツリーの建造は、4人の魔女の魔力だけでなく、安全対策として地下水路を利用するのが決まりですね」
「そうだ。地下水路に何か仕掛けがあると、私は考えている」
魔力は生物の体内から生成されるだけでなく、特殊な条件下を除けば、空気中、水や土など世界中に存在している。王都全域に張り巡らされている水路の水も、例外なく魔力を含んでいる。
また迷路のように入り組んだ地下水路は、生活用水と排水用の二種類が存在する。その広大さは逃げ道としても、隠れ蓑としても最適だ。
「花屋の水も地下水路から汲み上げていますが、繋がりがあるとは断定できません。他にも被害がある筈です」
ツリー本体や飾りから、担当した魔女達以外の魔力の痕跡があった。そう鑑識班から報告が上がっている。ツリーが暴走させる魔法を弾き、それが飾り達へと移った。そして、魔法の残滓が水に溶け、巡り巡って3日前から預かっている食虫植物の元へと辿り着き、今日に限って暴れ出した。あの食虫植物が水にこだわりがあるのなら、初日から何らかの行動を示している。もしそうなら、彼女は〈色々試しているのですが〉と口を溢していただろう。
流れとしては辻褄が合うが、ツリーは昼、食虫植物は夜と時間差がある。他にも被害が出そうなものだが、昨日から今日に掛けて報告は上がっていない。
「彼女のように〈自分の不注意〉として対処できる範囲内であれば、誰も通報はしない。常連である私とリュアンナだから話をしてくれたんだ」
小さな事故は〈うっかり〉〈不注意〉として、花屋の店主のように自分に原因があると勘違いしてしまう場合が多い。
便利な道具の一つとして、魔女は普段から魔法を使用する。魔法で竈に火を付け、鍋を掛けたところ突然噴きこぼれた。水を入れていたバケツを魔法で浮かせて移動させていたら、突然壊れた。そんな家庭での〈もしかして私の魔法が?〉と思わされる事態だった場合、誰も魔法騎士に通報をしない。
「戻って来たか」
井戸の中から、透明な結晶の蝶達が飛んでくる。
「使われる機会の少ない井戸へは、魔法は掛けられていない様だ」
先程の小さな包みには、食虫植物の植えられている土が入っている。水から土へと移った魔法の残滓を嗅いだ蝶達の羽は、同質の魔法を感知した場合は白く濁るが、今回はそれが無かった。地下水路と繋がらない古い井戸へは、何も工作されていないと判断して良さそうだ。
「住民からもう少し聴取をしたのち、地下水路に向かおう。植物に関する以上は、最終的に虹の薔薇に到達される危険性が含まれている。念には念を入れて、調べよう」
母なる大樹である虹の薔薇が狙われた歴史が存在する。
犯人は全て〈闇の魔女〉であった。
地下深くに眠る腐った蜜を飲み、墜ちてしまった哀れな魔女。
全ての魔女、生物には、産まれ持った負の呪いがある。
嫉妬。憤怒。怠惰。暴食。傲慢。強欲。色欲。そして憎悪と残虐性。
それらはコインの表と裏のように、心の在り方として必要不可欠である。だが、闇の魔女はそれが全て捻じ曲がっている。記録に残る闇の魔女は三者三様であり、型にはめることは困難だ。だが、〈国を亡ぼす〉と言う一点に集中している。かつて虹の薔薇を狙った闇の魔女は〈あれさえなければ、私達は苦しまなかった〉と言い残して処刑された。
過酷な環境の中で、閉ざされた国。華やかで美しいが、その輝かしさの裏には深い闇が眠っている。
生きるからこそ、其の可能性の芽は、どんなに些細でも見逃す事は出来ない。
「第一部隊の隊長さーん!」
上空から黒翼の団第ニ部隊の隊員の声が聞こえ、2人は足を止める。
外に跳ね返ったオレンジ色の髪の魔女は、箒を素早く地面へと降ろす。
「どうした?」
「先ほど隊長さんが監視を担当しているアリュスさんが、屯所にいらっしゃいました!」
着地した部下の答えに、ネフィリアードは少し驚いた。
「彼の身に何かあったのか?」
「経緯を話しますと、アリュスさんが一時間ほど前に、緊急連絡先へ紙鳥を屯所宛に送られてきて、保護の申請を受理して、我々第二部隊が保護をしたんです」
紙鳥とは、宛名の元へと鳥の姿となって飛んで行く魔法の紙だ。
ネフィリアードの監視下にいるアリュスは、帝国の魔術を内包する身である。それを利用しようと闇の魔女が近づいて来た時に備えて、〈緊急連絡先〉を用意している。
「手紙鳥の内容は、保護申請のみだったのか?」
「はい。第一部隊の隊長さんにだけに話したいのだろうって我々の隊長が判断しまして、受理して、迎えに行ったんです。お店は荒らされた様子は無かったのですが、保護を申請する程ですから、何かあります」
アリュス自身も魔術が使えるだけでなく、建物にはネフィリアードが防犯用に幾つか魔法を施しているので、基本的に犯罪に巻き込まれる事はない。
それでも報せようと手紙鳥を送った。情報を広め過ぎないように、彼なりに何か考えがあるようだ。
「わかった。リュアンナ、今日のところは街中の情報収集のみにしてくれ。気を付けるんだぞ」
「はい。わかりました」
ネフィリアードは急ぎ屯所へと戻った。




