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蒼虹結晶の樹の元で2人は契を交わす  作者: 片海 鏡


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10話 小さな事故

「ところで、髪を切る程の事故とはどう言ったものかな? 何者かによる犯行であれば、私達が力になろう」

「いえ、そんな! 事故と言うか……私の不注意で、自業自得で、1人で後始末できるものなんです」


 四季の魔女は慌てて、説明をする。


「食虫植物の子達が不機嫌な時に、水を上げてしまったんです」


〈四季の魔女〉達は植物の声が聞こえ、心を通わす事が出来る。トランプローズのように魔女の国独自の植物が存在するのは、彼女達が生み出し育てているからだ。


「昨晩の事です。水を上げる直前までご機嫌だったのですが……何かこだわりがあったようで、根から吸い上げた瞬間に怒りだしたんです。それで、消化液を掛けられてしまって……あっ、私の身体は大丈夫ですよ! 帽子を被って、眼鏡かけて、マスクとエプロンに手袋もしてましたから!」


 食虫植物の捕食方法は4つに分類されている。

 筒状の袋に消化液を貯め、甘い匂いで虫を誘い込む落とし穴式。

 貝に似た開閉式の二枚の葉を用いた挟み込み式。

 獲物に絡みつき、葉の裏にびっしりと生える腺毛から粘着性の消化液を出す粘着式。

 主に水中に住み、茎や葉にある袋状の捕獲葉の蓋が開くと水と一緒に吸い込むことで捕獲をする吸い込み式だ。

 今回は〈消化液〉と量がありそうな言い回しから、ウツボカズラ系統の落とし穴式の食虫植物と推測が出来る。


「でも、一部が髪まで飛び散ってしまって……こういう時、いつもなら首の後ろに戻すか帽子の中に入れ込むのですが、うっかりしてました」

「大きな怪我がなくて、良かったよ」


 ネフィリアードは素直な感想に、顔に影を落とした彼女は〈はい〉と小さく答えた。


「しかし……随分と危険な植物を育てているんだな」

「実は、私の育てているものではなく、預かっている子なんです。普段はしていないのですが、姉の頼みだったので」

「お姉さんに何かあったのか?」

「3日前に風邪をこじらせて、高熱が出てしまったんです。一日二回は必ず水を上げないといけない子なので、預かったんです。姉は芸術の魔女でして、聞くところによると、消化液と薬剤を混ぜて、顔料と一緒に練るための糊を作るそうです」

「消化液を?」


 顔料とは、水や溶剤に溶けない彩色材料だ。水や溶液で溶ける染料は布などの繊維に使われ、顔料は塗料や絵具として用いられる。この国で主に使われる顔料は宝石や鉱物の粉末であり、糊を混ぜて絵具を作る。

 ある程度の知識を持っているネフィリアードだが、髪を溶かす程の消化液が糊になるなんて想像がつかず、思わず訊いた。


「はい。それを使うと、絵具の伸びが良いとか……あっ、今日は機嫌がいいので、お見せしますね!」


 彼女は急いで店へ入ると、直ぐに7号の植木鉢を抱えて戻って来た。

 鉢には、20㎝以上ある立派な捕虫袋を垂れ下げているウツボカズラ科の植物が植えられている。捕虫袋は葉の中心にある葉脈が伸び、成長した姿だ。通常は緑、種類によっては赤色をしているが、これは黄色に水色の斑と特徴的だ。消化液が湛えている底の部分は特に大きく膨らみ、其れを溢さないためか今は蓋が閉められている。

 本来のウツボカズラ科であれば、成熟を示す為に蓋は開いている筈だ。


「見事なものだな」


 四季の魔女達が改良を重ねただけでなく、適切に育てられているのが見て取れる。ネフィリアードは素直に感心をした。

 褒められたことが分かるようで、そのウツボカズラ科の植物は葉を小さく揺らした。


「ありがとうございます!」


 四季の魔女はにこやかに答える。

 その後、会話を数回重ねたのち、2人は花屋を後にした。


「リュー。おまえ、殆んど会話に入らなかったが、それで大丈夫なのか?」


 前途多難な恋路に、ネフィリアードはリュアンナが心配になった。


「はい……申し訳ありません。先輩」


 肩を落とす彼女を見て、ネフィリアードは小さくため息をついた。

 生真面目で頑張り屋であるが、人見知りだった時期が足を引っ張り、コミュニケーションの能力がやや劣っている。 


「先輩は、どうしてさらっと言えるのですか?」

「私の親友2人を思い出せ」

「……そうですね」


 リュアンナは察した。


「あれはもう、場慣れだ。表現を学ぶだけでなく、思った事をきちんと声に出せるように、回を重ねるしかない」


 まさに春を体現する様な麗しきミランジュと満月の夜を写し取ったコルエ。第一部隊でも、目立つ存在だ。小さな頃から間に挟まれ、あれこれ言われ続けたネフィリアードは、かなり鍛えられている。


「花屋の会話で、何か情報は得られましたか?」


 遠い目をしそうになっていたネフィリアードを見て、リュアンナは話題を変える。

 通りを歩き続けて辿り着いたのは、非常用の井戸だ。

 ネフィリアードは懐から小さな包みと、鞘から杖を取り出す。杖の全体から透明な結晶で造られた蝶が生み出される。小さな包みを掲げると蝶達はそれに群がり、そして井戸の中へと入って行った。


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