第55話 狙い通りだけど、これは違う
【二階堂郁斗VS姫島莉菜 バトルSTART】
「来たれ、ネメア!」
「来て、マリン!」
郁斗の1体目はネメアで、莉菜はマリン。
ここからDランクプレイヤー同士のバトルでは珍しいことが起きる。
「ネメア、『ゴーストタウン』!」
「マリン、『覆海』!」
初手でフィールドを展開することによる奪い合いが始まる。
『ゴーストタウン』と『覆海』、一度に展開できるフィールドはどちらか一つだけ。
同時に二つのフィールドが展開されようとしている時、よりLvの高いフィールドが展開される。
『ゴーストタウン』はLv1のフィールドだが、『覆海』はLv2のフィールド。
Dランクのモンスターが展開できるフィールドは大抵Lv1。
郁斗は『覆海』を『ゴーストタウン』で相殺しようと考えていたが、失敗に終わった。
「マジかよ!?『覆海』ってLv2以上のフィールドかよ」
「人魚はこうでもしないとバトルにならないから当たり前でしょ」
莉菜は当たり前のように言っているが、フィールドのLvはスキルLvとは違って簡単には上がらない。
スキル毎に専用のアイテムが必要になる。
『覆海』のフィールドLvを上げる為に莉菜はポイントを貯めに貯めてショップで必要なアイテムは全て購入していた。
「ネメア、『武装召喚・グリムリーパー』『チェーンリストレイント』!」
「マリン、『アクアトルネード』!」
大鎌を召喚したネメアは先端部分から鎖をマリンに向けて放つが、『アクアトルネード』に飲み込まれマリンの元まで辿り着けない。
でもネメアには一瞬にしてマリンの元まで辿り着く術がある。
莉菜も当然、それは警戒している。
「ネメア、『影渡り』!」
「マリン、後ろに『アクアランス』!」
ネメアは『影渡り』でマリンの背後へと回り込む。
即座に反応したマリンが背後に『アクアランス』を放つが、空振りに終わる。
そこにネメアはいなかった。
マリンの影はマリンの背後ではなく、少し下の地面にあった。
『覆海』によりフィールドは水に沈んでおり、マリンは地面よりやや浮いた位置にいる。
水中のどこに影があるのか、フィールドの外にいるプレイヤーからはどこにあるのか視認しにくい。
郁斗はそれを利用してマリンを翻弄しようと画策した。
「しまった!マリン、下よ!」
「お、もう気づいたのか。でも遅いぜ。ネメア、『ファントムサークル』!」
ネメアは『ファントムサークル』で再び姿を消した。
「マリン、全方位薙ぎ払うように『アクアテイル』!」
全方位を尻尾で薙ぎ払うが、ネメアには当たらなかった。
ネメアが姿を現したのは、マリンの頭上。
そこから大鎌を振り下ろす。
「でも、ネメアは水中だと動きづらいでしょ?マリン、『アクアカッター』!それから距離を取って」
不意を突かれても莉菜は冷静だった。
距離を詰められた上に攻撃を受けたとしても『覆海』の効果が切れるまでマリンが圧倒的に有利。
水中では動きが鈍くなるネメアはこの至近距離からの『アクアカッター』を回避できなかった。
このままでは、ネメアはジリ貧になる。
「マリン、『アクアボール』『アクアアロー』!」
水中で思うように身動きが取れないネメアは『アクアカッター』に続き、『アクアボール』も回避できなかった。
「ネメア、泳いでマリンに近づけ。今ならクールタイムで攻撃は来ない」
「マリン、近づてないように適当に泳いで。近づかれたら、『アクアダイブ』!」
ヤケクソになっているとしか思えない指示。
水中で泳ぎの速さを競おうものならネメアはマリンには勝てない。
それがわかっているから莉菜は落ち着いてマリンのスキルがクールタイムから明けるのを待っている。
一応、『覆海』の時間切れによる形勢逆転という心配要素はあるが、これはどうにもできない。
莉菜は気にするだけ無駄と割り切っていた。
「よし、明けた!マリン、『アクアトルネード』『アクアランス』『アクアカッター』『アクアボール』『アクアアロー』!」
「ヤバ!ネメア、『武装召喚・グリモワール』『ブラックホール』『ダークランス』『ダークアロー』『ダークボム』!」
慌てて武器を大鎌から魔本に切り替え、『ブラックホール』でマリンの放った魔法を吸い込もうとする。
しかし、『ブラックホール』で全ての魔法を吸い込むことはできなかった。
残りは『ダークランス』『ダークアロー』『ダークボム』で迎撃するが、それでも撃ち漏らした魔法がネメアに直撃した。
これでネメアの残りHPが2割近くまで削られる。
それと同時に郁斗は不敵な笑みを浮かべる。
「『チェーンリストレイント』!」
「え、嘘!?」
ここで突如としてマリンの影から現れたネメアが大鎌の鎖でマリンを拘束することに成功する。
実はここまで郁斗はわざと焦ったふりをしていた。
莉菜がマリンに安易に攻撃の指示を出すようにした。
タイミングを見計らい、『影渡り』で移動し、『チェーンリストレイント』を発動する。
郁斗は最初からこの展開を予想していた。
『覆海』が時間制限付きスキルだとわかった時にここまで見えていた。
「こんな拘束意味無いから。この状態でも魔法は放てるし」
「それはどうかな?」
莉菜は『チェーンリストレイント』の詳しい効果を知らない。
いや、大鎌の先端部分から出た鎖で相手モンスターを拘束するだけのスキルと思い込んでいる。
実際には、拘束されたモンスターは魔法スキルが使えなくなる。
ただし、既に発動しているスキルが消えたりはしない。
再びスキルのクールタイムが明けて攻撃に移ろうとした時、莉菜はそれに気づいた。
本来なら、ネメアは鎖を手繰り寄せて拘束しているマリンに一方的に攻撃したいところだけど、上手くいかない。
水中なので、鎖で拘束してもマリンはまだ動ける。
綱引き……この場合は鎖引きのような感じでお互いに引き合っている。
いや、水中で踏ん張りがきかないネメアが一方的に引っ張られていた。
時間切れでネメアの『チェーンリストレイント』によるマリンの拘束が解かれた。
結果的には奮戦虚しく、拘束から開放されたマリンの攻撃によってネメアは倒れる。
【ネメア DOWN】
◆◇◆◇
「郁斗の作戦通りに進んでる筈だと思うのに何だろ」
なんか観客席でバトルというより、ショーを見てる気分。
「これも作戦……ではありませんね」
「すっごい顔が引き攣ってる」
オリヴィアと海夕もちょっと苦笑い。
郁斗の作戦がハマってるんだろうけど、さすがにこれは……
てか、莉菜はお腹を押さえて爆笑してる。
ほんとバトル中とは思えないな。




