第38話 シグマとの邂逅
「はじめまして、鬼灯蓮です。Aランクプレイヤーのシグマさんが直接調査に来てるんですね」
「そうだな。私たち"プロフェッサー"は以前、ゴブリンの進化は決まってワンパターンで、最終的にゴブリンキングになると公表している。しかしだ!ここにゴブリンに新たな可能性があることを示唆したダンジョンが運営によって新しく用意された。これは私たちの検証結果が間違っていると遠回しに言われているのだよ。だから私が直接調査に来ている」
すごい力説されたけど、話を聞くとなるほどって思う。
プロフェッサーが公表した情報が間違っている可能性がある。
こういった検証にやりがいを感じてそれだけに時間を費やしている人たちからすると死活問題なのか。
「君のことは蓮くんと呼んでもいいかな?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
「では、蓮くん。君には聞きたいことが幾つかある」
ちょっと待って。
シグマさんがオレのこと知ってるのもだけど、聞きたいことってなに?
もう理解が追いつかないよ。
「後ろにいる3体のモンスターが蓮君のモンスターかい?」
「え、あ、そうです。えっと、このプルプルしてる赤いスライムがブルー、こっちの人類種のモンスターがリーフィア、白い狼がラグニアです」
「ほう?この赤いスライムが噂のスライム、ブルーか。なるほど丁寧に育成されているのが伝わってくるな」
プルプルプルン
褒められたからか、ブルーがすごく嬉しそう。
「……聞きづらいんですけど、シグマさんはなんでオレのことを知ってるんですか?」
「ん?ああ、君はある意味有名人だからね。私以外にも蓮くんのことを注目してる人はたくさんいるよ」
あのシグマさんにここまで言ってもらえるなんて!
普通のEランクプレイヤーにはありえないことだ。
白黒学園の名前はやっぱり大きいな。
「蓮くん、ブルーがどうやって魔法適正を得たのか教えてもらってもいいかな?もちろんタダでとは言わない。君の知りたい情報は何でも開示しよう」
ブルーがどうやって魔法適正を得たのかを話すだけでなんでも知りたい情報を教えてくれる!?
プロフェッサーが一般には公開していない情報は全て買う以外の方法で教えてもらうことはできない。
そこまで価値ある情報とは思えないけど……
「えっと、ゴブリンメイジを合成したら魔法適正と『プチファイア』を取得しました」
「ゴブリンメイジか……」
プルプルプル、プヨプヨ
ブルーがオレの足下でプルプル、プヨプヨしてる。
まるでなにかを訴えかけているかのよう。
前にも似たようなことがあったような……
あ、ブルーがリーフィアに抱き抱えられて連れていかれた。
そういえば、ブルーに合成する時も似たようなことされたような気がする。
「関係あるかはわかりませんが、あの時ゴブリンメイジをブルーが選んだというか、アピールされて合成したんです」
「ほう!それは貴重な情報だ!なるほど、ブルーが自ら選んだか。最近、似たような報告は受けていたが、ここに繋がるか!」
今すごいことサラッと言ってたような……
さすがに気のせいだよね。
「いやあ、失礼した。少し興奮してしまった。情報の対価はちゃんと支払わないと。蓮くん、なにか聞いておきたいことはあるかい?なんでもいくつでもいいよ」
「え、一つじゃないんですか?」
「君の将来性への投資も兼ねているからね。面白いモンスターたちを君は連れている」
モンスターたち?
ブルーだけじゃなくてリーフィアやラグニアも含まれてるのかな。
いや、今はそれよりもこんな機会は普通じゃ絶対にない。
ここはシグマさんの言葉に甘えよう。
「二つ聞いてもいいですか?」
「ん?二つだけかい?もっと聞いていいんだが」
「今、パッと思い浮かんだのが二つだったので」
「そうか。で、何を聞きたい?」
「『遊楽園』のことを教えて欲しいです」
「……」
しばらく無言の時間が続く。
オレたちは第一エリアの等活地獄すら攻略できなかった。
でも、攻略を諦めたわけじゃない。
もっと力をつけて再挑戦する。
その時のために『遊楽園』についての情報がもっと欲しい。
「蓮くん、悪いことは言わない。今の君たちには『遊楽園』攻略は無理だ。諦めた方がいい」
君たち?
オレにはじゃなくて君たちには無理ってシグマさんは言った。
シグマさんはオレたちが過去『遊楽園』に挑戦したことあるって知ってるんじゃ……
いや、この感じ間違いなく知ってる。
「それはオレ一人じゃなくて、郁斗たちを含めた五人でも無理ってことですか?」
「そうだ。君たち五人による合同攻略でも攻略できるとは思えない。前回の二の舞になるだけだ」
「シグマさんは知ってるんですね。オレたちが五人でパーティーを組んで『遊楽園』に挑戦したことがあることを」
「プロフェッサーの情報網を甘く見てもらっては困る。蓮くんたちのような将来有望株のプレイヤーがパーティーを組んであの『遊楽園』に挑戦した。知らないわけがない」
そうなると、シグマさんは全てを知った上で無理だって言っているのか。
実際にシグマさんほどの人が無理って言うなら無理なのかもしれない。
でも、そう簡単に諦めるわけにはいかない!
みんなと必ずリベンジするって約束したから。
「諦めは悪そうだな。そもそも『遊楽園』は元世界最難関ダンジョンの一つだ。今でこそ世界難関ダンジョンだが、攻略難易度は変わらず高い。Eランクであのダンジョンを攻略するのは無理だ」
え、元世界最難関ダンジョン?
どういうこと?
攻略難易度が高いのは理解してるけど、元世界最難関ダンジョンってなに?
「それってつまり、『遊楽園』は世界最難関ダンジョンから世界難関ダンジョンにランクダウンしたってことですか?」
「ああそうか。最近ゲームを始めた世代は知らないのか。蓮くんはそもそも世界最難関ダンジョンと世界難関ダンジョンの違いを知っているかい?」
なにかあるんだろうなとは思ってたけど、気にしたことなかったな。
「知りません」
「簡単に説明すると攻略者がいるかどうかだ。世界最難関ダンジョンは未だに誰も攻略したことのないダンジョン。世界難関ダンジョンは攻略者こそいるが、その数が十人を下回るダンジョンだ」
「『遊楽園』が世界難関ダンジョンになったのは新垣さんが攻略したから、か」
「さすが輝夜の偉業の一つをしっかり把握しているな。」
さすがは12神序列1位のプレイヤー。
でも、あの人が『遊楽園』を攻略したのって確かEランクの時だよな。
「新垣さんはEランクの時に攻略してるのにオレたちにはできないんですか?」
「痛いとこを突くな。輝夜は例外さ。輝夜を基準に考えない方がいい」
シグマさんの言う通りかもしれない。
12神の序列1位にまで上り詰めた人。
あの人にできたからといってオレたちにできるとは限らない。
寧ろできない事の方が多いと思う。
それでもそれが挑戦しない理由にはならない。
「諦める気はなさそうだね。『遊楽園』をどうしても攻略したいなら攻略した本人に直接話を聞いたらどうだ?自分たちがいかに無謀な挑戦をしようとしているかがわかるぞ」
「え?本人?どういうことですか?」
「そのままだ。輝夜には私の方からアポは取り付ける。あとは蓮くんの好きにするといい。ああ、その為に連絡先を交換してくれると助かるな」
どうしてこうなった?
気づいたら新垣さんにシグマさんからアポを取り付けてもらえることになってる。
ちょっとどころじゃないくらい意味がわからないけど、連絡先だけ交換しよ。
………ん?シグマさんと連絡先を交換?
これ滅茶苦茶すごいことじゃ。
なんか感覚が麻痺してる気がする。
「『遊楽園』についてはあとは輝夜に任せるし、二つ目の質問を聞こうか」
「え、あ、はい。ありがとうございます?えっと、二つ目の質問ですが、気を悪くしたならすみません。シグマさんはプロフェッサー結成時のメンバーの一人だったと思います」
「よく知っているな」
「なんでシグマさんはプロフェッサーという検証ギルドを結成しようと思ったんですか?」
シグマさんたちはプロフェッサーという一風変わったギルドを結成している。
プロフェッサーはプレイヤーのランク問わず、多くのプレイヤーが在籍している。
その結成理由を知りたい。
そしたら、オレの中で明確にギルド結成の答えを出せる気がする。
「蓮くん、君は何か悩んでいるといった感じがするな。私たちがプロフェッサーを結成した理由か。元々面白可笑しくゲームを楽しみたかったからさ。それが気づいたら検証ギルドプロフェッサーになっていた」
面白可笑しくゲームを楽しみたかったからギルドを結成した。
それだけ……
もっと深い意味があるもんだと思ってた。
「蓮くん、これはゲームの先輩である私からのアドバイスだ。モンスターと共にゲームを楽しめ!そして高みを目指せ。それが今の君には欠けている」




