第2話 初バトル
チュートリアルが終わって、ランダムスキルの書をもらった。
と言っても、どうしたらいいかわからないからネットでいろいろと調べた。
その結果、これを使えばモンスターにランダムでスキルを一つ取得させることができるとわかった。
ただ、何でも取得できるわけではない。
ランダムスキルの書を使ったモンスターと相性の良いスキルしか取得しない。
使わずに置いとくのは勿体無いし、それにオレはこのスライムをオリジナルモンスターに育てたい。
それなら、こういう強化に繋がるアイテムは積極的に使っていかないと。
でも、その前に名前を付けようと思う。
さっきランダムスキルの書について調べて、もう一つわかったことがある。
このゲームはモンスターに名前を付けると特殊な進化を遂げる可能性が生まれる。
これに関しては、ゲーム運営が公式に認めていること。
だけど、デメリットが無いわけじゃない。
一度、モンスターに名前を付けると簡単には手放せなくなる。
これは超が付くほど大事で、一人のプレイヤーにつきモンスターは5体までしか仲間にできない。
もし、名前を付けたモンスターの育成に失敗したら、その貴重な一枠を永遠に埋めることになる。
一応、救済手段として手放す方法もあるけど、かなりコストが高い。
ネットでも、名前を付けたモンスターは手放さない前提のゲームと評価されている。
まあ、オレはこのスライムを手放すつもりなんて無いから関係ないけど。
……えっと、名前を付けるには、モンスターのステータスウインドウを開いて、そこから名前の欄を選択し、名前を入力する必要があると。
ヘルプの項目で名前の付け方を確認し、その通りに実践した。
今、オレの目の前には名前を入力するウインドウが表示されている。
ここにオレが考えた名前を入力すると、スライムのステータス欄にしっかりと名前が反映されていた。
「今からおまえの名前はブルーだ。よろしくなブルー」
プル、プル
小さく震えて感情表現？をしているブルー。
正直、喜んでいるのかどうかさっぱりわからない。
その後、いろいろとブルーとやり取りを重ねて、小さく震えるのは肯定や喜びを表している。
逆に大きく震えるのは嫌だと拒絶を表していることがわかった。
名前を付けたことだし、次はランダムスキルの書を使う。
今はスライムとしてLv1の初期ステータスだからスキルも『体当たり』しか取得していない。
だから、これで『体当たり』以外の攻撃スキルを取得してくれると助かる。
そう祈りながら、オレはランダムスキルの書をブルーに使用した。
【ブルーは『マジックシールド』を取得しました】
『マジックシールド』って名前からして防御スキルか。
実際にスキルの詳細を確認してみたら、魔法を防ぐ専用の防御スキルだった。
序盤じゃ、魔法を使って攻撃してくるモンスターが少ない。
スキルは一度使うとクールタイムに入って、その間は使えない。
それを考えると、ちょっと微妙かな。
いや、ここはあれだ。
Lv1で防御スキル、それも魔法防御スキルを取得しているスライムなんて世界中を探しても他にいない――筈だ。
うん、確実にオリジナルモンスターへ一歩踏み出せてる。
実際に今のブルーのステータスはこんな感じ。
名前：ブルー Lv1
種族：スライム
カテゴリー：一般種
HP：100
物理攻撃力：3
物理防御力：8
魔法攻撃力：0
魔法防御力：2
素早さ：1
SP：０
《スキル》
『体当たりLv1』
『マジックシールドLv1』new
魔法攻撃力が「0」は魔法適性がないモンスターという証で、ブルーは魔法が使えない。
まあ、スライムが最初から魔法を使えたら、そっちの方がびっくりする。
SPはステータスポイントのことで、Lvが1上がれば1増える。
これはプレイヤーが自由に割り振れるけど、元から「0」のステータスとHPには振れない。
HPは（物理防御力＋魔法防御力）×10で算出され、ブルーの場合、（8＋2）×10＝100となる。
ブルーのステータス確認も終わった。
正直、弱いけど、こっからダンジョンでLvを上げていけばいい。
ダンジョンと言ってもARゲームだから当然、現実にちゃんと用意されている。
安全性が確保されている公園や遊園地、大型ショッピングモールの一角などをダンジョンとして許可を得た上で活用できるよう整備されている。
だから人気のあるダンジョンの近くを通ると、ARゴーグルを着けた人がたくさんいる。
安全面の配慮から道端で歩きながらゲームはできない。
中にはモンスターを連れて歩けるからARゴーグルを着けている人もいる。
とりあえず、近場で初心者向けのダンジョンが無いかを調べてみた。
すると、Ｇランクの初心者専用ダンジョン『ゴブリンの集落』が見つかった。
しかも、場所は近所の公園。
最近、新しくダンジョンが実装されたとは噂程度で聞いてたけど、ここみたい。
だけど、誰一人プレイヤーを見ないと思ったけど、Ｇランクの初心者専用ダンジョンだからだ。
Gランク専用だとFランク以上のプレイヤーは挑戦できない。
その上、《Let's Monster Battle》は15歳以上、正確には高校生以上しかプレイできないから、Gランクの初心者プレイヤーは春、4月や5月に多い。
プレイする人のほとんどが高校入学が決まった4月1日にプレイし始めるから。
実際にARゴーグルを着けた状態で公園に着くと見慣れた筈の景色が全く見たことがない集落と化していた。
これがダンジョンか、すごいリアリティ。
実際にどこかの部族の集落が公園に転移してきたと言われても信じてしまうレベルでリアルだ。
やばい、すごく心臓がバクバクする。
プルン、プルプル
「……え、あ、ちょっ、ブルー！？」
痺れを切らしたのかはわからないけど、ブルーが自分だけ先にダンジョンの中へ入って行った。
慌ててその後を追う。
ブルーはすぐに見つかった。
ゴブリンというおまけ付きで。
……完全にオレたちというか、ブルーを見ている。
これ逃げるは無理、かな？
プル
「グギャグギャ」
ブルーが少し後退りした瞬間、声を荒げて向かってきた。
うん、無理だ。戦うしかない。
とりあえず、攻撃しないと。
「ブルー、『体当たり』」
プル、プルン
迫り来るゴブリンに対し、『体当たり』で反撃を試みたが、ゴブリンの右ストレートがブルーを殴り飛ばした。
プルプルと地面を転がり、プルプル！と激しく震える。
ジャンプし、上から覆い被さるように追撃をするゴブリン。
再び右の拳がブルーを捉えると思われた瞬間、プルと滑るように少しだけ横に逸れ、攻撃をギリギリの所で回避した。
ドコッ！
「グギャッ……！」
攻撃が空振りに終わり、体勢が崩れたゴブリンに対して、ブルーの『体当たり』が横から決まった。
「ブルー、もう一回『体当たり』！」
プル！
この攻撃でゴブリンのHPはゼロになり、エフェクトをまき散らしながら消える。
「勝ったよね……」
もう何が何だかって感じで始まったバトルだったけど、勝ててよかった。
ブルーもプヨンプヨンと飛び跳ねて、喜んでる。
それからオレとブルーはゴブリンとの正面戦闘は避けて奇襲を繰り返した。
『体当たり』のクールタイムが1秒に満たないから反撃される前に連続攻撃で倒せた。
ただ、最後のゴブリンメイジ戦はかなり危うかった。
これまでと一緒で背後からの奇襲が成功し、そのまま連続攻撃を仕掛けたけど、体勢が崩れ、倒れたまま火属性の魔法で反撃された。
咄嗟にブルーが『マジックシールド』を使ったからダメージを抑えることができたけど、それでも9割近く持って行かれた。
奇襲が上手くいって油断していたとこもあったから油断禁物と学んだ。
一応、勝てたけど、それでも最後の最後で後味の悪い結果となった。
