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サイハレ -最下層農民、精霊の力で皇帝まで成り上がる-  作者: イヌイエン
第二章 王都セリオン

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第40話 大地と神を結ぶ場所

 (……何だ、ここは)


 石造りの巨大な門をくぐった直後、目の前に広がったのは、信じがたいほど活気に満ちた光景だった。

 ここが、王都・セリオン。

 この国の中心。テルヴァニア王国の心臓。


 無数の人々が、絶え間なく行き交っている。

 荷車を押す商人、香辛料を売る行商人、楽器を奏でる旅芸人、軍服を着た兵士。

 あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。


 煉瓦造りの建物が並び、上階の窓からはたくさんの洗濯物が風に揺れている。

 屋台で焼かれた肉と香草の香りが混じり合い、美味しそうな匂いが至る所を満たしている。

 この街は、まるで巨大な生き物のようだった。


「……凄すぎる……ここが、セリオン……」


 声に出すと、胸の奥が震えた。

 カレンソのような静かな村で育った俺にとって、あのエルドリッジでさえ眩しい都会だった。

 だが、セリオンはその何倍も、いや何十倍も圧倒的だった。

 その巨大さ、眩しさ、そして人の多さ。

 俺は立ち尽くし、ただ見上げていた。


 街の通りを歩く途中、商人風の男に声をかけた。


「あの、すみません!今日は何日ですか?」

「え?な、何だ急に……?二十四だが、どうした、あんた旅人か?」


 男は怪訝な顔をしたが、答えてくれた。


 俺は息を呑んだ。

 間に合った!

 入団試験は二十五日。つまり、明日だ。

 一日もあれば、明日に備えてゆっくり休むことができる。


「そんなことより、あんた……だ、大丈夫か? ずいぶん、その……ボロボロじゃないか」


 男の視線が、俺の姿を上から下まで見回すように動いた。

 そこで初めて、俺は今の自分の格好に気づいた。


 出発前に買ったはずの服は裂け、靴底は半ば剥がれかけている。

 そして、旅の過酷さを物語るかのように、手と足は泥と埃にまみれている。

 まるで"物乞い"だ。


「や、ちょっと……長旅で。近くに宿屋はありますか?」


 男は俺の身なりを見て警戒していたが、近くの宿屋の場所を教えてくれた。

 俺は礼を言い、押し寄せる人の波に紛れながら歩き出した。

 

 宿屋までの道を歩いていると、一際大きな建物がふと目に入った。

 セリオンの中心にそびえ立つ、太陽の光を反射しながら燦々と輝く"巨大な塔"。

 黄金の装飾が眩しく、遠目にも威厳を放っている。


 (あれが、王宮か)


 あそこに、この国の皇帝、テルヴァニア六世がいる。


 王宮は、今から七百年前、アルトリウス一世がこの国を建国した時から存在する、いわばテルヴァニアの"象徴"だ。

「テルヴァニア」とは、“大地と神を結ぶ場所”を意味する古代語だと聞いたことがある。

 その名に相応しく、王宮の塔はまさに天へと届こうとしているかの如く、巨大だった。


 その荘厳さに目を奪われていると、突然、怒声が響いた。


「おい!どこ見て歩いてやがんだ、このアマっ!」


 群衆の視線が一点に集まる。

 俺も思わず立ち止まり、声の方を見た。


 野次馬の隙間から覗くと、粗野な服装の男たち三人が、一人の女性に絡んでいた。

 女性はエメラルドグリーンの髪を持ち、グレーのフード付きマントをまとっている。


 女性はフードを被っているものの、その顔立ちが驚くほど整っていることに俺は気づいた。

 

 (うわ。綺麗な人だな……)


 だが、彼女の目は固く閉じられたままだった。

 そして、片手には杖のようなものを持っている。

 彼女が盲目であることは、すぐに分かった。


「も、申し訳ございません……!」


 彼女は悲しそうな顔をして、深々と頭を下げる。

 見ると、男の胸元には飲み物の染みが大きく広がっていた。

 おそらく、ぶつかってこぼしたのだろう。


「どうします?兄貴」

「どうするもこうするもねぇだろ!こんな大勢の前で恥かかせやがってよ……」


 兄貴と呼ばれた男は、女の姿を舐めるようにゆっくりと目線を動かした。

 その目は、明らかに下卑ていた。


「なあ……ちょっとそこまで一緒に来てもらえるか、お嬢ちゃんよ。まあまあ、悪いようにはしねーよ」


 そう言いながら、男は女の手首を掴んだ。


「えっ……い、いや、ちょっと……!」


 女性が抵抗するが、男の手は離れない。

 その様子を見ても、周囲の人々は誰も動かなかった。

 野次馬たちは距離をとり、見て見ぬふりをしている。

 皆、騒動に巻き込まれたくないのだ。


 俺は、激しい苛立ちを覚えた。


 (あいつら……!!)


 誰も女性を助けないこの異様な状況、よりも、男達の身なりに見覚えがあったからだ。

 あの服装。あの粗野な言葉遣い。

 間違いない。グランヒル山脈で、俺を昼夜問わず襲ってきた盗賊団と同じ一味だ。


「いいから来いって言ってんだよっ!!」


 男が女の腕を乱暴に引こうとした、その瞬間。

 俺は、反射的に"精霊の力"を使っていた。

 

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