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サイハレ -最下層農民、精霊の力で皇帝まで成り上がる-  作者: イヌイエン
第一章 出会い

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第30話 どうか、助けて

「……引き継ぐって……そんなこと……お父様が許すわけがない!私だって——!」


 叫んだ。声が震えていた。ルシアンは微笑を崩さない。


「ああ、許していただかなくて結構ですよ。あなた方お二人は、ここで“亡くなる”運命ですから」

「え?……な、なにを言っているのですか……?」


 理解が追いつかない。いや、理解したくなかった。

 この男は、おそらく本気で言っている。


「そ、そんなことをしたら……あなたがどうなるか分かってるの……?」


 声が裏返った。怒りよりも、恐怖のほうが強かった。

 ルシアンは一瞬だけ目を細めた。

 それは、まるで憐れむような眼差しだった。


「ご心配ありがとうございます。ですが、私の罪は、すべて“彼”が被ってくれるので、何も問題ありません」

「彼……?」

「ローガン・アースベルト。今頃、憲兵隊に追われて逃げ回っているでしょう。まあ……捕まるのも時間の問題でしょうが」

「そんな、ローガンが……!」


 息が詰まる。

 どうして?

 どうして彼がそんな目に遭わなければならないの。

 彼は何もしていないのに。


 「ロ、ローガンが捕まったとしても、彼が証言するでしょう!あなたに罪を被せられたと!そうすれば、あなたの立場は……」

 「彼と私……このエルドリッジの民は、一体どちらを信じるでしょうか?彼の言うことなど、見窄らしい農夫の戯言だと聞き流されるだけでしょう」


 ルシアンはそう言い放つと、突然腰に差していた短剣を抜いた。

 光が銀の刃に怪しく反射している。


「さて——」


 彼は私を見下ろしながら言った。


「どちらがいいでしょうか?お父上の後を追うように死ぬか。それとも、先に逝ってあの世でお父上をお待ちになりますか?どうぞ、お好きな方を選んでください」


「……っ!」


 全身が強張る。

 息が浅くなる。

 動けない。

 足が震えて立ち上がれない。


「や、やめて……お願い、やめて……!」


 私は縋るように叫んだ。

 だが、ルシアンが持つ短剣は私に向かって止まらない。

 彼の目は氷のように冷たく、何の感情も宿していなかった。


 短剣の切っ先が、ゆっくりとこちらに向かう。

 もう、逃げられない。そう思った。


(ローガン……!)


 心の中で、ただ彼の名前を呼んだ。

 助けて。どうか、助けて。


 その瞬間。


「リアナッ!!」


 私は倉庫の扉の方に目を向ける。

 そこには、息を荒げたローガンが立っていた。その後ろには、顔に包帯を巻いた男の姿がいる。


「……おや?よくここがわかりましたね」


 ルシアンは少し驚いたような顔をして言った。


「ルシアン……お前……!!」


 ローガンの声は怒りに震えていた。

 肩で息をしながらも、真っすぐにルシアンを見据えている。


「なぜ、ここにいると?」


 その問いに、ローガンは静かに答えた。


「……リアナは、決勝が始まる五分前に俺に会いに来た。その後に誘拐されたとしたら、闘技場からあまり遠くには行けないはずだ」

「なるほど?」


 ルシアンの声は淡々としている。

 その目は氷のように冷たく、どこか退屈そうですらあった。


「それに、誘拐するだけなら、わざわざ爆発なんか起こす必要ないはずだ。大時計をあんな派手に吹き飛ばしたのは、闘技場から人を追い出すためだったんだろ」

「へえ……見かけによらず、随分と頭が回るんですね、あなたは」


 ルシアンが口角を上げた。皮肉とも称賛ともつかない、冷笑。


「闘技場に戻ったら、案の定ドレグの手下がいやがった。そいつを締め上げたら、あっさりと居場所を吐きやがったぜ」


 ローガンの隣で、顔に包帯を巻いた男が低く笑った。

 ルシアンはその男を見ると、軽く首を傾げる。


「……あれ?おかしいですね。試合では、殺すつもりで殴ったんですが」

「ふざけんな!このフィン・マーロウが、そんな簡単にくたばるかよ!」


 包帯の男、フィンが吐き捨てるように言った。

 血のにじむ包帯の下から覗く瞳には、激しい怒りが宿っている。


(フィン・マーロウ……?)


 準決勝でルシアンに敗れた男。大怪我を負って運び出されたはずの……。

 どうして、その彼がローガンと一緒にここに——?


「どんな手を使ったか知らんが、ドレグをカースヴェイン監獄から釈放したのも、奴を大会に出場させたのもお前だな?ヴァルデック」


 フィンの声が低く響く。

 その名を聞いた瞬間、ルシアンの表情がわずかに動いた。

 だが、答えはしなかった。沈黙が続く。


「リアナとオーランドさんを今すぐ解放しろ、ルシアン……!」


 ローガンが怒声を放つ。

 だが。


「ローガン!危ないっ!」


 私の口から、思わず叫びが漏れた。


「えっ——」


 その言葉が終わるより早く、背後の闇から複数の影が飛び出した。

 ドレグ。あの巨体がローガンの背後に立っていた。ドレグがローガンの後頭部を殴りつける。

 次の瞬間、鈍い衝撃音が響く。


「ぐっ……!」


 ローガンが床に崩れ落ちる。

 さらに、ドレグと共に現れたもう一人の賊が、フィンの頭を後ろから棍棒で殴りつけた。


「——っ!」


 包帯の隙間から、さらに血が滲む。


「ローガンっ!」


 私は叫んだ。

 だが、その声は何の助けにもならなかった。


【作者からのメッセージ】

みなさま、いつもお読みいただきありがとうございます!

おかげさまで、30話を超えることが出来ました。本当にありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、★★★★★評価やブックマーク追加をしていただけたら、今後の励みになります。

これからもどんどん続けていきますので、今後ともよろしくお願いします!

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