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第28話 絶対に見つけ出す

 馬は、狂ったように街道を駆け抜けていた。

 夕陽に照らされた土埃が舞い上がり、風が身体をすり抜けていく。


「あーあ。とんでもねーことになっちまったなあ!ローガン!」


 フィンが前方で叫んだ。血まみれの包帯の隙間から、奴の白い歯が見える。

 俺の頭の中は混乱の渦だった。


「わけがわからん……!なんで俺が“リアナの誘拐犯”だと思われてるんだ……!?」


 喉が焼けるように痛い。心臓が早鐘を打っている。

 リアナ。リアナは無事なのか?

 俺が、彼女を誘拐?そんな馬鹿なことがあるか。


 誰かが仕組んだ。そうとしか考えられない。

 脳裏に、冷たい笑みが浮かぶ。

 ルシアン。


 あいつはまるで、大時計が爆発するのを事前に知っていたかのようだった。

 そして、俺に向けた笑みと「さようなら」という言葉。

 爆発の直後、群衆の混乱の中で、ただ一人静かに微笑んでいた。


「……ルシアン、か?」


 呟くと、フィンが低く笑った。


「そう、お前はまんまと嵌められたんだよ。ヴァルデックの野郎にな」

「なんでルシアンが俺を……」


 あいつと会ったのは、今日で二回目だ。

 恨まれる理由なんてない。


「リアナ……!まさか、ルシアンがリアナを……!?」

「だろうな。まあ、実行したのは奴の部下かもしれんが……計画したのは間違いなくヴァルデックだ」


 フィンの声が、風を切りながら重く響いた。

 どういうことだ。何で護衛のはずのルシアンが、リアナを誘拐する?


「一旦、俺の隠れ家に行くぞ。少し休む時間が必要だろう。俺もお前も」


 フィンが馬を操り、森の方角へ進路を変えた。


 .

 .

 .


 エルドリッジの郊外。

 木々が生い茂る森の奥に、煉瓦造りの古い倉庫のような建物があった。

 入口の鉄扉を押し開けると、湿った空気が流れ出てくる。

 中には古びた机と椅子がいくつかある。埃が積もり、あまり使われていないのが一目で分かった。


「まあ、好きに座ってくれ」


 フィンが息を吐き、俺たちは椅子に腰を下ろした。

 しばらく無言の時間が流れた。

 風の音と、俺たちの息遣いだけが聞こえる。

 俺は、口を開いた。


「すまない、フィン。恩に着る」

「礼はいらんさ」


 フィンは窓の外を見ながら、淡々と言った。


「なんで助けてくれたんだ?俺を救っても得なんてないだろ。むしろ、容疑者の逃亡を手伝ったって、お前まで追われる」


 今日出会ったばかりの男が、命懸けで助けてくれる理由が分からなかった。

 ましてや、ルシアンにやられた傷の深さを考えれば、フィンがまともに動けるはずなかった。


「……まあ、俺にも事情があるのさ」


 フィンはゆっくりと笑った。


「ヴァルデックの野郎には、いくつも借りがあんだよ。それを返すまでは、俺は退けねーんだ」


 今日の試合での、フィンのルシアンへの激昂。

 リアナを巡って、じゃない。フィンはルシアンに対して何か深い怨みを抱えている。


「そんなことより!」


 フィンは急にこちらを振り向いた。


「ローガン。お前、リアナ嬢とどういう関係だ?さっき呼び捨てにしてただろ。面識あんのか?」

「……」


 俺は少し迷ったが、嘘はつけなかった。

 すべてを話した。俺がカレンソ村の出身であること。リアナが俺の幼馴染であること。三年ぶりの再会だったこと。


「……なるほどな。そういうことか」


 フィンは納得したように頷く。

 だが次の瞬間。


「けどよ、ローガン。お前、まだ隠してることあんだろ」

「……何の話だ?」

「とぼけんじゃねーよ。お前、剣の素人だろ。構えで分かる。なのに試合では一撃で勝ち続けた。……一体どういうカラクリだ?」


 逃げ場のない眼差しだった。俺は観念して、深く息を吸った。


「信じられないかもしれんが、今から話すことは全部本当だ。俺がどんなことを言っても、嘘だと思わないで最後まで聞いてくれ」


 フィンは腕を組み、「ほう」と笑う。


「いいぜ。俺はこれでも、数々の修羅場をくぐってきた男だ。このフィン・マーロウ、ちょっとやそっとじゃ驚かねえ!」


 俺は全てを話した。

 ある日、精霊に出会って力を分けてもらったこと。

 その力は、五秒だけ時間をゆっくりにすることができること。

 俺は試合でその力を使って相手を倒していたこと。

 ……流石に"交尾"の話はしなかったが。


 フィンは話を聞き終えると、ぽかんとした顔をした。


「いや、さすがに嘘だろ。俺を騙すなら、もうちょいマシな嘘つけ!」


 まあ、フィンの反応は予想通りだった。

 俺だって何とか証明したかったが、満身創痍の今の状態では精霊の力は使えないのが自分でも分かった。


「でも、まあ……」


 フィンは、真剣な目で俺を見た。


「お前の目は嘘つきの目じゃなかった。話の真偽はさておき、それだけは分かる」


 その言葉が、不思議と胸に沁みた気がした。


「さて、これからどうする?」


 フィンの問いに、俺は迷いなく答えた。


「まずはリアナを探す。そして、ルシアンを倒して俺の疑いを晴らす」


 口に出した瞬間、自分の中の迷いが少しだけ消えた気がした。


 リアナ。

 絶対に見つけ出す。

 必ず、俺の手で。


「……まあ、そうだよな」


 フィンは静かに笑った。その言葉が聞きたかったと言わんばかりに。


「でもよ、エルドリッジ中を探すのは俺たち二人じゃ無理だぞ。それに、監禁場所の見当なんて全くつかねえ」

「そうだな……」


 フィンの言うことはもっともだ。

 俺は、考えた。

 そして、ある一つの仮説を思いついた。

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