第18話 勝利の実感
――闘技場。ローガンは、自分の置かれた状況が信じられなかった。
「勝者、ローガン・アースベルト!」
審判の声が闘技場に響く。
大歓声の渦の中、俺は闘技場の中央に立っていた。
汗が頬を伝い、胸の鼓動がまだまだ収まらない。木剣を握る手が、かすかに震えている。
(正直……相手が“屠殺のドレグ”だと知ったときは、終わったと思ったが)
足元には、泡を吹いて失神している巨漢、ドレグが横たわっていた。
無残なほど、静かに倒れている。さっきまで殺気を放っていた怪物が、今はただの肉の塊のように見える。
(……俺が、こいつを倒したのか。ただの農夫の俺が)
信じられなかった。現実味がなかった。
けれど、体は確かに覚えている。
オルミアの戦法(?)通り、相手が自分の間合いに入った瞬間、“時をゆっくりにした”。
すべてが静止したような世界で、俺は首筋を狙い、渾身の一撃を叩き込んだ。
俺だけが動くことができる"五秒間"。
直後、ドレグが糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
観客席からの歓声は、嵐のようだった。
悪名高い盗賊の首領――ドレグを、無名の青年が一撃で倒したからだ。
第一試合からとんでもない番狂わせだと、と人々が叫んでいる。
沸き立つ観客の中に、リアナの姿が見えた。
彼女は身を乗り出して、俺に向かって笑いながら大きく手を振っていた。
彼女の声は、他の観客の声にかき消されて届かない。けれど、その笑顔だけで、十分だった。
(リアナ……やったぞ!)
たった一勝。けれど、彼女が笑ってくれるだけで、それは何よりも価値のある勝利だった。
胸の奥で熱いものがこみ上げる。
試合が終わり、控え室へと戻る。そこには大会運営のスタッフが待っていた。
「ローガン様、おめでとうございます、二回戦進出です。試合まで、こちらでお休みください」
「あ……ありがとう」
“おめでとうございます”――そんな言葉を、いつ以来聞いただろうか。
他人から認められたという実感が、じわじわと胸に広がっていった。
控え室には、他の出場者たちが大勢いた。彼らは一様に俺を見て、ざわついていた。
「お、おい……あいつが、"屠殺のドレグ"を一撃で……」
「ドレグの剣が当たったと思ったのに、気づいたら奴の方が泡吹いてぶっ倒れてたじゃねえか」
「俺には速すぎて何が起きたか見えなかったぞ!まるで、瞬間移動したみてえだった」
「格好も地味だし、まるで強そうには見えねえが……とんでもねえ化け物がいたもんだな」
「……ああ、あいつには当たりたくねえなあ」
ざわつく声が次第に広がり、俺の周りだけが妙に空いていく。
誰も近づこうとしない。畏怖や敵意が混ざり合った空気が漂っていた。
(精霊の力を、自分の意思で使える――それは確信した。でも、まだ一勝しただけだ。優勝までは遠い)
握りしめた木剣の柄が、手の中で軋む。
(このまま勝ち抜く。絶対に優勝してセリオンに行く)




