第16話 精霊との甘い生活
それから、俺とオルミアの二週間にわたる不思議な生活が始まった。
朝、ベッドで目を覚ますと、台所から香ばしい匂いが漂ってくる。真っ白な家。窓から朝日が差し込み、部屋の中がキラキラと輝いている。
台所を覗くと、オルミアはいつも黙々と料理をしていた。まるで長年の主婦のように、手際が良い。「精霊が料理なんてするんですか?」と俺が聞くと、彼女はくすりと笑って「"食べる"ことは、"生きる"ことです。人も精霊も、同じですよ」と言った。
彼女の家の台所には、大きな長方形の箱のようなものがあった。開けて中を覗くと冷気が満ちていて、食材が山のように詰まっている。新鮮な野菜に果実、魚の切り身と瑞々しい肉の数々。それらを自在に操り、彼女は料理を作っていた。
「さあ!できましたよ、ローガン。交尾は空腹ではできませんからね。たんと食べてくださいっ」
オルミアの柔らかな笑みと共に差し出される料理は、いつ食べても信じられないほど美味かった。
食事を終えると、俺たちは日中の間ひたすらセックスをした。
貪るような交尾。最初は一日十五回なんて不可能だと思っていたが、意外といけるものだった。この時ほど、毎日の畑仕事で体力をつけておいてよかったと思ったことはなかった。
俺はオルミアを激しく求めた。女を抱くなど、本当に久しぶりだった。女性経験の乏しい俺が、女神のような極上の雌と交わっているという事実が、自分でも信じられなかった。
オルミアの黄金の髪、男を刺激する魅力的な肉体、彼女の醸し出す妖艶なフェロモン、汗ばんで美しく光る肌が、俺の五感全てを刺激した。俺は快感に身を任せるように、行為中ひたすら獣のように彼女を犯した。オルミアもそれに応えるように俺を受け止めた。そして、彼女も俺の身体を捕食するように、犯し尽した。
俺たちの身体の相性は、不思議なほど良かった。まるで、元々一人の人間だったかと思ってしまうほど、俺たちはお互いの身体の全てを受け入れていた。
セックスの合間、気分転換がてら二人で散歩をした。オルミアの家の外には、果てしない草原が広がっていた。地平線の向こうが霞んで見えない。
「あの先には、何があるんですか?」と俺が尋ねても、オルミアは優しく微笑むだけで何も答えなかった。
俺とオルミアは、どこに行くにも何をするにも常に一緒だった。
風呂にも一緒に入った。俺がオルミアの身体を洗い、オルミアが俺の身体を洗う。不思議と羞恥心はなかった。毎日数えきれないほどお互いの裸体を見ているからかもしれない。
湯船には、俺がオルミアを後ろから抱きしめるような形で入る。彼女の濡れた髪、そして豊かな乳房が、水面に浮いている。
「ふー……今日も疲れましたねえ、ローガン」
「ああ……クタクタだよ。誰かさんが俺にしがみついて離さないから、身体のあちこちが痛い」
「えー!何ですか、それ。ローガンだって、すごい声出しながら私をぎゅーぎゅー抱きしめてたくせに」
数えきれないセックスを通じて、俺たちはまるで友人同士のように会話するようになっていた。俺はもうオルミアに敬語を使っていなかった。
「……ねえ、ローガン」
「?……なんだ?オルミア」
「さっきからお尻に固いものが当たってるんですが?」
「……すまん」
「ふふ。いいですよ。今日はもうノルマをクリアしてますけど……ここでシちゃいます?」
俺たちは、場所を問わずお互いを求め合った。
夜は、大きなベッドの上でお互い抱きしめ合って眠った。オルミアの大きな胸に包まれて、ふかふかのベッドの上で寝ていると天国にいるような幸せな気持ちになった。それと同時に、昔、まだ母が生きていた頃、同じように抱きしめてもらいながら眠ったことを思い出した。
俺は、泣いていた。出来ることなら、死んだ母に会いたい。両親が死んでからずっと張り詰めていた緊張の糸が、プツンと切れたような気がした。
オルミアは情けなく泣く俺をそっと抱きしめてくれた。俺は、声を震わせながら言った。
「……ありがとう、オルミア」
「大丈夫よ、ローガン。私がいますからね」
オルミアは俺の頭を優しく撫でた。泣き疲れた俺は、沈むように眠りについた。




