第14話 精霊との交尾
■ローガンside■
沸き立つ歓声が、闘技場を揺らしていた。
誰もが驚愕している。
あの巨体の男、ドレグを、俺が一撃で倒したのだから。
手の中の木剣がまだ震えていた。乾いた砂の匂い。耳の奥で鼓動が鳴り続ける。
俺は、自分の手を見つめた。
「……ほ、本当にできた……!」
まぐれではない。確かに、自分の意思で“精霊の力”を引き出せた。
ドレグが俺に向かって走り出した直後、呼吸を整え、意識を一点に集める。
そして、相手が俺の間合いに踏み込んだ瞬間。精霊の力で"時をゆっくり"にした。
全てが極限までゆっくりになる。音も、風も、観客のざわめきさえも。時間そのものが、まるで止まったように感じる。
そして、狙いを定める。カウンターを喰らわせるように、木剣をドレグの首筋へ――。
鈍い衝撃音。それで終わりだった。勝敗は、一瞬で決まった。
オルミアが言っていた通りだ。
「人間なんて、首筋を思いっきりぶっ叩いたら、誰でも倒れますよ」と。
俺は、今日までの二週間のことを思い出していた。
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あの日、裸のオルミアに抱きしめられた瞬間、俺は目を開けると、不思議な世界にいた。
真っ白な部屋。そして、部屋の中央に置かれた大きなベッド。
「え、ええ!?オ、オルミア様、ここは……?」
「ふふ。そんなに驚かなくても。ここはまあ……私の家、とでもしておきましょうか」
「オルミア様の……?」
俺は激しく動揺していた。なぜオルミアは裸になったのか、なぜ俺を突然抱きしめたのか、なぜ彼女の家にいるのか。
「あはは、色々考えてますねー、ローガン。あなたの心の声はぜーんぶ聞こえていますよっ」
「えっ!?」
裸のオルミアは俺を抱きしめたまま、耳元で囁いた。
「ねえ、ローガン。今から……"交尾"しましょう」
「……は??」
俺は耳を疑った。
こうび?こうびって、あの交尾?性行為、のことか?
「え、ええと!?オルミア様、い、意味が分からないのですが……!交尾って、何を……」
「もう、そんなに驚かなくても。あなたも、あなたのご両親が交尾したから、この世に生まれたのですよ?交尾は、この世で最も尊い行為なのですから」
甘く囁くような声が、俺の耳元を刺激する。
「だだだ、だからって、何で俺がオルミア様と……!?」
動揺する俺を、落ち着かせるようにオルミアは言った。
「ふふ。精霊の力はね、"精"の力なの。交尾すれば、あなたの中の"精"が高まり、私が与えた精霊の力のコントロールがやりやすくなるのよ」
「は、はあ……??」
俺は頭の中が混乱しておかしくなりそうだった。
要は、俺が彼女とセックスをすれば、精霊の力を使いこなせるようになるってことか?
いや、そんなはずがない!嘘に決まってる。
「ご、ごめんなさい!オルミア様、俺、どうしても理解できないです!精霊様と、人間の俺が、その、交わるだなんて、俺にはとても……」
「えー!私じゃ不満なのですか、ローガン。私の身体に興味がないと?うう、悲しいです……」
「いや!そ、そういうことではなく……!!」
正直、オルミアの身体は男なら誰でも興味が尽きないほど、魅力的だった。
先ほどから俺の胸板に押し当てられている豊満な乳房、陶器のようにスベスベとした肌。美しいくびれに、魅力的な臀部。そして、彼女の女神のような美しい顔立ち。
オルミアは、あまりにも刺激的な女性だった。
「ねえ、ローガン。あなたは先ほど"何でもする"と言いましたよね?」
「えっ……」
「あの言葉は、真っ赤な嘘だったのですか?」
オルミアは俺をじっと見つめる。吸い込まれそうな、妖艶な瞳が俺の脳内をぐるぐるとかき混ぜる。
「お、俺は……」
そうだ。俺は、何でもするんじゃなかったのか?武芸大会で優勝して、今の状況を変えるんじゃなかったのか?
リアナの期待に応えるんじゃなかったのか?
優勝するためなら、どんなことでもすると決めたはずじゃないか。
「お、俺……」
言葉が詰まってしどろもどろな俺を、オルミアはゆっくりとベッドに押し倒した。
「大丈夫。あなたは、何も心配しなくていいのですよ。私に任せてね……」
オルミアは俺の唇にゆっくりとキスをした。甘く、じっくりと、まるで捕食するかのような妖艶なキスだった。
頭の中が空っぽになったようだった。ふわふわと浮いてしまいそうな、不思議な感覚だった。
気持ちが良くて、身体がドロドロに溶けてしまいそうだった。
そして。
俺は彼女に身を委ねた。




