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サイハレ -最下層農民、精霊の力で皇帝まで成り上がる-  作者: イヌイエン
第一章 出会い

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第11話 何でもしますから

 朝の光が、古びた木の窓枠を通して、俺の顔を照らしている。

 いつものように、軋む音を立てながらベッドから起き上がる。顔を洗い、乾いたシャツに袖を通す。

 昨日買った乾パンを少し口に含み、水で流し込んだ。


 今日の目的は、いつものように一人で畑を耕すことではない。あの精霊――オルミアに、もう一度会うためだ。


 畑に着くと、冷たい朝露が足首を濡らした。土の匂いと、かすかな風。

 俺は深呼吸をして、声を張り上げた。


「……あの!精霊様!オルミア様!」


 静寂。鳥の声も止み、風も息をひそめたようだった。

 だが、しばらくすると、空気の粒が淡く光りはじめる。光はひとつ、またひとつと集まり、やがて人の姿を形作った。


「う、うわ……!」


 それは、この前見た女神そのものだった。黄金に輝く髪が風に揺れ、美しいローブに柔らかい光が反射している。オルミアが、再び目の前に現れた。


「あら、呼びましたか?ローガン」


 穏やかで優しい声だった。俺は目を奪われ、言葉が出ない。


「……ふふ、やっぱり可愛いですね、あなたは。身体は大きいのに、瞳が子どものようです」


 からかわれているような、見透かされているような気がして、俺は思わず目を逸らした。


「その……この前はありがとうございました」

「……ふふ、あの力のことですね。使ってみた感想は?」

「……うまく言えませんが、すごかったです。信じられないような……突然時間がゆっくりになったり、石が信じられない速さで飛んでいったり」

「そうですか。それは何よりです」


 オルミアは柔らかく笑った。


「あれが、"精霊"の力なんですね?」

「……ええ。まあ、部分的にはそうですね」


 オルミアはローガンの問いに笑顔のまま答える。

 部分的……?

 どういう意味だろうか。俺は気になったが、今はそれよりも早く聞きたいことがある。


「オルミア様、俺……あの力を自由に使えるようになりたいんです。二週間後に武芸大会があって、それまでに何としても使いこなせるようになりたいんです!」


 俺は懇願するように言った。


「それは素晴らしいことですね、ローガン!あの力を自由に使えるようになれば、おそらくあなたに敵う者などこの世にいなくなるでしょう」


 しかし、オルミアはそう言うと、両腕を組んで考えるようなポーズをとった。

 組まれた腕の上に彼女の豊満な胸が乗り、膨らみが強調されている。


「でも、二週間というのはとても急ですねえ。"あれ"は、本当は何年もかけて、少しずつ身につけるものなのですが……」


 俺は、目を伏せて言った。


「……さすがに無理でしょうか」

「ふふ。心配しないで、ローガン。あなたは恵まれた体躯を持っているし、心根の強い人です」

「……!」

「それは、今まであなたを見守っていた私にはよく分かります。だから、あなたの努力次第ではなんとかなるかもしれません」


 オルミアは、まるで子どもを落ち着かせるような優しい声で言った。


「ほ、ほんとですか!」

「……でもね、ローガン」

「?」


 オルミアは少し神妙な顔になって続けた。


「並大抵の努力じゃ、まず無理ですよ。あれを使いこなせるようになるためには、"何でもする"という固く強い意志がないと、ね」

「オ、オルミア様!俺、何でもしますっ……!精霊の力を使いこなすためなら、どんな苦しい鍛錬だって耐えてみせますから」


 俺はすがるような思いで言った。武芸大会は"チャンス"なのだ。

 正直、近衛師団に興味があるわけではない。入隊試験を受けるだけでも名誉だと思うし、運よく合格できれば尚更だ。セリオンの治安維持は、とても立派な仕事だと思う。

 でも、俺にとってはそれ以上に「王都に行ける」ということ自体が、一人で黙々と畑を耕すだけの閉塞感に満ちた今の自分を変えられるかもしれない、千載一遇のチャンスなのだ。

 何より、あのリアナに期待されている。彼女のためにも、絶対に優勝したい。そのためには、精霊の力が不可欠だ。


「何でも?本当に"何でもする"のですね?ローガン」


 オルミアの口調が突然強くなった気がした。


「……?は、はい!」


 俺はオルミアの不思議な迫力に少し圧されたが、すかさず返事をした。


「……わかりました」


 オルミアはそう言うと、突然自らが来ていた白いローブの腰紐をスルスルとほどき始めた。


「え、え!?オルミア様……?何をして……」


 俺がそう聞こうとする前に、オルミアは裸になっていた。

 オルミアの美しい肢体が露わになる。

 目を見張るような豊かな乳房、引き締まったウェスト、透き通るような肌。この世の者とは思えないほど綺麗だった。

 俺はオルミアの突然の奇行に激しく動揺しながらも、必死に見ないように目線を逸らした。


「いいから、私を信じなさい。ローガン」


 そう言うと、裸のオルミアは俺をそっと抱きしめた。


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