第9話 最初から堕ちてる
身なりを整え、慌てて宮殿内を駆け回り、王座の間にたどり着いた俺とシスクの視界には、玉座に座って足組んでる魔族の女が居た。
金髪をくるんと巻いたロールヘア、少し小柄で、だけどその存在感はバッチリ。ツンとした目つきで、まるで俺たちを値踏みするように見つめてくる。
「あら、来たのね。私の可愛いシスク、仕事は順調?」
「ま、マキ姫様、まさかいらっしゃられるとは……」
いつもは元気いっぱいのシスクも、流石に姫を前にかなりビビって殊勝な態度になってる。
そして、マキ姫は俺に視線を向けてきた。
「そして……久しぶりね、野蛮な駄犬、レイヴァ。随分と大活躍して、さぞかし気分が良さそうね」
嫌味たっぷりの言葉。相変わらず変わらねえな、こいつも。
身分は違えど、互いにガキの頃から知っている。
シスクのことは大事に可愛がってくれるくせに、俺にはいつもこうやって、小馬鹿にした態度で絡んでくる。
だが、見た目はお姫様名だけあってスゲー美人なのに、性格がほんとにもったいねえ。
「こ、これはこれはマキ姫様、ご機嫌麗しゅう!」
俺はわざと大げさに頭を下げてやる。内心、ムカつくが、魔王の娘に無礼はできねえ。
姫様……マキはフンと鼻を鳴らし、俺の態度に不機嫌そう。
だが、それにしても何でこいつはココに来たんだ?
すると、俺とシスクの疑問を理解したようで、マキは淡々と言ってくる。
「様子見と監視も兼ねて、来たわ。シスクがいるとはいえ、あなたのような腕っぷしだけの変態スケベな駄犬が、戦場以外でどれだけできるのか、見物だもの」
「ぬ……」
「まあ、あなたのことだから、あの我らの宿敵である姫騎士勇者ヤミナルと下賤で卑猥な行為にうつつを抜かすことは想定済みだけど、この地は魔王軍にとっても重要拠点となる地。仕事はちゃんとしてもらわないとね」
魔王様は俺にこの地を任せて「好きにしろ」と言ってくれたのに、まさか監視付とは。しかも、よりにもよってこいつが……昔っから俺に対しては目の敵の様にうるせーんだよな……まいったな……
「そ、そうすか……で、姫様はどれぐらいここに居らっしゃる予定で?」
「ふん、気が済むまでよ。この王国、ちゃんと統治できるのかしら? あなたみたいな下品な男に務まるのか、楽しみだわ」
え、気の済むまで? ソレは余計に頭痛いというか、ほんとにメンドクセーなァ。
さっさと帰ってくんねーかなァ……
「で、それはそれとして……その、私がいま言ったことなのだけれど……」
「ん?」
「その、姫騎士勇者のヤミナルについてなのだけど……その、あなた……負かしたあの女を、絶世の美女と名高いあの女を抱いたのかしら?」
と、そのとき、マキが何だか珍しくモジモジと、というか少し顔赤くないか? 変なことを急に聞いてきやがった。
ヤミナルを抱いたかって……そりゃあもう、たっぷりと……
「え、ええ、まあ……一応」
嘘言っても仕方ねーし、俺が正直に答えると、マキが物凄い汚物を見るような目で俺を睨みつけてきやがった。
「そ、そうなの、ふーん、そうなのね!」
「ん?」
「まあ、私としては、あなたがどこの女を抱こうと、どうでもいいんだけど、すごく、すごく、すご~~~く、どうでもいいんだけど! どうでもいいんだけど! か、仮にも誇り高き魔王軍の軍団長ともあろう男が、人間の女なんて家畜にしかならない下等種を抱いて満足するなんて、ほんとにあなたってどうしようもない男ね!」
と、かなりの早口でまくし立ててきた。
よく分かんねーけど、とにかくかなり怒っているのは分かった。
やっぱこいつ、俺のことは相当嫌いなんだな。
「もういいわ。あなたのような下賤な男の顔をこれ以上見ても不愉快になるだけ。さっさと仕事に戻りなさい。シスク、状況報告はあなたから聞くわ」
で、言いたい放題言い終わって、あとは帰れって、ほんと身勝手な女だよ。
くそ、ほんとにウゼーなこいつぅ……
「し、失礼しました。では……」
しかし、こうなってくると、かなり面倒なことになったな。
だって、相棒曰く、俺はこの女も将来的には篭絡しないとダメなんだよな? 心も体も含めて。
そうしないと世界が終わるということらしいが、今の時点ではこの女にそんなことできるなんて、微塵も思えねえ。
ヤミナルだけでも難易度高いのに、この女なんてもっとムリだろ。この女が俺に身も心も篭絡される未来なんて全く予想できねえよ。
「………ばか……スケベなくせに……私には昔から一切手を出さずに……他の女ばかり」
「ん?」
「何よ! 早く行きなさいよ! この駄犬が!」
「あ、おう……」
何か小声でブツクサ言ってると思ったら、何故かキレられたし……
「どうやったらあの女を俺のモノになんてできるんだ? ……やっぱ、ここは相棒に頼るしかねえか」
相棒なら、あの女の攻略法もきっと知ってるはず。てか、むしろ気になる。一体どんな攻略法を使ったらあの女を堕とせるのか……
「はぁ……またやっちゃったわ、私……もう、これも全部レイヴァが悪いのよ……スケベなくせに、女と見れば見境なしに手を出すか犯すかの男のくせに……私には一切……何よ、普段は失礼なくせに、私に対してだけは一線越えようともしない……ばかァ……ああ……レイヴァ……やっぱり、もっと胸が大きい方がいいのかしら……」
「……あのぉ……マキ姫様……全部口から出てます」
「ひゃわあっ!? シスク、いつからそこに!?」
「いや、最初からお兄と来てましたけど……………」
「い、今のは忘れなさい! いかに将来私の義妹になるからって許さないわよ! 忘れなさい!」
「え……あ、あの……わ、私が姫様の義妹って……それって、お兄と姫様が……え? うそですよね?」
「うそじゃ……ごほん! うそよ、うそ! 忘れなさい! 今のも忘れなさい!」
「は……はぁ……」
「とにかく忘れなさい。はい復唱! 忘れるって言いなさい!
「わ……忘れます……」
「よろしい、いいわね、もう一度言いなさい! 忘れるって! いい? 絶対に忘れるのよ! じゃないと絶対に絶対に絶対に絶対にゆるさないわよ!」
「は、はい! わ、忘れます!」
「絶対によ! 絶対に忘れなさい! いい? いい?」
「は、はいぃぃ!!」




