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第44話 回避するためには

「王都の門を完全に封鎖するわ! そして空にも魔力結界を展開する!」


 王都では緊急警戒警報が鳴り響いた。

 王城には非常事態宣言が出され、マキの命令で王都にいるすべての兵士が集められ、そして王都に通ずる全ての門が閉鎖された。

 これにより、多くの人間が王都の外に出ることもできなくなり、王都の外に行く予定だった者たちが大混乱に陥る。

 しかし、マキが兵士を伴って広場に現れ、声を上げて演説したことによって事態は収束した。


「皆の者、静まれ! そして聞きなさい!」


 その声と共に、マキが兵士たちの前に立った。


「私は魔姫マキ! 魔王の娘にして、軍団長レイヴァは私の婿である! 皆の者、静まれ!」


 マキが叫ぶと、広場の混乱は一気に静まった。

 あ、俺はもう婿なのか? お前は俺の豚なんだけどな。


「我が夫レイヴァの恩情により、この地に住む人間を決して虐げることはなく、奴隷の身に落とすわけでもなく、あくまで魔王軍の法の下に平等に暮らすことを許している! そのことは皆も理解していよう! そして、我が父であり、偉大なる魔王様の寛容さも!」


 その声に誰もが静まり返る。


「だが、そんな我が魔王軍の支配を拒み、虎視眈々とこの状況を破壊しようと画策するネズミがこの王都に紛れ込んでいる!」


 マキはそこで言葉を切り、周囲を見回す。

 そして、再び口を開いた。

 その言葉に、再びざわめき出す民衆。


「このまま放置すれば、魔王軍への反乱の意思ありと見なし、我が父魔王様はこの王都を灰燼に帰すことになるやもしれん! だが、それは望まぬ結末だ!」


 そう言った途端、民衆の間から不安げな声が上がった。


「だが、安心するといい! 我が夫レイヴァは、このようなことであなたたちを死なせることはない!」


 そういうと、マキは民衆を見渡し、そして再び声を上げた。


「そのために、私はここにいる! 私がいる限り、レイヴァの名誉を傷つけることになるような行為はさせない!」


 その声と共に、マキは兵士たちに向き直る。



「だから、私は今よりこの王都にいる兵士たちのすべてを使い、この王都にいるネズミどもを見つけ出し、駆除することにした! ネズミどもを逃がすつもりはない! 王都は閉鎖され、すべての門を封鎖する! そして、王都中を徹底的に捜索し、見つけ次第駆除する! これは、王都にいる人間を守るためであり、我が魔王軍の支配に反対するネズミを駆除するための作戦だ! 必ず成し遂げる!」


「「「「うおおおおぉおおおおお!!!!」」」」



 その声に呼応するかのように、兵士達の士気が上がり、広場には歓喜の声が響き渡る。



「そして聞きなさい、人間たちよ」


「「「「「……………」」」」」



 そして、マキは次に広場に集った人間の民たちへ語り掛ける。


「物々しい空気、兵たちが慌ただしく動く光景には不安を感じるだろう。しかし、私は約束しよう! レイヴァの治めるこの地、受け入れられぬ者たちには容赦しない。しかし、受け入れて共に生きようという者たちには手を差し伸べる!」


 それは人間たちには複雑な話だろう。

 人間たちにとっては魔王軍が侵略せず、今まで通りの世界の方が良かったに決まっている。

 だけど、今のこの状況は人間たちにとって最悪ではない。

 何故なら本来であれば戦争の敗戦国の民の処遇など、もっと悲惨なことになっていたはずだからだ。

 男は奴隷に落とされ、女は慰みもの。子供は売られ、老人たちは皆殺しにされ、財産の全てを略奪される。

 それこそが戦争だ。

 だけど、俺はヤミナルとの約束もあったので、それをしなかった。

 そして、しなかったからこそ、マキはソレを利用する。


「私は皆に誓おう、決して悪いようにはしない! 信じる者、受け入れる者には平穏な暮らしを約束しよう! だから皆の者、私に協力し、ネズミどもが隠れている場所を知っていれば教え、もし見かけたなら我らに知らせよ!」


 魔王軍だけではない。

 民たちにも捜索させる。

 さらりと「受け入れない者には容赦はしない」と捉えられるような言い方で。


「さあ、正門から順に行くわよ! 地下道も含めて徹底的に!」


 マキの言葉を聞いて、兵士達が動き出す。

 そして、民衆の中からも数多くの男たちが、自ら進んで協力すると言ってくる。

 俺はソレを少し離れたところで見ていて思った。


「やべえぞ……相棒……本当にこれ見つからないのか?」


 正直、相棒の言うことが事実かどうかは分からないが、これはマジでやばいと思い始めた。

 相棒が言うにはレストルムは見つけられない。しかし、これで本当に見つからないものなのか? 

 ここまで来たら見つからない理由が思いつかない。

 もし見つかったら、俺はシスクと……


「ねえ、お兄ィ」

「はひっ!」


 背後からシスクが俺に声をかけてきた。

 俺は驚きながら振り向く。

 そこには不安そうな顔のシスクがいた。

 だが、俺と目が合うと、すぐに笑顔になる。

 しかしそれはぎこちなく、無理して笑っているのが分かった。

 なので、俺はできるだけ優しく微笑みかける。

 するとシスクは安心した表情になり、俺に抱き着いてきた。


「お、おう、どうした?」

「ううん、なんでもないけど……」


 そう言いながら、シスクは俺から離れない。


「……ねえ、お兄ィ」

「ん?」

「姫様がネズミを見つけたらさ、その後は私のことを……」

「……………」

「ねえ、シてくれるんだよね?」

「う……」


 シスクの目は真剣そのもので、俺をまっすぐに見つめていた。

 俺はそんなシスクから目をそらし、曖昧な返事をすることしかできなかった。

 そんな俺を見て、シスクは悲しそうな顔をする。

 ヤバい……これはやはりヤバい……

 シスクとエッチしないためには……



「もう俺が先にレストルムを見つけてエッチして聖母を手に入れるしかねえ! 


 

 相棒は自力では見つけられないと言ったが、やはりどうにかするしかねえ。

 だからこそ――――










 「というわけで、レストルムという女を見つけて捕まえてエッチするために、お前ら全員俺に手を貸せ! マキよりも先に必ず見つけるぞ!」


 そう宣言する俺の目の前には、ヤミナル、相棒、クロカワ、ドリィル、イロカ、タナカたち、本来交わることのない面々を相棒の部屋に集めた。

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