第42話 妹
ヤバい。たぶん、「シスクとエッチしたい」の所だけしか聞かれなかったと思う。
前後の文脈がないからこそヤバい。
「お……兄ィ……」
呆然としていたシスクが口をパクパクさせながら、俺を凝視している。
どう思われた?
キモイ?
ありえない?
最低のくそアニキ?
「ま、前もそういうこと言って……」
そう、前もシスクをからかった。
廊下でスキンシップしてきたシスクに対して
――ぐへへへへ、お兄ちゃんとこういうエッチなことをできるってか? 禁忌な妹だねぇ~この小さな尻も……可愛い胸も、そしてこの唇もぜ~んぶお兄ちゃんがもらっちゃってもいいのかな~?
なんて言った俺に対して、
――お、おにいの……えっち……でも……おにいなら……いいよ?
と返してきたシスクはガチだった。
その時の俺は「冗談を真に受けるな」と言って逃げたが……
「な、なんなの、もぉ! お兄ィの変態、エッチ、スケベ、バカぁ! そ、そんなにお兄ィは私とエッチしたいの?!」
「い、いや……あの、シスク」
「もぉ、バカぁ!」
「ちょ、シスク、落ち着けって! 誤解だ!」
俺の声が届かないのか、シスクは真っ赤な顔で目をグルグルにして、俺に詰め寄る。
「信じられない、い、妹とエッチしたくなるなんて、いつも女の子とエッチしまくってるくせに、妹にまで欲情するなんて、も、もぉ!」
ちょ、隣にドリィルがいるのにまるで眼中にないかのようにベッドに上がってきて、そのまま俺の首に腕を回して抱き着いてくる。
「ほんと、仕方ないなぁ……仕方ない……、仕方ないもん、だって、お兄ィがエッチしたくてしたくて仕方ないんだもん、わ、私はお兄ィの慰み者になる、な、なんてかわいそうな妹なのかな!」
って、そんなこと言って目を回しながら、シスクがシャツを自ら脱いでいく。
妹のブラ!
妹のパンティー!
背徳! 禁断!
うおおおおお、ダメだダメだ! 落ち着け俺!
「シスク、待て、落ち着けって」
「待たない! お兄ィのエッチ! 妹でエッチなことをしようとするなんて、お兄ィの変態!」
「いや、シスク、違うんだ、誤解だ、話を聞いてくれ、頼む」
「違わない、絶対、もう、お兄ィ、私をメチャクチャにするつもりだったんでしょ?! エッチなことをしたいって、私の裸を見たいって思ったんでしょ!?」
ヤバい、完全に話を聞いてない。
どうにかして止めないと……
「シスク、落ち着け、俺はお前をそんな目で見たことはない! だから、今すぐ服を着て、ちゃんと話を……」
「やだ! お兄ィがその気なら私は覚悟を決めた! お兄ィの妹として、お兄ィがしたいことに付き合う覚悟!」
シスクが俺の言葉に聞く耳を持たずに、ブラも外し、パンティーに手をかけ、脱ごうとして、俺はその手を止めて、ずり降ろしかけたパンティーを再び上にあげて穿かせなおす。
女のパンティーを脱がしたり破いたりした経験は数多いが、穿かせたのは生まれて初めてだ。
「やめろっての。親父とおふくろが草葉の陰で泣いてるぞ!」
「応援してるよ! 早く無理やり犯した女の子以外で、愛し合って孕んだ孫が見たいって! お兄ィとさっさと一線越えろって!」
「なんてことを言うんだ! いくら俺たちの血が繋がってないとはいえ、流石にそこまで言うわけが――――」
「……ぇ……」
と、俺がそう言うと、シスクは大きく目を見開いて固まった。
「ん? シスク……」
「お、お兄ィ……うそ……」
「あ?」
「し、知ってたの? 私とお兄ィは血が繋がってないって……」
「………あ……」
そういや、俺は知らないことになってんだった。
だが、俺がソレを口にしたもんだから、もうシスクは余計に引き下がる様子はない。
「じゃあ……問題ないって……分かってるんだよね、お兄ィ……私が、お、お兄ィとそういうことをしても……」
「い、いや……」
問題はある。罪悪感だ。というか、マジで……
「わ、私、何でもするよ? お兄ィのして欲しいこと……そ、それこそ! そこにいる奴隷の娼婦女じゃデキないことだって何でも!」
「あらん♥」
そう言ってドリィルを睨んで対抗意識のようなものを燃やすシスク。
一方でドリィルはどこか余裕たっぷりで「小娘」を相手にするかのような態度だ。
シスクもそのドリィルの様子にムッとして……
「お兄ィ、こ、この際だから言うけど、私、いつかお兄ィの奥さんになりたい! お兄ィが好き、大好き! お兄ィの奥さんになって、私が子供を産んで、奥さんの私が立派にお兄ィを支えながら幸せな家庭を築くって!」
そう、顔を真っ赤にして想いを告白してきた。
シスクが本気なのは分かった。
だが、俺にとってはやっぱり妹というのが強すぎる。
だから、相棒曰く俺がシスクとエッチする必要があったとしても……
「……う、うう……す、まねえ……」
「ッ!?」
「……今のお前に言うのも卑怯かもしれねえが……俺はお前のことをそういう目では見れねえ……」
「……う……嘘……」
「シスク、すまねえ……」
「ッ……」
「わ、私……お兄ィの為なら……な、なんでも……う……ひぐ……うう……」
泣き崩れるシスクを見て胸が痛まないわけがない。
だが……
「悪い……」
やっぱり、俺にとってシスクは……
「うう……お兄ィのばかぁ……!」
俺が謝ると、シスクは俺の胸をポカポカと叩いて、そして涙目で走って――――
「ぶーひぶひぶひひ、ぶひひ、ブヒヒ、旦那様~、暇なら調教してくれない? 今日はお尻……あら?」
部屋から出て行こうとするシスクと鉢合わせるのは、空気読めない豚だった。
そして豚はシスクの泣き顔を見て、途端に俺の豚だという自覚を忘れ、怒りの形相を浮かべて俺に詰め寄ってきた。
「レイヴァ! あなた、シスクに……私の義妹に何をしたの!」
そして、俺は思った。
「うるせー、関係ねー豚は黙ってろぉ!」
「黙らんぶひ! ……だ、黙ってられないわ!」
マキが乱入してきたことで、ゴチャゴチャしてきてしまった。




