第38話 宣言
「シガー」
「はい?」
「いつでも俺と話ができる通信用のマジックアイテム……持っておけ」
「え?」
俺がアイテムを渡すことに首をかしげるシガー。
いや、だってさ……
「お前は俺の女だろ。なら、何かあった時にいつでも俺に助けを求められるアイテムぐらいは持っとけよ」
「あ、え、でも、助けって……」
どうやらまだ理解できてないようだな。
俺がソレを説明しようとすると、マキが溜息吐きながら前へ出た。
「バカねぇ、あなたはネズミの目撃者よ? しかも、あなたは魔王軍の軍団長であるレイヴァと親密関係よ? ネズミの目的は不明だけれど、少なくとも魔王軍の敵であることは間違いないわ。そうすると、そのネズミはあなたに接触、場合によってはレイヴァに対する人質やら、情報を引き出すために拉致して拷問や調教して洗脳……色々されるかもね」
マキの言葉にシガーの顔から血の気が引いていった。
いや、流石にそこまで深刻に考えすぎな気もするが……
「そそ、そんな……あ、じゃ、じゃあ、ご、ご迷惑かもしれませんが……もらっちゃってもいいですか?」
ようやく立場の危うさを理解したようで、シガーはビクビク震えながらも俺からアイテムを受け取る。
「いつも身に着けてろよ? 寝るときでもな」
「は、はい……」
「それから、もし本当に何かヤバそうなことがあれば……」
俺がシガーの肩に手を置くとシガーが緊張した面持ちで俺を見つめる。
そして、俺はそのまま顔を近づけて……
「ひゃ♥」
「ちゃんと助けに行くからよ」
と、シガーの額にキスを落とした。
「はうぅ、レイヴァ様ぁ~♥」
「ッッ!!???」
「あ、お兄ィ……」
シガーはトロンとした顔で俺にメロメロに。逆にマキとシスクの視線が冷たく尖っていた。
まあ、マキはともかく、妹の視線はちょっと傷付くな。だけど、今のやり取りは必要だったんだ。
「でも、よかった。さっきはちょっと不安になっちゃったけど……レイヴァさんが助けてくれるって言ってくれて……」
「そうだな。だが、俺の女になるってことはそういうことだ」
俺はシガーの顎に手を当てて、クイッと持ち上げる。
「お前は俺の女だぜ? なら、俺の女である限りは絶対守ってやる」
「は、はい!」
それを聞いてシガーは嬉しそうに笑顔で頷いてくれた。
そして俺は俺で……
「をおおおお~~~い! 者どもぉおお、よく聞けぇええええ!!!!!」
言うべきことは言うべきだと声を張り上げる。
シガーとのキスを見ていた街の民や兵士たちに聞こえるように!
「俺様は魔王軍、軍団長の烈将レイヴァだぁあああ!」
その言葉に周囲がザワザワと騒ぎ始める。
「この国は、戦争の果てで俺達魔王軍が勝利した! そしてこの地は俺達の領土となったわけだが、姫騎士勇者ヤミナルの魂を懸けた訴えにより、皆殺しにせず、また女子供奴隷にすることなく、このまま平和的に統治していくことにした!」
俺のその言葉を聞いて、いつもは俺に気さくに声がけしてくる連中も空気を察して神妙な表情で俺の言葉に耳を傾ける。
「ソレを受け入れ、その中でこれからの新しい人生を過ごそう、この状況下でも希望を持って生きようと、ここに居るシガーや、いまこうして復興に汗水たらしているお前らのような奴らがいる! だが……そうでもねえ、受け入れたくねえ、まだ負けてねぇ、俺や魔王軍を憎くて殺してやりてぇと思っている奴らもいるってことぐらいは分かってる! ああ、まあ、そりゃそーだろうな! そう簡単に心にケリつけられねーだろうよ!」
俺のその言葉に反応するように、街の中の何人かが顔を見合わせたりと様々だった。
そして……
「だからまあ、不満に思ってるならかかってこい! ぶちのめしてやる! 俺の大事なモノや女を使って俺をハメようとするならやってみろ! 魔界史上最悪の地獄を見せてやる! この統治下で生きていこうとするならそうしろ! そう思う限りはお前ら全員俺が守ってやる、ヤミナルに誓ってなぁ!」
俺の言葉に周囲が一瞬静まり返り……
「「「ウォオオオオオッッッ!!」」」
大歓声と共に皆が声を上げて、盛り上がった。
「軍団長もやっぱ決めるときは決めるっすね」
「ただの武闘派とスケベなだけじゃ魔王様の信は得られまい」
「ねえ、ママ。家が壊されたのになんでみんな拍手してるの?」
「しっ、いいから……もう……うん」
まさに魔王軍らしい俺の言葉が面白かったのか、はたまたこの統治に不満を持つものにとって俺への「挑発」になったのか。
それは分からなかったが……
「レイヴァさん……やっぱ、カッコいいです……」
と、シガーが嬉しそうに俺を見つめていた。
「あのお兄ィ……」
「ん?」
そんなシガーと対象的に、シスクが真面目な顔で俺を見上げていた。
そして、シスクが呟くように小声で……
「あの、さっきの話のことなんだけど……」
「ん? ああ」
「今回みたいに……その、重傷者に成りすますような輩が出る可能性があるなら、今後、治安維持も兼ねて定期的に重傷者で療養中の人を訪問して、様子を見た方がいいと思う」
「おお」
「巡回の兵を増やしてその作業に当たらせる」
まさにそれは良いアイディアだと俺は感心し、シスクの頭を撫でる。
「なんだぁ、不機嫌だったのに、仕事はちゃんとこなすんだな♪」
「ふん……まあ、もういいよ。お兄だし……その代わり、マキ様をヤリ捨てたりしたら、本当にどうなっても知らないからね? あと、他の女の子にも」
「うっ」
シスクの目はちょっと本気、半分冗談、いつものような感じに戻っていて安心した。
「ふっ、まあ私としてはこの国の統治のあり方、人間共を虐げない生温いやり方に想うところはあるけれど……魔王に全権を委任された私の旦那様のやり方には従うわ。だから……品のないネズミも陽の当らないところでコソコソやる分にはいいけれど、家の中に現れたらしっかりと駆除させてもらうわ……なんなら罠でもしかけてねぇ」
マキもまた、本当は虐められるの大好きな雌豚のくせに、こういうときはサディスティックな笑みを浮かべて周囲をゾクッとさせる。
なんというか、頼もしい限りだ。
とはいえ、この挑発や罠でアッサリ尻尾を出して駆除できるようなら、まあそんなに心配はいらないってことでいいし、それに俺にはコレに対する対処法もまだある。
「さーて、童貞捨てて大人になったであろう相棒に、詳細確認に行くとするか」
そういえば、相棒やクロカワたちのクラスメートの件もあるし……この件を問題なく解決出来たら、ヤミナルに事情を話してヒトバイヤから買い取ってやるか。
しかし、部屋に行ったら相棒は卒業できていなかったというのを知った。




