第37話 視察修羅場
周囲を強力な護衛で固めて、俺、マキ、そして超侮蔑の目で俺の背を睨んでいるシスクと共に街の視察に出ていた。
今日も街の連中は魔王軍の兵と共に復興活動。まあ、冷静に見たら奇妙な光景だよな。
今のところはヤミナルとの約束は守れているし、そして民を蹂躙しなかったことが返って統治をしやすくなっていた。
「なるほどね。最初はヤミナルのような反乱のよりどころは早々に見せしめに首を刎ねるべきだと思ったけれど、そうしないことや、民たちに非道なことをしないことで……結果的に反逆の心を芽生えにくくさせているようね」
マキがしみじみ呟く。
そう、統治においてもっとも警戒するのは、民衆が一致団結しての反乱だ。それは、不満や怒りや憎しみが募り募って芽生えたりするもんだ。
しかし、俺たちが非道な行いや、人間共を家畜や奴隷のようにしなかったことで、民衆も徐々に「今」を受け入れ始めるようになっている。
そうなると、反乱は逆に難しくなる。なぜなら、このまま黙って従っていても酷いことをされないし、なんなら死ぬことだってない。
だが、いざ反乱でもう一度戦となったら今度はこちらも容赦せず、徹底的に蹂躙し、女子供も関係なく虐殺するだろう。
そうまでして、俺達に反乱するほどの覚悟は今の民衆共にはない。それどころか徐々に戦の敗戦を受け、魔王軍の統治下で新たに生きようとする民が増えている。
こうなるともうこっちのもんだ。
やがて、この王都の中では魔王軍に敵対する者たちは次第に「自分が正義の反乱軍だ」というよりは、「無謀なことをしでかそうとしている不届き者」扱いにまで下がってしまう。
そうなればもうこの地に俺たちの敵はいない。
「まあ、こうして見ると……案外人間共もしぶとくて逞しいわね……私なら誇り忘れて屈辱の中で生きるならば死を選ぶけれどね」
「あ? ああ……そうだな……ん?」
マキが魔界の姫として思ったことを口にするが……いや、お前の誇りって……試しに首輪に魔力を送る。
「……んおっ♥ ッ……こ、コラ……合図送ってない」
「…………」
真面目な顔から一気にトロ顔になる。いや、お前誇りを忘れまくって、俺の雌豚になったりしてるんだけど、どの口が!?
ここが寝室で二人きりだったら思いっきりケツ叩いて分からせてやるところなんだけど、今はコレが限界。
それに……
「………お兄の変態ドスケベ最低クソ野郎……バレたら極刑……魔王様にバレたらどうする気……これまで、お兄がどれだけ色んな女の子とエッチしても、犯しても怒らなかったけど、こればかりは……」
シスクがすごい形相で睨んでやがる。
そりゃそうだ。
流石に部屋での出来事を見られてしまったことで、シスクを誤魔化すことはできなかった。
マキは……
――シスク、いま見たことを勘違いしていないわ! この魔王の娘たる私が今のような行いをしたのは、地底魔界よりも遥かに深い理由があることであり、非常に高尚で凡人には理解できない境地の極意のためなのよ! ええ、ゆえに理由や事情を問うことは禁とするわ! ぶう? 私が豚の鳴きまねをしていたなんて幻聴よ!
などと、めちゃくちゃな言い訳をしていたが、流石にシスクも誤魔化されてはくれなかった。
そして、シスクも一応はその場ではもうそれ以上何も追求しなかった。そりゃ仕えるべき主であり、相手は魔王の娘だからな。
だが、その主が俺とイチャついて、しかも「ぶう♥ ブウ♥」なんてやってたわけだから、そりゃもう俺たちがとりあえず一線越えて、さらに非常にマニアックなプレイまでしているということも理解してしまったのだろう。
それゆえの俺へのこの睨み。
これまで俺がたとえどれだけ女に酷いことをしても「お兄ィ、ゴハン作ったから、凌辱終わったら食べてね~♥」みたいな感じだったんだけどな。
それほどまでに俺に寛容で、俺のやること何でも許して笑ってくれて、俺のことを大好きなはずのシスクがこの睨み。
流石に俺もショックだった。
いや、まあ全面的に俺が悪いんだけど。
だけど、シスクに嫌われたままなのは絶対に嫌だ。どこかで機嫌を取らなきゃ……
「あっ♥ レイヴァさ~ん♥」
と、そんなことを真剣に考えてたら、シガーがメッチャ甘い声を出しながら俺に駆け寄ってきた。
おお、胸がプルンプルン震えて、かわいいぜ!
「シガー、色々順調か~?」
「はい、順調ですよ~。レイヴァさんにお相手してもらって足腰が疲れてますけど♥」
おやおや、シガーも随分とあけっぴろげになったもんだな。
だけど、姫と妹が居るから少しは空気読んで欲しかったんだけど、お構いなしに俺の腕に絡みついてきて、俺の腕を谷間に沈めてグニグニ体を寄せてくる。
うむ、ヤリたい。
ヤミナルのような高級飯や、イロカやドリィルのような商売飯とは違う、家庭の飯って感じで落ち着く。
「ちょ、レイヴァ……この女、やけに馴れ馴れ――――」
「…………」
「はっ! あ、いえ、なんでもないわ、あ、ぶ、ぶう、じゃなくて、えっと……コホン、べ、別になんでもないもん」
マキがシガーを見て、急に嫉妬の炎を出そうとしたが、慌てて俺はマキを睨む。ちょっと前までならこれで打ち首だったかもしれないが、俺の雌豚になったマキへの言いつけは「俺が他の女をどれだけ抱いても嫉妬しない」だったから、それを破りそうになったマキを一睨みしたことで、マキも自分の立場を理解して慌ててなんとか耐える。
そして、シガーがマキに軽く会釈して……
「あ、あの、レイヴァさん、この御方も……」
と、シガーが俺に耳打ちするようにコソコソと……
「どう見てもレイヴァさんのこと好きみたいですけど、この人もレイヴァさんの『女』ですか?」
「……ま、まあ」
「あはは、そうなんですか。ヤミナル様だけでもレイヴァさんは果報者なのに、こんな美しくてかわいい人まで……レイヴァさんはほんっっと、女たらし~」
「おい」
「でも、そんなレイヴァさんだから……私は♥」
そう言ってシガーは俺に頬を摺り寄せながら甘えてくる。いやぁ、いい胸だ。
と、そんな様子にマキは、
「ぐぬぬぬ、なによぉ、この女、胸もデカいし、にんげんのくせにィ」
とブツブツと言ってるが何とか耐えている。
だが……
「お、お兄ィ、何この女、随分馴れ馴れしいんだけどぉ、何で人間の女が、お兄ィとイチャイチャしてんの?」
マキと違って制約のないシスクは思ったことをそのまま口にする。
「え、お、お兄? って、この方、レイヴァさんの……え? え、も、もしかして……」
シスクのことを不思議そうに見るシガーだったが、すぐに何かを感じ取ったようだ。
「あ、あの、その、レイヴァさん……この方って……」
「ああ、俺の実の妹のシスクだ(本当は血が繋がっていないみたいだけど)」
「妹さんがいらっしゃったんですね。しかも、随分と可愛らしい」
「ああ、シスクは俺にとってかけがえのない妹だ」
俺とシガーが仲良く話している間、シスクがものすごい形相でシガーのことを見つめていた。
シガーはそれに気が付いたのか少しビクッとしたが、それでもなんとか踏ん張って……
「あの、初めまして、シスクさん。私、レイヴァさんにはとてもよくしていただいて、色々と助けていただいて……」
「あっそ」
うわぁ、シスク普段は可愛いけど、敵だと判断した女には本当につめたーい顔をする。
「ちょ、シスク、こいつは俺の女の一人で大事だから冷たい目すんなよ。いつものことだろ?」
「どうだか……この女も所詮、お兄ィのチ〇〇ン欲しさにお兄ィのことを慕って、こんなに甘えてるだけじゃないのぉ?」
「ッ、そ、そんなわけ……」
シスクは明らかにシガーのことを嫌っている。
「あはは……そんなわけ、なくも……ないですかね? レイヴァさんに抱かれたら、もうメロメロになっちゃいます♥」
「あ゛?」
おい、シスク! 俺の妹よ! やっぱ、俺と血が繋がってんじゃないかっていう感じの俺と同じような声が出てんぞ?
「あ、あはは……ごめんなさい、レイヴァさん。妹さんをこれ以上怒らせたくはありませんので、私は作業に戻ります。御菓子がもうすぐ焼きあがりますので、よろしければ」
「お、おうそうか! そいつは楽しみだ!」
流石にこれ以上はまずいと思ったのかシガーも俺の腕から離れる。だけど、離れ際に小声で俺の耳元に……
「でも、レイヴァさんの大好きなお菓子は、あとで、コッソリ食べに来てくださいね♥」
と、めっちゃエロい囁きをシガーがしてきて、うん、すぐに食いたい。と歯ぎしりしてしまった。
と、その時だった。
「あ、そうだ、レイヴァさん。ちょっと……真面目な話もあって……」
シガーが何か思い出したかのように俺に小声で話しかけてきた。何だ? この流れだと「二人きりでシテほしい」的なおねだりなんだろうか?
て、そんなわけはなく……
「その、最近……なんですけど……」
シガーはどこか言いにくそうにしながら、周囲の様子をチラチラ見ながら小声で……
「その、最近……元王国兵の方で重傷を負われた人たち……今はもう皆さんはそれぞれの自宅で療養されてるんですけど……」
「ん? ああ、まあ、降伏させて怪我の酷かった奴らはそれぞれ解放したなぁ……それが何かあったのか?」
「いえ、その……わ、私の勘違いだったら……いえ、私だけじゃないんですけど……」
シガーの様子から何やら不穏な気配を感じ、マキもシスクもこの時ばかりは黙って聞く。
すると……
「私、御菓子を作って、皆さんにも何とか少しでも心を癒してくれたらと思ってお見舞いの御菓子を持って行こうとして、まずは知っている人からと思っていこうとしたら……たまたま家の人が出てくるのを見たんですけど……全然知らない人が住んでて……」
「…………?」
「私だけじゃなくて、街の他の人も、そういうのがあったって……」
俺はシガーが何を言ってるか全然理解できなかった。
だが、今の話でマキは「なるほど」と呟き、
「つまり、解放された重症の兵たちのフリをして……知らない誰かさんたち……いえ、ひょっとしたら外部、他国の人間……紛れ込んでいるのかもしれないと、そう言いたいのね」
「「「ッ!?」」」
「重傷で包帯を顔に巻いてれば顔も隠せるしね。なるほど……何やら、コソコソとネズミが紛れ込んでいるようね」
と、俺と違って頭がキレるマキが全てを見透かしたかのように笑みを浮かべてそう呟いた。
なるほど。
流石はただの雌豚じゃない。




