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第35話 結婚首輪

 ベッドで横たわる俺たち四人。

 右にイロカ、左にドリィル、そして俺に覆いかぶさるように抱き着いているマキ。その表情は幸せいっぱいの普通の小娘のようで、胸が痛む。興奮したけれど。


「ど、どうかしら、満足いただけたかしら?」

「…………」

「あ、いえ、違ったわ……ま、満足いただけたかしらぶう? わ、私の、旦那様♥ ……れ、冷静になってくるとやっぱり恥ずかしいわね……」

「そ、そすね」


 そう言いながら余韻に浸っている俺に甘えてくるマキ。

 なんというか、ヤッてしまった……


「んんー、どうしたのレイヴァ様ぁ♥」

「もしかして、もう復活ですの♥」


 イロカとドリィルも俺に抱きついてきた。

 だが、俺はそれでもなかなか起き上がれなかった。

 ヤッてしまった……マキと、魔王の娘と……


「いや、なんというか……今更ながらとんでもねーことしちまったなって……」


 と、俺が漏らすと、俺の胸の中で抱き着いているマキの身体がピクンと反応する。


「あら、今更怖気づいたのかしら? でも、もう遅いわよ? だって、あなたはこの私の初めてを奪ったのよ? ヤリ逃げだなんて許さないわよ?」

「ッ!?」

「それこそ、逃げだしたら魔王軍総出であなたを地の果てまで追い詰めるから覚悟なさい?」


 と、急に威厳に満ちたまさに魔界の女帝のような尊大な物言いで俺の背筋を震わせる。

 そう、俺はやはり紛れもなく魔界の姫をこの手で……


「マキっち、アウト~」

「まったく、なかなか豚になりきれませんわね~」


 と、俺の左右からイロカとドリィルが怖いもの知らずに物言い。

 だが、普通なら殺されるような二人の態度だが、なぜかマキは二人に対してはそういう態度を見せない。


「うっ……だ、だって……人を散々弄んだ挙句にレイヴァが……それに、一応は姫と軍団長という立場上、四六時中ぶひぶひ言ってると……それが癖になって……さ、流石に臣下の前でまで出てしまったら私も色々とまずいし……」


 それどころか、頬を膨らませてイジケル可愛い姿まで引き出しやがった。

 どうやら二人から色々と「指導」されたからなのか、マキは二人に心を開いている?


「でもさ~、しゃーないじゃん。好きになった人が色んな女とヤリまくるドスケベ野郎なんだし~、そんな男に惚れた方が負けなんだから、妻になるなら寛大なとこ見せて悦ばせないと~」

「ふふふふ、とはいえ急には難しいと思いますので、色々と工夫をしないといけませんわね♥」


 いや、これは指導による師弟関係とは違う。

 部下と姫、奴隷と姫という関係でもない。


「およ、ドリ、なんかいい方法あんの~?」

「仕方ありませんわね。ここは、アイテムを使って日常生活から妻であり、豚であることを認識するよう努めるしかありませんわね」

「ちょ、どうするのかしら! ど、どんなアイテムなの? 見せなさいよ」


 まるで友達……?


「おほほほほほ、お父様のオリジナルで現在も使われております……この……雌豚奴隷用の魔法の首輪ですわ~♥」


 いや、違うか。

 友達が友達に嬉々として奴隷の首輪なんか出さねえか。


「ちょ、く、首輪……首輪って……」

「ええ。奴隷用の。これを主につけてもらった奴隷は、いついかなるときも、主の魔力を遠隔で送り込むことで……体がぶるぶるっ雷が駆け巡るかのように……おほほほほ♥ 感じまくってしまうのですわ~♥」

「ちょ、そ、それを私につけろって言うの!?」

「いいえ、つけるのではありませんわ~。ご主人様の手でつけていただくのですわ~♥」

「ッッ!? ちょ、わ、私が、ど、奴隷の、魔界の姫たる私の……私が……」

「もちろん、人の目もありますので、一件はただのオシャレチョーカーに見えますが……」

「ちょ、こ、心の準備が……い、いくらなんでも、そ、そこまで……」


 とはいえ、女子三人組のこのかなりヤバい会話に当事者の俺は蚊帳の外。

 つか、俺がマキに首輪をつけるとか……


「でもさ~、首輪ってマニアックだけど、ある意味で二人を繋ぐ絆? 結婚指輪ならぬ結婚首輪?」

「ッッッッ!!!!?????」


 と、そこでマキの身体が大きく反応。

 イロカの言葉を真に受けて顔を真っ赤にし、あわあわしながらも、マキはドリィルから首輪をぶん取る。

 そして……


「ほ、ほら……わ、私に……つ、つけなさいよ……わ、私の旦那様」

「…………」


 マキが俺に首輪を差し出してきた。

 本来なら俺の首に嵌めるようなものを、マキが俺にマキに対して嵌めさせようとしている。

 マキの意志で。

 ヤバい、これは……


「は、早くしなさい! 命令よ! バラされたいの!? お父様に言いつけるわよ!」

「ッ、わ、わかっ、お、うおおお」


 もはや魔法の言葉。俺は慌てて首輪を受け取り、それをマキが「んっ」と小さく首を上にあげて、その白く小さな首に俺は……


「こ、こうか?」


 カチンと音を立てて嵌った首輪。マキは自分の首に嵌った首輪を触って、俺の方を見る。


「ッ………」


 すると、マキの身体がビクンと震えた。

 そのままゆっくりとベッドに倒れ込む。


「はぁはぁはぁ……え、えへへ……えへへへへ♥」


 真っ赤な顔で横たわるマキ。その表情は幸せそのもので、何かを噛み締めるかのように……


「ぶひぃ……」

「マ、マキ?」

「ぶひぃ……ぶひ、ぶひ、……ぶー♥」


 と、マキがまるで豚になったかのような声で鳴き出した。

 その顔はどこか恍惚で……


「はぁはぁはぁ……だ、旦那様……わ、私はもう……戻れないところまで……あ、あなたと一緒に……」


 マキが心底蕩けた笑みを浮かべながら自分に嵌められた首輪を愛おしそうに撫でる。


「ねえ、旦那様。その、流石に普段は……皆の前や政務中はこれまで通りだけど……それでもこれがある限り私はいつでもあなたのモノだと自覚できるわ」

「お、おお……」

「ふふふ、でもこれって首輪でイタズラもできるわけでしょう? 真面目な会議中にあなたにブルブルされて、フフフ、悶えたらどうしようかしら?」


 どうしよう、と言いながらも嬉しそうにワクワクしているマキ。


「ねえ、旦那様……たとえば、その、会議でも日常でも……そうね、私がこうして、あなたに向かって、首を二回指で叩いたら……そ、それが調教の合図だともって、ビリビリってしてもいいのよ?」


 それは、「していい」ではなく「しろ」と言っている。

 やばい、完全に目覚めてやがる

 とりあえず試しに……



「ほれ」


―――ブルブルブルブルビリビリビリ♥♥♥♥♥


「♥♥♥♥♥♥♥♥」


 

 試しの一発で、マキがベッドの上で悶えまくった……や、ヤバい……これはヤバい……

 どうやら俺は予想以上にヤバいものを目覚めさせて、未知の世界に足を入れちまったようだ。



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