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第31話 復讐

 ヒトバイヤの奴隷カタログの見開きページには、五枚の絵姿があった。

 そのうちの四枚は女で、一人は長い髪を後ろで一本に束ねた女。

 一人は黒髪を二つ結びにした女。

 ふわふわの髪をした女。もうひとりはおっとりとした顔の女。

 どいつもこいつも美人だ。

 残りは男で、黒髪の女みたいな顔をした男。

 だけど、誰も彼も全員目に光がない。


「うわ、お嬢様の天壌寺までいるよ……」


 タナカがぽつりと漏らした。


「ああ、本当に驚きだよね。まさか、俺ら以外のクラスメートがこの世界にいるなんて……。しかも、こんな風に奴隷として売買される立場になっていただなんて」


 ワタナベも同意見らしい。二人の言葉を聞いて、ヤマダも頷く。


「だよなぁ。でもさ、これはチャンスなのかもしんねぇぜ」

「どういうこと?」

「ほら、この天壌寺って超金持ちのお嬢様なんだろ? だったら、この奴隷商から買い戻して、そのあとでこっちに恩を売れば……」

「なるほどね……元の世界に戻ってもけっこう見返りが……」


 と、相棒や俺らに対しては更生していたが、もうちょい教育が必要そうな悪だくみをタナカたちはコソコソ話し出した。

 だが、そんな中……


「……やめて。こんな状況で不謹慎よ」


 クロカワが険しい顔でタナカたちの会話を遮った。

 相変わらずお優しい。

 さっきまで、相棒とエッチしたくてガツガツ責めてた女とは思えねえな。 

 タナカたちもバツが悪そうにシュンとなった。


「……確かにそうだな。悪りぃ」

「ごめんなさい」

「悪かったと思ってる」


 それを見て、イロカは苦笑いを浮かべる。


「まっ、ここは黒川が正論っしょ。でも、みんな……生きてたんだね……」

「……そうだね。僕ら以外にもこの世界に飛ばされた人がいたなんて……」

「でも、そうなるとこのカタログ以外にも……クラスの皆もまたどこかに?」


 相棒たちは真剣にカタログを見ている。

 すると相棒がぽつりと漏らす。


「天壌寺と正田か……」


 どこか浮かない顔。その反応にクロカワたちも顔を曇らせる。


「そうか……うん、宙仁くんには……うん……」

「そっかー。あんたは天壌寺と正田にエグイことやられてたしねー」

「そうだ、あの女と執事は俺達の宙仁くんに!」

「許さん!」

「殺そう!」


 と、相棒の心情を察したようにタナカたちが怒りを露わにする。

 一体どんな奴らなんだ?

 そう思ってると、相棒が教えてくれた。


「……天壌寺と正田っていうのは、俺をイジメてた女子と男子なんす。特に、正田は天壌寺の家の執事で、天壌寺の命令なら何でもするっていうヤツでした」

「そいつらは俺らのクラスメートで、クラスで宙仁くんに一番キツいことをしてたんです」

「まあ、俺らはそれを見て見ぬふりしてたけど……」

「天壌寺は超が付くほどのお嬢様で、わがままで、人を見下し、冷酷で人をイジメたり教師を廃人に追い込んだりする最悪の女なんす。オタクの宙仁くんをキモイと罵ってたんです」

「俺たちも逆らえず同調した。御免なさい宙仁くん」

「俺も、ケツで良ければ好きにしてくれ」


 と、タナカたちはそう口にして土下座した。

 まーた、相棒への謎の土下座だ。

 そして天壌寺とやらの性格は最悪だな。

 ただ、相棒は「いいよ、別に気にしてないよ」と笑っていた。

 そして、相棒は続けて語りだす。


「そして、その正田は天壌寺の執事……おそらく、天壌寺に何かあったときに護衛のために彼女の近くにいたんでしょうね。正田も天壌寺の命に従う……って感じで、彼女の指示で俺をボコボコにしてました」

「正田は俺たちも怖かったっす」

「あいつは容赦なく暴力を振るうから……」

「宙仁くんへのイジメも、実際に手を出してたのは正田だ」

「正田は黒髪の中性的な美形で、結構モテてたんすよね。そんな正田に殴られてる宙仁くんを天壌寺は楽しそうに見てました」


 ほう、天壌寺は女王様気質か。

 マキみてーなもんか?

 ん?


「テンジョウジ・レイカ……処女……うっわ、処女だったんだ~! ウケる~!」


 イロカが見ているカタログを見ると、確かにそれが書かれている。


「って、ちょっと待つし! 河合、紗季、彩音のとこには『非処女』って書いてるんだけど~、うは~、あいつら経験済みなんだ~!」


 と、他のクラスメートとやらの女子の説明欄を見てイロカが爆笑しだした。

 それを見て、真剣な顔だったクロカワがその話題だけ身を乗り出した。


「う、うそでしょ! 河合さんって、あんな大人しそうなのに……紗季だって、彩音だって、中学の頃から私は一緒で……え、うそ! 私に隠れて二人はもうロストヴァージンを……!」

「ぐふふ、ぐふふふふふ」


 クロカワの動揺にイロカは笑っている。

 そんな中で、俺はとりあえず口を挟む。


「おい、クロカワ。処女、非処女なんてどうでもいいだろうが。どーせ、俺の物になれば一緒だ。お前もな」

「そ、そうですけど……って、なんで私の処女はレイヴァさんが貰うんですか! そ、それは宙仁くんに……」

「ん? あ? ああ、そう言えば相棒とお前、まだやってなかったな。なら、さっさとやれよ。俺の命令だ」

「な、何を……って、ちが……あ、あの、宙仁くん、その……」

「え、えっと、……えっと、そ、その、黒川さん……お、俺……」


 と、話題が逸れそうになる。すると、相棒はそこで軽く咳払い。


「とにかく、レイヴァさん……色々と俺も複雑だけど……やっぱり見捨てられないし……」


 話を戻してきた。


「ふうん、そうか。お前がそこまで言うなら、別にいいんだが……じゃあ、どうすんだよ」

「だから、その、できればこいつらを……その……」


 まあ、相棒がそう言うのなら仕方が無いか。だが、そうなると問題はある。


「つまりは、こいつら全員を買わなきゃいけねえってことか。まあ、別にいいんだが……そうなると、まずはヒトバイヤから奴隷を買ったらヤミナルがどう思うかって話だ。そこが問題なんだが……」


 そう。相棒はヤミナルのことが好きらしい。だが、奴隷を買うとなるとヤミナルはいい顔しねえだろう。

 そしたら、ヤミナルの好感度とかいうものが下がる。

 そうなると、ヤミナルハッピーエンドとやらに影響が出る。

 あと……


「あと単純に気に食わねえな。俺の相棒がお優しいのは結構だが、そこまで自分を散々イジメたっていうような奴を救おうだなんてよ……」

「それは……」

「どうせなら、このお嬢様を買って犯してやる……この男の目の前で……それぐらいの復讐してやれってんだよ」

「う、うう……そんな……」


 と、相棒は顔を伏せる。

 隣のクロカワも複雑そうな表情。

 だが、そこで俺はハッとした。


 ひょっとして相棒も復讐はしたいけど、クロカワの手前できないんじゃ……嫌われるから……


 ということなんじゃないかと思った。

 なら、それなら……おやおや、俺が代わりにやってやっても――――


「ご主人様ぁ~♥ 言いつけ通り、避妊の道具を購入してきましたわぁ~♥」

「おっ、ドリィル」


 と、そこで、ドリィルが小箱を持ってどこからともなく部屋に参上した。


「「ッ!?」」


 相棒とクロカワはビクッと反応。

 そう、これは相棒とクロカワのために俺が用意させたもの。


「おお、ご苦労。へぇ~、こういうのか~。初めて見るな……」

「薄くて伸びる丈夫な羊皮紙でできておりますわ♥」

「そうか、ま、俺は使わねえけど」


 そして、俺はドリィルが持ってきたそれを受け取ると、クロカワに差し出す。


「ほれ」

「……え、ええっと」

「これ使え。クロカワも安心して、相棒とヤレるだろ」


 すると、相棒はポッと頬を赤くして、そしてクロカワは俺からソレ受け取り……


「は、はい」

「はう」


 相棒も恥ずかしそうに顔を俯かせた。


「じゃ、俺らは部屋から出るか」


 そして、俺の言葉でイロカやタナカたちと一緒に部屋から出て……


「さて、相棒とクロカワがヤってる間は、俺達で話を詰めよう。いいよな、イロカ」

「だね~。あーし的にはこいつら見捨ててもいいんだけどな……」


 と、俺は廊下で話を再開しようとした。

 だが……


「あ、あら、レイヴァ、こんなところにいたの奇遇ね!」

「……え?」


 そのとき、俺に声をかけてきたのは……


「ま、マキ姫……」


 まさかのマキだった。


「あ、相変わらず人間の奴隷を引き連れて……昼間から卑猥な……って、男まで混ざってるじゃない! ま、まさか、あ、あなた、ソッチも!」

「ねえよ!!!! ……ね、ねえっす」


 思わず言い返してしまって、慌てて俺は言い直す。

 にしても、何やらモジモジしているが、雰囲気的に偶然というより、俺を探していたというような感じがするが……

 イロカたちも空気を読んで、空気になってるかのように口を閉ざしていた。

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