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第3話 俺の未来を知っている

 王城の地下牢。冷えた石の匂いが鼻をつく。

 俺が足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 何やら元気でやかましい騒ぎ声が聞こえてくる。


「お前さあ、マジでふざけんなよ!」

「何がゲームだよ! 頭おかしいんじゃねえの?」

「こんな状況で妄想語ってる場合かよ、くそチュウニオタ!」


 牢の中でガキどもが喚いてやがる。七人。男が四人、女が三人。そのうちの一人はぶっ倒れてる。ああ、昨日俺がとりあえず殴ったガキか。一応最低限の手当てされてるとは、俺の部下はなんでこうお人好しなのやら。

 ただ、さらにそのうち一人――うっとおしい前髪が目にかかってる根暗そうな男が壁際に追いやられて、他の連中から罵声を浴びていた。

 俺と話があるって言うのはあいつだ。昨日、俺の名を呼んだ唯一のガキ。牢にぶち込んだ後も、何か知ってるような口ぶりだったって報告があった。


「……俺は、嘘なんか言ってない。これは、ゲームの世界なんだ。俺たちは異世界に転移したんだよ」


 ……ゲーム? 異世界? 何を言ってやがる。


「はあ? 異世界? ゲーム? お前、現実逃避してんじゃねえよ」

「こんな状況でそんなこと言ってるから、キモオタは嫌いなんだっつーの」

「黙ってろよ、キモイんだよ」

「チュウニオタが!」


 男子も女子も関係なく一人の男に罵り追い詰めている。

 イジメか?

 だが、根暗のガキは肩を震わせながらも、言葉を続けた。


「でも……この世界の構造、魔王軍、レイヴァの名前、それに昨日のヤミナル……レイヴァの妹がシスクっていうのもそうだったし……全部ゲームと同じなんだ。俺は何周もプレイしてる。だから分かるんだよ……」


 マジでシスクの名前を……周りの連中はああ言ってるが、俺にはただの妄言には聞こえねえ。


「そんなわけあるか! お前は馬鹿か!」

「現実見ろよ、ゲームの中に入ったとか、ありえねえだろ!」


 罵倒の嵐。牢の中は騒がしい。だが、その中で一人だけ冷静な様子で口を開いた女がいた。


「……まって」


 黒髪の女。昨日、俺が気に入った、今日俺が可愛がる予定の女。

 女は静かに、根暗ガキの言葉を反芻していた。そして、口を開いた。


「でも、確かに……それぐらいじゃないと説明がつかないこともある。昨日のあの光、突然の転移、レイヴァって人がゲームのキャラと同じって……そうなんでしょ? 宙仁くん。それに、田中君が殴られたあの光景も……どう考えても不自然なほどのパワーで……まるで車にはねられたみたいに……」


 その声は、牢の中の喧騒を一瞬で止めた。

 だが、他の連中はすぐに反応した。


「は? 黒川、何言ってんの?」

「こんなキモイやつの肩持つなよ!」

「黒川も先生もいないんだし、こんなキモオタに気を使うなっての!」

「いや、私は……ただ、冷静に考えて……」

「田中のことも、きっと、あのコスプレ野郎はボクシングのプロとかで……」


 どうやら、話はまとまりそうもないし、これ以上見てても堂々巡りに感じる。

 とりあえず、俺は一歩、牢の前に踏み出した。


「おい、ガキども」


 低く、重い声を響かせる。俺の声が届いた瞬間、牢の中の空気が凍りついた。


「喧嘩か? イジメか? よくねーぞ?」


 鉄格子の向こうから、俺はじっと七人を見下ろす。俺の姿に全員が言葉を失っていた。


「俺に用事だってな、そこの根暗小僧」

「ッ……」


 俺がそう言うと、根暗ガキはびくりと肩を震わせた。だが、すぐに顔を上げて、俺の目を真っすぐに見返してきた。怯えてるくせに、目だけは濁ってねえ。何かを訴えようとする意志がある。


「ッ……はい。俺です……あの、俺、宙仁御多ちゅうにおたって言います。は、初めまして」

「チューニオタ? 珍しい聞いたこともねえ名前だな……で、何の話だ? 昨日から俺の名前を知ってるような口ぶりだったが……ただの偶然にしちゃ、妹の名前まで言い当てるどころか、今朝王国に来たことも言い当てた。どういうことだ?」


 俺の問いに、牢の中の空気が再び張り詰める。他のガキどもは黙りこくって、ガキの返答を待っていた。

 ガキは一歩、鉄格子の前に進み出た。足元は震えてる。だが、声ははっきりしていた。


「俺は……この世界の未来を知ってます。あんたの、そしてシスクさんの……」

「ほう?」

「俺たちがいた世界では、この世界は……ゲームだったんです。『大魔侵略・白濁まみれの英雄乙女たち』っていう、エロゲー……凌辱アドベンチャーゲーム。俺はそのゲームを何周もプレイして、全ルートを見ました」

「……じゅうはちきん? えろげーって?」

「あ、えっとエロゲーってのは、エロいゲームのことで……」

「ほお、面白そうだな。エロいゲームか、やってみてーもんだな」


 牢の中の連中がざわつく。

 そして目の前の根暗……チューニオタとかいうガキは続けた。


「その中で、あんたは……無敵の軍団長。戦では誰にも負けず、色んな女を犯しまくってるキャラで……これからもヤミナル……ヤミナルの部下の姫騎士団……貴族の令嬢や街や村の娘も自分専用の奉仕奴隷にしてエロいことしまくって……だけど、選択肢ややり方を間違えると、あんたは悲惨な未来になる! それこそ、妹のシスクも!」

「……シスクも……だと?」


 俺がこれから色んな女とヤリまくるのはいいとして、何でシスクが?

 俺の声が低くなる。御多は頷いた。


「はい。彼女は街に潜入していた、『帝国軍の密偵』に捕まってひどいことされて……まあ、それもNTR要素があるっていう売りのゲームだったんだけど……とにかく、それにブチ切れたあんたは、ヤミナルとの『ヤミナル以外の人にひどいことはしない』って約束を反故にするんだ……そのルートに入ると、エロいシーンは確かにいっぱいあるけど……でも、最終的には……その……」


 言葉を濁すガキ。

 よりによってシスクが?


「……随分と笑えねえな……」


 俺は低く呟いた。シスクが帝国軍に捕まって、ひどい目に遭う? まさか、人類最強国家にして、数多くの勇者を輩出しているあの帝国の連中が既にこの国に入り込んでいる? そして、シスクを捕らえてひどいことする? 冗談にしちゃ悪趣味すぎる。

 牢の中は静まり返っていた。ガキどもも、誰も口を開かねえ。ただ、目の前のチューニオタってやつだけが、俺の目を見ていた。

 その目に、嘘はなかった。

 怯えながらも、何かを伝えようとする必死さだけは感じた。


「……テキトーなこと言ってるなら、許さねえぞ」


 俺の声が低く響く。鉄格子の向こうで、チューニオタの肩がびくりと震えた。だが、震えながらも一歩前に出て、叫んだ。


「本当なんです! もし、いまシスクさんが来てて、街の視察に行ってたら……掴まって、そのまま凌辱されるエロシーンに入って……!」


 その声は、震えていた。だが、確かに届いた。


「シスクもハッピーにさせるには、いま、彼女の序盤を間違えたらダメなんだ! この世界は、選択肢次第で未来が変わる! でも、間違えたら……取り返しがつかないことになる!」


 この世界の未来を知っている?

 ありえねえ。

 だがこいつは、牢に入ってたはずだ。なのに、シスクがこの地に来てることを知ってる。しかも、今まさに街の視察に出てることまで。

 どういうことだ? 偶然か? いや、違う。これは、何かを知ってる証拠だ。


「ガキが……」


 シスクがヒデー目に合うなんて話題は冗談だろうと許さねえ。 

 だが……


「もし嘘だったら……覚悟するんだな」


 もし、万が一本当だとしたら、こんなことしている場合じゃねえ。


「ば、ばか、クソオタ! お前、何を変なこと言ってんだよ!」

「す、すみません、こいつ、べらべら意味わかんないことを……こいつは俺らがボコっておきますから、ど、どうか、許してください!」

「お願い、あーしらを助けて!」


 周りの連中はこいつとは友達でも何でもねえのか、チューニオタの妄言であり、もし嘘だった場合は自分たちも酷い目に合うんだとビビっている様子。

 まあ、その通りだけどな。



「連帯責任だ。男どもは首切るか強制労働……黒髪女は俺のオモチャで、他の女は汚い男どものオモチャにでもしてやるよ」


「「「「ひいいっ!!??」」」」



 それだけを植え付けさせ、俺は城の外へと走った。

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