第25話 忘れてた攻略対象
城の廊下を歩く。
隣にはヤミナル。
その後ろには、手土産こと金髪ロールの娘、ドリィル。
そして俺の手には、ヒトバイヤから渡された分厚いカタログ。
(……さて、どうすっかな? エロい奴隷だったら買ってもいいんだけど……これ以上好感度下がったらまずそうだし、やっぱ相棒に相談かな?)
ヤミナルは無言だった。 表情は硬く、時折カタログに視線を落としては、眉をひそめている。
ドリィルは、静かに後ろを歩いていた。 姿勢は正しく、礼儀も完璧。 だが、その瞳には覚悟のようなものが宿っていた。
そんな空気の中――
「お兄! おかえり~!」
廊下の先から、元気な声が響いた。 次の瞬間、勢いよく飛び込んできたのは俺の最愛の妹、シスク。
「おう、ただいま~」
俺は笑って、シスクを抱きしめる。 頬ずりをしながら、頭を撫でる。
「んふふ~、お兄の匂いだ~」
シスクは、俺の胸元に顔を埋めて、幸せそうに笑っていた。
その様子に、ヤミナルが少しだけ目をそらし、ドリィルは静かに立ち止まった。
そしてシスクが、ハッと顔を上げる。
「……あれ?」
俺の隣には、ヤミナル。 そして、見知らぬ女ドリィル。
「ご主人様の妹様ですわね。初めまして、ドリィルと申します」
「は? ゴシュジンサマ……?」
ドリィルは、優雅に一礼した。 その仕草は、完璧な礼儀作法。
だが、シスクは目を細めた。
「……お兄、人間の女を拾ってきたの?」
「まあ、色々あってな」
「まさか、またエッチなことするために?」
「……まあ、色々あってな」
俺は同じ返しを繰り返した。 ヤミナルが「そなた……」と呆れたように呟き、ドリィルは微笑を崩さずに黙っていた。
シスクは、ふてくされたように腕を組んだ。
「……お兄、最近人間の女ばっかり構ってる」
「そんなことはないだろ」
「ある! そのことで……姫様もイライラされてるし……」
「うっ……」
そう、シスクはもともとマキの傍仕えだから、俺に対するマキのイライラがシスクにもいくわけか。
すっかり忘れてたな。シスクに何かねえように気をつけねえと。
シスクに飛び火しねえように気をつけねえと。
するとシスクは、俺の胸元に顔を埋めたまま、ぽつぽつと呟き始めた。
「お兄も最近はしゃぎすぎ……そこのヤミナルへの凌辱は、まあ調教みたいなものだし、民の女を犯したりとかそういうのも勝者の特権だけど……」
「おいおい、言い方が物騒だぞ」
「でも、エッチばかりで仕事そっちのけになったらダメだからね? お兄は軍団長なんだし」
「……お、おう」
俺は素直に返事した。 シスクの説教は、いつも妙に的を射てる。
「そ、それに……そんなに欲求不満なら……私が……ブツブツブツブツ……」
「ん?」
「な、なんでもない!」
シスクは顔を真っ赤にして、目をそらした。
その頬は、明らかに膨れていた。
(……嫉妬してるな)
俺は、ちょっとだけ悪戯心が湧いた。
「そうだな~、シスクがお兄ちゃんともっとベタベタしてくれたら、俺も人間の女なんかで発散しなくていいんだけどな~」
その言葉に――
「えっ! え! そ、そうなの!」
シスクが、身を乗り出してきた。
目を輝かせて、俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。
「じゃあ、じゃあ、もっとベタベタする! するから! だから、他の女には……!」
「お、おう……」
あ……そういえば。俺は、ふと思い出した。
――実はシスクは血が繋がってない。
――シスクはそのことを知ってる
――シスクは俺にガチ惚れ。
――そして、シスクはハーレムエンドするには欠かせない攻略対象
しまった、相棒に言われていたこと、すっかり忘れてた!
確かに、俺はシスクを愛している。
だが、それは家族としてだ。
目の中に入れても痛くない妹。
その容姿は死ぬほど可愛いと思ってる。
だが、エッチなことをできるかと問われると……ムリにやろうとすれば、できなくはないかもしれない。
だが、その時は俺は、言いようのない罪悪感に苦しむだろうと思っていた。
だからこそ、この件は先延ばしにしたい。
血が繋がってないというのも、最近知ったばかりでピンと来ない。
最近まで実の妹だと思っていた。 簡単に切り替えられるはずがない。
だから俺は、ワザと悪魔の笑みを浮かべてみせた。
「ぐへへへへ、お兄ちゃんとこういうエッチなことをできるってか? 禁忌な妹だねぇ~」
そう囁きながら、シスクを抱きしめて、軽く尻を触った。
「この小さな尻も……可愛い胸も」
「あっ、ん」
「そしてこの唇もぜ~んぶお兄ちゃんがもらっちゃってもいいのかな~?」
「ひゃっ……!」
軽く胸をタッチ、唇を指先で触れる。
いかん……たかがこの程度のタッチでメチャクチャ胸が痛む。
これはやっぱムリじゃねえのか?
だが、そんな俺に対して……
「も、もぉ……」
シスクが肩を震わせて、顔をトロンとさせる。
「お、おにいの……えっち……」
「……」
「でも……おにいなら……いいよ?」
その声は、甘く、柔らかく、そして本気だった。
俺は、逆にビビった。
マジかよ……
「じょ、冗談真に受けんなー!」
俺は慌てて叫びながら、ヤミナルとドリィルの手を引いてその場を離れた。
「えっ!? お兄!? 待ってよ~!」
背後からシスクの声が追いかけてくる。
ヤミナルは呆れ顔で「そなた……」と呟き、ドリィルは「妹様も情熱的ですわね」と微笑んでいた。




