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第2話 さわやかな朝

「朝か……昨日は最高だったぜ」


 目を覚ませば、戦場暮らしの長い俺には不慣れな豪華な部屋。巨大でふかふかの特注ベッド。これぞまさに、王城の王の寝室と呼べる豪華な内装だ。

 そして、目を覚ました俺の隣には裸の絶世の美女。

 ヤーリマックリン王国の姫であり、我が宿敵だったヤミナルだ。


「う……んん……」


 裸で精も根も尽きたというような、ぐったりとした顔をして眠っている。

 朝から俺専用の俺だけの美女を目にして気分がいい。


「さーて、爽やかな朝。とりあえず飯でも食いながら仕事の始まりだな」


 そう言いながら俺は服を着て、寝室を後にしようとした。

 すると、後ろから手首を掴まれた。


「うっ、ぐ……待て……」

「起きたか。よぉ、おはよ。俺のヤミナル」


 どうやら目を覚ましたようで、朝から射殺すように俺を睨みつけるヤミナル。

 昨日は散々ふにゃふにゃになるまで抱きまくったが、まだ反抗心は残っているようだな。


「誰が貴様のか……最低のクズめ……」

「ぐわははは、なんだ? 昨日のことが忘れられずに朝から抱いてほしいんじゃないのか?」

「ふざけるな! わらわはただ……ただ……」


 殺意の籠った上目遣いで俺を睨みつけ、どこか俺の顔色を伺うように何かを聞きたそうなヤミナル。

 すると……


「約束を守れ……わらわは何をされても構わぬ……だが、民は……民への非人道的な蹂躙行為だけは……どうか……そなたの部下にも徹底して欲しい」

「ぐわははははは、そのことか」


 こんな状況でも民を気遣うとは、本当にお優しい限りだ。 

 敗戦国の民がどうなるか、それは人も魔族も変わらねえだろうからな。

 ただ……


「ま、安心しろよ。俺様はまだしも……俺の部下はちょいと変わってるからな……ぐわはははは!」

「レイヴァ! おい、約束だぞ! レイヴァ、頼む、どうか、どうか民だけは―――んむぅ!?」

「ぐわはははは、おはようのキスはいただいた。ま、心配すんな」

「う、ぐっ、また、わらわの唇を……くずめ……」


 俺はとりあえず目覚めのキスだけをヤミナルにして部屋を後にした。

 ヤミナルがしつこく叫んでいるが、正直心配はいらねーんだよな……だって……


「お兄、おっはー! ……お邪魔しちゃった?」

「ぬお?!」


 そんな時だった。

 俺に後ろから飛びついてきた小さな女。


「お、なんだシスクか? おま、何でここに!」

「お兄、ひっさしぶり~! えへへ、作戦成功! お兄を驚かせるため、こっそりここまで潜入したのでした~」

「おま……ひさし……あー、いや、ていうかマジでどうしてここにいる? お前は、『マキ』様の側仕えになったしばらく忙しいんじゃなかったのか?」


 俺の背中をよじ登り、首に腕をかけてくる小さな体の女の頬を優しく撫でる。小さく幼げな顔の割には、その胸部だけは不釣り合いな程のボリュームがある。

 そう、俺の実の妹のシスクだ。

 魔王様の娘である魔姫たる『マキ姫』に気に入られて、側近に抜擢された優秀な妹。


「お兄が王国を陥落させたって聞いてその祝福を~、で、マキ姫に相談してこっちに助っ人にきたのだ~。お兄には戦後処理や統治をやるには、大変だろうなぁって思って、」

「ああ……ま、否定はできねーな」

「うんうん。だってお兄って戦は大得意だけど、女癖悪くてエッチで、国や人間たちの管理や戦後処理とか向いてないでしょ? 妹としてはすっごくすっごっく不安だったの。だから、お兄のお手伝いに来たよ」

「おお、そっか……ありがとうな……」

「ほんとだよ~、感謝して。っていうか、昨日も戦終了と同時にお愉しみだったみたいだし~。お兄の全身、すっごいエッチな匂いするし~」

「ば、ばっか、お前にはまだこの匂いと世界は早い!」

「もぉ、いつまでも子ども扱いして、このエロエロ大魔神お兄ってばサイテーだな~。ま、私が来たからには大船にね!」


 魔王軍の軍団長だなんて呼ばれて、魔王軍では最高位の地位と立場の俺だが……やっぱりこいつにだけは、昔から敵わない。昔は俺がいなければ何もできない、俺の後ろを歩いてただけだった甘えんぼのかわいいかわいい妹が、今じゃこうして世話になっちまうとは……

 ちょっと悲しい気持ちになってきちまった。


「それじゃ、お兄にも挨拶終わったし、さっそく私は王都の視察に行ってくるよ」

「あ、じゃあ俺も……」

「お兄はさっさと顔洗って朝食取って、それから合流してよ」

「おいおい、陥落させたとはいえ、まだ危ない人間の手練れが隠れてるかもしれねーし、うろうろするのは……」

「大丈夫、ちゃんと強力な護衛をつけてるから、心配ないって!」


 すると、俺の言葉に被せるようにしてシスクはそう言う。ま、確かにヤミナルを筆頭に主要な奴らは叩き潰したから、そこまで心配することもなかったか?

 そう思っている間に、シスクは駆けるように走っていった。

 俺はとりあえず食堂に行こうと向かっているときだった。


「おはようございます、軍団長!」

「今回の陥落もさすがの一言で!」

「妹殿、来られてたんですね」


 共に戦った部下どもの数人と遭遇し、声をかけられる。


「それにしても、軍団長。昨日は、お愉しみだったようで……あれだけの戦をした後で、疲れは残らないのですかね?」

「ぐわはははは、何を言ってる。疲れたからこそ英気を養ったんだよ。血沸く戦いを終えて興奮収まらねえ状態で、極上の女を想うがまま抱きまくる。戦の勝者の特権だろうが。お前らも、王都の人間共でほかの女騎士たちや、気に入った貴族の娘やら街娘やらがいれば早い者勝ちで好きにしていいんだぜ?」


 と、俺はヤミナルとの約束破りのようなことを口にするが、これが破られることはないということは分かっている。

 だってこいつら……


「いやぁ、そんな、せっかく戦が終わったんだからゆっくり寝たいですよ」

「私も本の続きが気になって気になって……」

「故郷の両親に手紙を……大手柄上げたぞ~って」

「良い美術品を見学したりと、そっちの方が好きで……」

 

 こいつらは俺と共に命がけで戦ってくれる奴らだ。しかし問題なのは、どいつもこいつも俺と性格が全然違う。


「ったく……お前らほんとに、ち●ち〇ついてんのか? 肉も食えよ」


 現代魔界ってのはこういう問題が流行ってるようで、どうも最近は魔界のオス共があまり女やエロいことに興味のない、肉より草を食う方が好きな、『草食魔族男子』なんて言葉が生まれだしているぐらいだ。

 だから、ヤミナルが心配しなくても、捕虜や民への凌辱とか、俺が何かをしない限り、そんな心配は無かったりする。

 だから、普段から結構真面目な話もしてくるわけで……。


「ところで軍団長……妹君も来られていたのなら……ちょっと昨日の、突然現れたあの若者たちの件で、一応お耳に入れたいことが……」

「あ~、あいつらか。牢に入れたんだろ? つか、結局あいつら何だったんだ?」


 そこで、話は昨日の連中、ガキどもに。

 そういや、あの黒髪女を今日は抱くんだよな。


「あ、それがですね……なんでもあいつら、『異世界から来た』とか『ニホンという国から来た学生』とか、なんか良く分かんないんすよ」

「いせかい? ニホン? なんだそりゃ」

「我々も話を聞いていても良くは分かんなかったんですけどね、その中の一人が……ほら、あの根暗そうな……」


 そう言われて、思い出すのは一人。あの、唯一俺のことを知ってるっぽかったやつか。


「なんか無礼にも、そいつが軍団長と話しがしたいって言ってきたんですよ」

「なに~?」


 話がある? なんだ、助けろとかそういうのか?

 だが、それは俺の予想と反して……



「そのガキが、『烈将レイヴァに今後何があるか、何が起こるか、全部知ってる。一度話をさせてほしい』って言ってきたんすよ」


「……何が起こるか?」


「ええ。占い師とかそういうのには見えないですし、ただのガキのたわ言だとは思うんすけど……ただ、もう一つ気になることが……」


「なんだ?」



 昨日のあの根暗のガキが何なのか、気になりはするが別に今の時点ではそれほどでもなかった。

 だが、次の瞬間には……



「そいつ……『レイヴァの妹のシスクが来ているなら、それにも関することだ』とのことで……」


「ッ!?」



 俺も思わず振り向いてしまうような予想外の内容だった。


「なんだと? ちょっと待て、シスクはさっき来たんだぞ? しかも、俺を驚かせるために、コッソリ来たって……そのガキ、昨日から牢屋にいたんだろ? なんで知ってるんだよ」

「さあ、だから不思議で……」


 興味はなかったのだが、流石にシスクの話までされたら気になっても仕方ねえ。





【回数状況】

・姫騎士勇者ヤミナル:13回

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