第16話 感謝の報告
王国宮殿左方の執務室。
俺が相棒に与えた部屋。その部屋に併設されているメイド用の部屋にはクロカワ。
「よぉ。ちょっと相談がある」
「うわ、ノックなしっすか」
「別に気にすることねーだろ? どーせまだ、お前はクロカワとエッチしねーんだろ? だったら、そういう場面に遭遇する心配もねーし」
「だから、そういうのを本人の前で言わないでくださいって!」
相棒はこの世界でのことを少し学びたいとかで本を読んでいた。文字はなんか読めるというか分かるというか、そういうもんだったらしい。
そしてその隣では、クロカワが静かに紅茶を淹れていた。メイド服姿で。
「クロカワ、似合ってんな。 清楚で、でもどこか艶っぽい。イロカみたいな淫乱女とは違うな」
「あ、ありがとうございます……」
「相棒は奥手のようだから、お前のほうから相棒にエッチ誘ってやったらどうだ? お前は相棒の計らいで今は助かってんだ。気に入ってもらえねーならまた牢屋に逆戻りか……いや、そのまま俺の愛人にするってのでもいいしな。俺の愛人になったらソッコーでやるからな」
「っ、あ、え、あの、その……」
「レイヴァさん! 黒川さんを怯えさせないで……その……気まずいっす」
じゃあ、早くヤレよ。と思うが、どうやらこいつら二人はまだまだ時間がかかりそうだ。
これじゃ、互いに見せ合いっこの相棒儀式はまだ先だな。
「で! とにかく相談って何っすか? 攻略についてですか?」
「まあ、そうなるな。まずは現状報告からだ」
俺は椅子に腰を下ろし、腕を組んで、堂々と語り始めた。
「クッキーの件、うまくいった」
「……あ、それはよかった……で、シガーにはひどいことはしてないですよね! メチャクチャスケベな顔して街へ行きましたけど、言った通りひどいことしたらヤミナル攻略が一気に難しくなるんですからね!」
さっきのヤミナルといい、どうして俺はこう疑われる?
「大丈夫だっての。ひどいことするどころか、シガーの店を立て直して、復興まで手伝ってやった」
「え……そ、そこまで?」
「おうよ! そしたら、あいつに惚れられたっぽい! キスして、あいつとエッチさせてもらえたし、いいことづくめだ!」
「「ぶぼっっ!!??」」
俺がそう言うと、相棒が紅茶を吹き出し、クロカワもずっこけた。
「え!? 待って、クッキーもらったルートにいったのに、キスしてえっちなことしたの? え? これはさすがに俺も知らないパターン……っていうか、なんでそんなことに!? ていうか、ヤッたんですか!? ダメだって言ったのに!」
「だから、和姦だから問題ねーだろ?」
「和姦? え、和姦ルートなんてあるの!? え、それ知らない! 確かにやさしくしてシガーや民衆から少しずつ心開かれるルートはあるけど、和姦エッチイベントはなかったはずなのに!」
相棒は紅茶のカップを持ったまま、完全に混乱していた。
クロカワは隣で静かにタオルを差し出していたが、耳が赤い。
「いや~、あいつの店を直して、さらにあいつが今後もクッキーを作ってくれることを条件に、他の商店の復興も人手を投入して協力するって言ったら、あいつのほうから俺にイチャイチャしてきてな~、だから俺もラブラブしてやってな~、いやあ、クッキーもシガーも美味かったぜ! 流れでキスして、ベッドに倒れて、まあ……な?」
「『まあ』、じゃないっすよ! それ、俺の知ってるシガールートじゃない! あんた、何か分岐踏み潰して新ルート開拓してません?」
「知らん。俺は誠意を持って接しただけだ」
ジト目の相棒。
クロカワが静かに紅茶を注ぎ直してくれた。その手元は冷静なのに、耳はまだ赤い。
「で、ヤミナルの件も報告しとく。あいつも最初は俺がシガーにひどいことしたんじゃないかと疑ったが、ちゃんと俺の話を聞いてくれて、明日一緒に街に行くことにしたんだ! 自分の目でシガーを見ろってな」
と、俺がさっきの報告したら、相棒はまた驚いて立ち上がった。
「え……ヤミナルを連れて街に行くんですか!? しかも、シガーを見に? 言っておくけど、ひどいこと、調教とか目的で街に出るわけじゃないですよね!?」
「は? ちげーよ。調教?」
「そうっす! ゲームでヤミナルを街に連れて行くのは調教目的が主で……民衆の前で裸にして、その、ねえ……あとは民衆と、ま、交わらせたりとか……」
「は? ざけんな! ヤミナルの裸もエッチもこの世で俺だけのものだ! なんで、民衆に?!」
俺が声を荒げると、相棒はビクッと肩を跳ねさせた。
「……そ、それならいいっすけど……」
相棒は椅子に座り直しながら、頭を抱えた。
「いや、でも……あんたの話、どこからどう聞いても、俺の知ってるルートと違いすぎるっすよ。シガー和姦ルートも、ヤミナル街デートも、そんな展開なかったはずなのに……」
相棒はブツブツと何かつぶやいて頭を抱えている。
なんか、いろいろとこいつの予想外のことになっているようだ。
だが、それでも……
「とにかく、相棒。お前のおかげで全部うまくいったんだぜ」
「……は?」
「クッキーの件も、ヤミナルの件も、全部お前の助言があったからこそだ。あいつら、最初は俺を疑ってた。でも、俺がちゃんと話して、行動して、誠意を見せたら、心を開いてくれた」
「……」
「ヤミナルも、少し心を許してくれたのか、さっきもけっこうイチャイチャできた。キスもエッチも昨日より抵抗なかった!」
「そ、そうですか……いや、クロカワさんの前でそこまで話さなくても……」
「だから、感謝してる。これからも頼むぞ、相棒」
相棒が何に悩んでるかはわからねえが、それでもうまくいってることに変わりはねえ。それに、俺はいい思いができてる。なら、何も問題はなく喜んで感謝しとく。
すると、
「……あんた、そういうとこだけは素直っすね。まぁ、任せといてくださいっす。レイヴァさんのルート、なんだか変なことになってるけど、未来まで変にならないように軌道修正含めたサポートさせていただきますんで」
相棒は苦笑しながら、紅茶を一口飲んだ。
その隣で、クロカワが静かに微笑んでいた。
「さて、報告はこれぐらいにして……」
「?」
「ここからは相談だ……マキについてだ」
「ええ、マキ姫!?」
そう、ここからが本題。
俺がマキの名前を口にすると、相棒はジト目で……
「待ってくださいっす。あんた今日の今日でどれだけイベント起こしてるんですか?」




