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第14話 お前に嫌われたくないから

 捕虜として自室に滞在中の姫騎士勇者ヤミナル。

 ぶっちゃけ、今の俺がもっとも全てを欲している女と言えばあいつだ。

 イロカの様にただの性欲処理用の女としてではなく、シガーのようにお菓子代わりにいただく女でもなく、単純に俺だけの女にして生涯手放さないという想いをいだいている。

 高潔にして至高の女。それを俺は好きなようにできる。

 マキの様に「魔王様の娘」というしがらみがないから、気持ちも楽だしな。

 ヤミナルの部屋の扉の前に立ち、ノックもせずに開ける。


「よう、元気か?」


 ヤミナルは窓辺で立っていた。

 振り返ったその顔は、相変わらず凛としていて、どこか気高い。

 だが、目つきは鋭く、敵意を隠そうともしない。


「そなたか。わらわをまた辱めに来たのか?」


 その言葉に、俺は思わず笑った。


「ぐわはははは、なんだよ俺とのイチャイチャがそんなに嫌か?」


 ヤミナルは一歩前に出て、睨みつけてくる。


「クズめ。抱きたければ抱けば良かろう。どうせ抵抗できぬのだ。だが、どれだけわらわを穢そうと、わらわの心は折れることはないと知れ」


 その言葉には、鋼鉄の意思が込められていた。

 壁を作っている。高く、厚く、冷たい壁だ。

 俺はその姿を見て、ふと考える。


 ほんとにこいつの身も心も落とせるのか?


 と。

 正直、ヤリまくることしか考えてなかっただけに、相棒から今後の話を聞かされたから余計なことまで考えるようになっちまった。

 この世界や俺の悲惨な未来を回避するためには、こいつの心も手に入れなきゃならない。

 だが、今のこの態度を見てると、どうにも現実味がない。


「……まあ、今日は様子伺いに来ただけだ。元気そうなら、それでいい」


 すると、俺の言葉にヤミナルは眉をひそめた。


「……何のつもりだ?」

「つもりも何もねえよ。お前が元気かどうか、それだけ確認しに来た」

「……ふん。くだらぬ」

「くだらなくても、俺には必要なんだよ」

「……」


 ヤミナルは黙って俺を見ていた。 その瞳は、どこか揺れていた。 だが、すぐにまた鋼のような光を取り戻す。


「ならば、さっさと確認して帰るがよい。わらわは元気だ。心も折れてはおらぬ」

「そうか。なら、よかった」


 俺はそのまま部屋の中を進み、ちょうどいいテーブルの傍の椅子に座った。たぶん、客が来たり、こいつが部屋でティータイムしたりするのに使ってたんだろう。

 都合よく、淹れたばかりなのか、ティーポットには湯気が見える。


「……何をするつもりだ?」

「茶でも一緒にと思ってな。今日はお土産も持ってきたんだ」

「何を勝手に……それに、土産だと?」

「ああ」


 さて、こいつはどんな反応してくれるかな?

 俺は期待しながら、懐から菓子袋を取り出した。

 そして、身近な皿に袋の中のものを出して並べた。


「それは……っ!?」


 それを見て、ヤミナルもそれが何なのかすぐに分かったようで驚き、そして同時にワナワナと震えだした。


「……なぜ、それを……そのクッキーは……」

「ん? お前の好物だって聞いたからな。わざわざ街でもらってきたんだ。感謝しろよ」

「……っ!」


 ヤミナルは拳を握りしめ、テーブルを挟んで俺を睨んだ。 だが、その怒りはクッキーに向けられたものではなかった。


「そのクッキー……ヨックファックだろう?」

「おう、焼き立てだ。うめーぞ?」

「なぜ、それを……どこで手に入れた?」

「店の娘……シガーに作ってもらったんだよ」

「……シガー!」


 ヤミナルの表情が変わった。 怒りが、鋭さを増していく。


「彼女に……何かしたのではないだろうな!」

「は?」

「暴力や、脅しや、卑劣な手段で――!」


 ヤミナルはテーブルを叩いた。

 その音が部屋に響き、空気が一瞬で張り詰める。


「彼女は両親を亡くし、たった一人で店を切り盛りしていた娘だ! わらわも王都にいた頃、何度も通った。明るくて、真面目で、誰にでも優しくて……」

「……」

「そしてこの度、彼女の唯一の生きがいであり、希望でもあった店を……わらわが敗れ、そなたたちが壊したことで、彼女はすべてを失ったのだ!」


 ヤミナルの声は震えていた。

 怒りだけではない。

 悔しさ、罪悪感、そして――恐れ。


「そんな彼女に、貴様は、貴様は何をした!」

「おいおい、落ち着けって」

「落ち着けるか! 貴様は女を弄ぶ! わらわだけで飽き足らず……約束したはずだ! 民にひどいことはしないと! 貴様!」

「違う。俺は何もしてねえよ。協力してもらっただけだ」

「信じられるか! 彼女は美しく可愛らしい……あんな娘を前にして、貴様が何もしないなどありえぬ!」


 ヤミナルの声は怒りに満ちていた。

 シガーは、また奪われたのではないか?

 そんな不安が、言葉を鋭くしていたんだろう。

 でも、俺は……


「……ひどいことはしてねえよ」

「……!」

「いっしょに店を修繕して、キスしてエッチしたぐらいだ」

「……っ! 貴さまああああああああああやっぱりしてるのではないかあ!」

「ま、待て、ひどくない! ちゃんと和姦だ! 最後なんてむしろあいつのほうから誘ってきたんだぞ!」

「許せぬ、このクズめ! よくも……よくも!」

「和姦だって言ってんだろうが! お前は俺とシガーのカップルでのエッチ事情にまで口出すのかよ!」

「何がカップルだ! どうせ貴様が強引にヤッたのか、もしくは彼女の弱みや断れない状況を利用したのだろう!」


 そして、次の瞬間にはヤミナルの声が震えた。

 怒りの熱が、涙に変わる瞬間だった。


「頼む……もう……やめてくれ……民にひどいことは……それさえ守ってくれれば……」


 ヤミナルの手が、俺の胸元を掴んだまま、力なく震えていた。


「わらわは……なんでもする。何でも言うことを聞く。貴様の望むことはすべて……だから、頼む……」


 その言葉は、誇り高き姫騎士の限界だった。

 自分を捨ててでも、民を守ろうとする。その覚悟が、涙となって溢れていた。

 俺はその姿を見て、言葉を失った。 ヤミナルの心は、折れてはいない。

 だが、痛んでいた。 誰かを守るために、自分を差し出そうとするその姿は、俺の胸に刺さった。

 そして、ふとシガーのことを思い出す。

 あいつは、投げやりだったわけでも、脅されたわけでもない。 確かに、最初に迫ったのは俺だった。 だが、最後は――あいつの方から、俺に触れてきた。 頬を赤らめて、目を逸らしながら、それでも俺を拒まなかった。

 あれは、俺に惚れてた。間違いねえ。 だからこそ、俺は胸を張って言えた。


「心配ねえ。本当にひどいことはしてねえから」


 ヤミナルは顔を上げた。その瞳には、まだ疑念が残っていた。


「何を……信じられるわけが……」

「信じられねーなら、明日外出させてやるから、一緒に店に行くか?」

「……な、なに?」

「ちょっとずつ復興しようとしてる町も見せてやる。シガーの店も、通りも、全部見せる」

「が、外出? え、な、なに? わらわを……外に?」


 完全に予想外の提案だったらしい。

 ヤミナルは狼狽えて、言葉を繰り返すばかりだった。


「俺の言葉で信用してもらえないなら、見て信じてもらうしかねえ。だからシガーを見て、判断しろよ」

「……」


 ヤミナルは黙った。

 その瞳は揺れていた。怒りと疑念と、そして少しの希望。


「まさか……貴様、本当にひどいことをしてないのか?」

「決まってんだろうが」

「なぜ……?」

「お前に嫌われたくねーからだよ」


 その言葉は、俺の口から自然に出た。

 計算も、演技も、何もなかった。 ただ、思ったままを言っただけだった。

 ヤミナルは、目を見開いた。 そして、顔を真っ赤にして、言葉を失った。


「な、な、な……っ!」

「ん?」

「な、なにを……っ! そ、そなたは……っ!」

「いや、だから。お前に嫌われたくねーって言っただけだろ?」

「そ、そんなことを……平然と……!」

「平然じゃねえよ。けっこう勇気出して言ったんだぜ?」

「う、うるさい! 黙れ! クズめ!」


 ヤミナルは顔を覆って、窓辺に逃げるように歩いていった。 その背中は、怒りに震えていたが、どこか照れてもいた。

 俺はその姿を見て、思わず笑った。


「ぐははははっ、なんだよその反応。かわいいじゃねえか」

「黙れ! 黙れと言っている!」

「明日、行くぞ。外出許可は俺が出す。軍団長の命令だ」

「勝手に決めるな!」

「決めるさ。俺の女だろ?」

「う、うるさいうるさいうるさい!」


 ヤミナルは顔を真っ赤にしたまま、テーブルに並べられたクッキーに手を伸ばした。そして、むしゃむしゃと勢いよく食べ始める。


「おっ?」


 俺は思わず声を漏らす。さっきまであれほど怒っていたのに、今はクッキーに集中している。


「く、クッキーに罪はない……それに、せっかくの出来たてなのだろう?」


 ヤミナルはぶっきらぼうに言いながら、視線を逸らす。だが、その頬はまだ赤く染まっていて、耳まで熱を持っている。


「うむ……おいしい」


 その一言は、確かに「認めた声だった。高潔な姫騎士が、敵軍団長の差し出した菓子を食べて「おいしい」と言った。

 それだけで、俺はちょっと笑ってしまった。


「だろ? シガーが焼いたんだ。お前のためにな」

「……っ」


 ヤミナルは一瞬、手を止めた。 だが、すぐにまたクッキーを口に運ぶ。


「……シガーは、無事なのだな?」

「おう。元気にしてる。店も再建中だ。明日見に行けば分かる」

「……」


 ヤミナルは黙っていた。だが、クッキーを食べる手は止まらず、皿の上は少しずつ空になっていく。


「ぐははは、そんなに食うとは思わなかったぜ。お前、甘いもん好きすぎだろ」

「う、うるさい! 黙れ! これは……これは、ただの栄養補給だ!」

「はいはい、栄養補給ね。じゃあ、明日も補給しに行こうな」

「……っ!」


 ヤミナルはまた顔を赤くして、椅子の背に深く座り直した。

 それがかわいくて、俺は気づけば椅子をヤミナルに寄せ、肩を組み、顎をつかんでそのままキスしてた。


「んむっ!?」


 不意打ちのキス。

 一瞬、時が止まった。ヤミナルの瞳が見開かれ、体が硬直する。

 唇を離すと、ヤミナルは一瞬固まったまま動かなかった。

 瞳は見開かれ、頬はみるみるうちに紅潮していく。

 その姿は、いつもの鋼鉄の姫騎士とはまるで別人だった。


「……ば、ばかもの! な、なにを!」

「いや、キスしたくなったから……」


 ヤミナルは一歩後ずさり、胸元を押さえながら俺を睨んだ。


「急にキスなど……ひ、卑怯だ! 卑劣! 無礼! 不埒! 変態! スケベ! 下賤! ……っ、ばか!」

「ぐわはははは、いいじゃねえか、お前になら何でもしていいんだろ?」

「そ、それはそうだが、ぐう、うううう~~~ う、うるさい! 黙れ! ばか! ばかレイヴァ! このたわけレイヴァ!」

 

 罵倒の語彙が怒涛のように飛び出す。だが、どれも声が震えていて、どこか照れ隠しのようにも聞こえた。

 そして激しく怒りにプルプル震えながらも、ヤミナルは唇を指でなぞり……



「……レイヴァ」


「ん?」


「次にする時は……予告してからにしろ。心の準備というものが……」



 まったくかわいいやつだぜ、ほんと最高の女だ。

 だから俺は……


「じゃあ、予告する。今から晩飯までエッチしようぜ」

「……ふぇ?」


 ヤミナルを椅子から抱きかかえ上げ、そのままベッドに……


「ちょ、ま、まて、な、なぜ、いや、なぜ」

「お前が予告しろって言ったからな」

「そ、それは、キスの話で、あ、まて、脱がすな、せめて風呂で体を……ふぁあああ」



――♡♡♡♡



 クッキーと一緒に美味しくいただいた。




【回数状況】

・姫騎士勇者ヤミナル:18回

・異世界黒ギャル・花見色香:6回

・菓子職人美女シガー:5回



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