第13話 復興の一歩
数時間後、俺の命令を受けた魔族兵たちが、商業通りに集まっていた。
黒い軍服に身を包んだ屈強な兵士たちが、黙々と瓦礫を運び出していく。
焼け焦げた梁、崩れた壁、砕けた窯の破片。それらを一つずつ、片付けていく。
「おい、そっちは慎重にな。窯の基礎がまだ残ってるかもしれねえ」
「了解です、軍団長!」
兵士たちは俺の指示に従い、無駄口を叩かずに動いていた。
戦場では破壊の象徴だった彼らが、今は再建のために汗を流している。
その様子を、通りの端から見ていた民衆たちが、少しずつ近づいてきた。 最初は遠巻きに見ていただけだったが、やがて誰かが声を上げた。
「あの……手伝っても、いいですか?」
それは、年配の職人だった。
顔に煤が残り、腰に工具袋をぶら下げている。
「おじさん、ありがとう」
シガーが駆け寄って頭を下げると、職人は照れくさそうに笑った。
「なーに。シガーの両親は俺の親友だったんだ。あいつらが大事にしてたこの店を、残されたお前が立て直そうって立ち上がったんだ。協力するしかないだろ」
その言葉に、周囲の空気が変わった。
若い男たちが工具を持って集まり、女たちが水を運び始める。
「そうそう、シガーちゃんのためなら」
「俺らもここのクッキーのファンだったんだ」
「焼きたてを並べる時の、あの甘い匂い……また嗅ぎてえな」
誰かが笑った。 それにつられて、別の誰かも笑った。
敗戦してからずっと沈んでいた王国の民たちの間に、久しぶりの笑顔が広がっていく。
シガーはその光景を見て、目を潤ませながら呟いた。
「……こんなこと、あるんだ……」
俺は彼女の隣に立ち、腕を組んで瓦礫の山を見つめた。
「あるさ。お前が『焼きたい』って言ったから、みんなが動いた。それだけのことだ」
「でも……私、何もできてないのに……」
「違う。お前が立ち上がったから、みんなが立ち上がれたんだ」
シガーは黙って俺を見た。 その瞳には、もう怯えも怒りもなかった。 代わりに、決意と、少しの照れが混ざっていた。
「……ありがとう、レイヴァさん」
「いや、壊したのは俺らだから、礼は変じゃねえか?」
「そ、そうですね、それは……」
シガーは思わず苦笑した。 その笑いは、どこかくすぐったくて、柔らかかった。
俺は彼女の横顔をちらりと見た。 さっきキスして抱いた時のことが、ふと頭をよぎる。
あの時、シガーは驚いていた。
でも、拒絶はしなかった。 むしろ、観念して受け入れた。
本人は『ただ寂しかったり、投げやりになっただけの気の迷いだった』そう思い込もうとしていたのかもしれない。
だが、今こうして隣に立っている彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていて、視線は落ち着きなく揺れていた。
「ま、いずれにせよ礼は不要だ。俺の女の店なんだからな」
「……え?」
シガーが顔を上げる。 目が大きく見開かれている。
「わ、私……レイヴァさんの女なんですか?」
「あたりめーだ。俺の女だからキスして抱いたんだぜ?」
「……っ!」
シガーは顔を真っ赤にして、両手で頬を覆った。
そして、少しだけ俯いて、震える声で言った。
「そ、そう言って……レイヴァさんはただエッチなだけです~」
その言葉に、俺は思わず吹き出した。
「ぐははははっ、なんだそれ。俺がエッチなのは今に始まったことじゃねえ」
「もう……ほんとに、軍団長なのに……」
「軍団長でも、女の前じゃ男だ」
シガーは照れながらも、少しだけ笑った。
その笑顔は、さっきまでの涙とは違って、確かに前を向いているものだっ
「ふふ……わかりました」
その後も作業は続いた。
魔族兵が瓦礫を運び、職人が窯を組み直し、民衆が壁を塗り直す。 誰もが汗を流しながら、黙々と手を動かしていた。
夕方には、店の骨組みがほぼ完成していた。 窯の修復も終わり、試運転の準備が整う。
「シガー、火入れはお前がやれ」
「えっ、私が?」
「お前の店だろ。お前が最初に火を灯せ」
シガーは頷き、窯の前に立った。 手にした火種を、そっと窯の奥に差し入れる。
「……お願い。もう一度、焼かせて」
火が灯った。 窯の中で、赤い炎がゆらめく。 その光が、店の中を、通りを、そして人々の顔を照らした。
誰かが拍手した。 それにつられて、また誰かが拍手した。 やがて、通り全体が拍手に包まれた。
シガーは涙をこぼしながら、笑っていた。
「……焼くよ。もう一度、あの味を」
俺はその背中を見ながら、静かに呟いた。
「ぐわははは、これでヤミナルの攻略準備は整ったな」
だが、それ以上にこの街に、少しだけ何か変化が起こったような気がした。
「みなさん、ありがとう! 絶対においしいクッキーを焼いて、皆さんに配ります!」
店の修繕が進み、窯に火が入り、通りには少しずつ人の声が戻ってきた。
シガーは笑顔を見せながら、職人たちにお茶を配っていた。
だが、ふと立ち止まり、周囲を見渡した瞬間、その表情が曇った。
「……」
その視線の先には、いまだ瓦礫と化している商業通り。
その曇った様子から何となく今のシガーの気持ちを俺は理解できた。
自分の店は、魔族兵と民衆の手でどんどん直ってきている。 だが、それ以外の建物は、まだ瓦礫のままだった。 焼け落ちた屋根、崩れた看板、閉ざされた扉。 かつて賑わっていただろう商業通りの面影はまったく戻っていない。
「……」
シガーは唇を噛んだ。
たぶん、自分だけが特別扱いされているような気がして、胸がざわついたんだろうな。
そして、意を決して様子でシガーは俺のもとへ歩み寄る。
「レイヴァさん……」
「ん?」
「私がレイヴァさんの女で、レイヴァさんは自分の女の願いを叶えてくれるなら……」
「……あ?」
シガーは躊躇いがちで言いにくそうに肩を震わせている。
(どうしよう……いくら何でも図々しいかな……調子に乗るなとか言われないかな……でも……でも、私だけっていうのも……レイヴァさんが私なんかの庶民の女の願いなんて……私がレイヴァさんの女だとかそういうのも、きっとただのリップサービスというか……私なんてちょっとエッチできそうな女の子ぐらいにしか思われてないのかもしれない……だけど……だけど!)
だいぶ悩んでいるようでモゴモゴモジモジしながらも、シガーは顔を上げて……
「他のお店や建物とかも……直してもらえませんか? この通り、昔はすごく賑やかだったんです。私だけじゃなくて、みんなが笑えるように……」
どうやら、俺が思った通り、シガーは自分だけが特別に直してもらったことに後ろめたさを感じてるようだ。
別に気にしなくてもいいだろうに、とはいえこれを無下にしたら……
「ここのクッキーをヤミナル大好きだったわけだから……」
「え?」
「ヤミナルの機嫌をよくするためには、シガーにはもっとクッキーを作ってもらわなきゃならん。で、シガーの機嫌を損ねるわけにもいかねえ」
「……え?」
「つまり、シガーの願いは叶えなきゃならん。論理的だろ?」
「え、ええと……はい?」
「まかせろ」
とりあえず、それには応えなきゃならんので、受け入れてやることにした。
「野郎ども! シスクの家の片づけが終わったら、順次他のもやっていくぞ! 働くぜ~!」
「レイヴァ……さん……」
「シスクとも相談して商業通り全体の復興計画を立てるぜ! 人員を倍に増やして、他の店舗も順次修繕だ! そろそろ戦争でケガしてたやつらも回復して起きだすころだし……リハビリは訓練より、こういう力仕事がちょうどいいだろ!」
魔族兵たちが再び動き出す。 通りの奥へと向かい、瓦礫の山に手をかける。
民連中はポカンとし、言い出しっぺのシガーも同じ顔してる。
「あ、あの、レイヴァ……あの、ほ、本当に……い、いいんですか?」
「しつこい」
「んむっ!?」
信じられないといった様子で見上げてくるシガーに対し、俺は抱き寄せながらその唇をまたいただき……
「こういうときは、確認でも、礼でもない……惚れたと一言言って、キスして乳と尻でも揉ませてくれりゃそれでいい♪」
「っ、……あは……もう、レイヴァさんってば、それさえなければ本当に……んもぉ……」
シガーは顔を赤らめながらも微笑み、そして俺に身を寄せて小さな声で……
「キスして……揉むだけで……いいんですか?」
「…………」
「私……もういっかいぐらい……デキますよ?」
今度はシガーの方からのお誘い。もちろん、これも美味しくいただいた。
【回数状況】
・姫騎士勇者ヤミナル:13回
・異世界黒ギャル・花見色香:6回
・菓子職人美女シガー:5回




