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第12話 お菓子を食べる

 俺は、王都へと向かう。

 目的の店、ヨックファックとやらを探すため。


 だが、当然のことだが王都の商業通りは、無残なものだ。

 瓦礫と焦げ跡、割れた窓、崩れた屋根。 戦争の痕が、通りの隅々にまで染みついている。


「……おお、ひでーもんだな……まあ、やったのは俺らなんだけどな」


 それにしても、相棒に言われるがままここまできたものの、この中からクッキーなんて菓子を売ってた店を探すなんてのはだいぶ難しいな。

 ただでさえ、そんなお菓子屋に行ったこともねえのにな。シスクを連れてくればよかったか?


「ダメだ……分からん」


 俺はため息をついた。

 ヤミナルの機嫌を取るために、わざわざ来たってのに、これじゃ話にならねえ。


「はあ……私……これからどうすれば……お父さん……お母さん……」

 

 そのとき、瓦礫の前にしゃがみ込んでいる若い娘が目に入った。

 肩を震わせ、顔を伏せて泣いている。

 金茶の髪をゆるく結び、薄汚れたエプロンを身につけているが、顔立ちは整っていて、かなりの美人。

 

「……死んだお父さんとお母さんから受け継いだこのお店を、私の代で終わらせちゃった……」


 呆然とした声。涙で濡れた頬に、絶望が刻まれていた。

 まあ、こういうのは今の王都にはいくらでもいるんだけど……


「お父さんの作ったクッキーを……いろんな人たちに届けたかったのに……ごめんえ、お父さん……お母さん……もう……もう」


 それが何の店かと分かった瞬間、俺は即座に駆け出していた。


「……おい」


 俺は近づいて声をかけた。 娘は顔を上げ、俺の姿を見た瞬間、目を見開いた。


「……っ!」


 その瞳に宿ったのは、恐怖だった。

 俺の軍服、剣、そして顔。 王都の人間なら誰でも知っているだろう。

 この王国を陥落させ、この惨状を作り出した元凶、魔王軍の軍団長。

 娘は後ずさり、瓦礫に手をついて震えながら言った。


「ひっ……ち、近寄らないで……お願い……殺さないで……」

「殺す気はねえよ。危害を加える気もねえ」

「う、嘘……あんたたちが……この街を……この店を……!」


 娘の声が震えながら怒りに変わっていく。


「全部、あんたたちの所為で! お父さんの店を守れなかったのも、私が何もできなかったのも、あんたたちが戦争を起こしたから!」

「……」


 怯えていたはずが、それよりも俺に対する怒りが上回ったのか、それとももうどうなってもいいと思っているのか、娘は言いたいことをいう。


「あ、危ない、シガーちゃん!」

「やめろ、シガー、その人は魔王軍の……」

「おい、お前、シガーを助けろよ!」

「ば、ばか、こ、殺される、だって、あいつにはヤミデルさんも勝てなかったって……」


 俺が目の前の女、シガーっていうのか? とやり取りしているのを見て、民連中も慌てただす。

 だが、誰かが体を張って助けに入ることはなく、誰もが俺にビビっていた。

 もっとも、今はそんなことをするために来たわけじゃないから、本当に心配はいらねーんだけどな。

 俺は怒りの表情を浮かべているシガーに尋ねる。



「なあ、クッキーが欲しいんだけど、余ってないか? もしくは売ってないのか?」


「は?」


「それを食いたい奴がいるんでな、あるんだったらくれよ」



 俺がそう言うと、さっきまで怒ってた顔が、さらに怒りに満ちて、美人台無しな形相でシガーは叫んできた。


「何言ってるの! お店は壊れて、材料も焼けて、焼き窯も潰れて……何も残ってないのよ!」


 俺は瓦礫を見渡した。 焼け焦げた木材、砕けたレンガ、崩れた棚。

 たしかに、酷いありさまだな。

 ここでクッキーを作るには、やり方は分からなくても、色々と準備が必要だ。


「そっか……じゃあ、どうやったらまた作れる? 必要なことはしてやるからよ」

「……ふざけないでよ!」


 だが、俺のその問いに対して、余計にシガーを怒らせてしまったようだ。



「私たちから全部奪って、壊して、焼いて、踏みにじって……そんなことしたくせに、どうやったらまた作れるか? 必要なことはしてやる? 軽々しく言わないで!」


「……」


「お父さんとお母さんの店だったのよ! 私が小さい頃から、ずっと一緒に焼いてたの! あの窯も、あの棚も、あのレシピも、全部……全部、思い出なの! それを、あんたたちが……! 鬼! 悪魔! 全部あんたたちの所為なんだから!」



 俺は黙って聞いていた。

 ま、こういうのは戦争ならではだし、別にイチイチ心を痛める気もねえ。 

 本当なら「うるせえ」と言って、犯して黙らせるところかもしれねーが、相棒にも忠告されてるからそれはできねえ。

 それに、クッキーは必要なのは変わらない。

 だから、恨まれようと、怒られようと、俺は構わず言うしかねえ。



「それでも、お前は生きてるんだから、やろうと思えばできんだろうが」


「……は?」


「今こうして軍団長でもある俺様自ら、『クッキーが欲しい』って言ってる。つまり、需要があるってことだ。なら、儲けものだと思って、どうやったら作れるか言ってみろよ。そこら辺の下っ端どもと違って、俺が要求してるんだ。そして俺なら必要なものを手配できる」


「……」


「瓦礫の撤去か? それとも調理場や窯の整備か? 材料か? 人手か? 金か? 何が必要なんだ?」



 シガーは言葉を失った。なんだか怒りの熱が、少しずつ冷めていくように見える。 代わりに、呆然とした表情が浮かぶ。


「……そんなこと、考えたこともなかった……だって、もうこんなことになって……もうおしまいだって……」

「じゃあ、今考えろ。どうやったら、また焼ける?」


 騒いでたシガーも言葉を失い、沈黙が落ちた。

 商業通りの風が、瓦礫の隙間を抜けていく。 シガーは、崩れた店を見渡しながら、ぽつりと呟いた。


「……まず、窯……あれがないと、焼けない。レンガが割れてるから、組み直さないと。ちゃんと瓦礫も撤去して……」


「窯の修復と瓦礫の撤去だな。次は?」


「……材料。バターと小麦粉と、塩キャラメルの素。チョコレートを冷やしたりも必要で、温度管理が難しいから、温度計も欲しい」


「なるほど。温度計もか」


「あと……棚。焼き上がったクッキーを冷ます場所が必要。今は、全部潰れてるから……」


「棚の修復。冷却スペースの確保。続けろ」


「……人手。私一人じゃ、全部は無理……」


「俺が手配する」


「え……?」


「軍団長の命令だ。人手くらい、いくらでも出せる」



 シガーは言葉を失った。 その瞳に、少しだけ光が戻っていた。


「……本当に、また焼けるの……?」

「焼けるさ。食いたいってやつがいて、お前が“焼きたい”って思うならな」


 とにかく俺はこのクッキーなければヤミデルを攻略できないみたいだし、何とか作らせないとな。

 そう思ってるだけなんだが、何だか娘が頬を赤らめてなんかブツブツ言ってる。

 俺は瓦礫の店を見渡し、そしてシガーの顔に目を戻す。 涙の跡は残っているが、整った顔立ちと気品ある雰囲気は隠しようがない。

 やっぱ、怒って酷い形相だったけど、こうしてみるとやっぱ美人だな。


「それに、こんな美人が作って売ってるクッキーなら、また商売始めりゃすぐに大人気だろうな。なんだったら、魔王軍も買うかもな」

「……は?」


 シガーは一瞬ぽかんとした顔をしたあと、頬を赤く染めて視線を逸らした。


「な、んなの……冗談言わないでよ」


 シガーは慌てて手を振った。 頬が少し赤くなっている。


「美人っていうのは、ヤミナル様みたいな御方とか、他にも貴族の美しい方とかいて……私みたいな庶民の小麦粉塗れの女に、そんなお世辞言ったって……」

「いやいや、肩書関係なくお前はどう見ても極上の女だろ?」


 俺は真顔で言った。 シガーは目を見開き、言葉を失う。


「化粧を大してしてないのにこんなに整ってる。素材はそこらの貴族娘なんかよりも全然いい。着飾ってる女より、ありのままっていうのもホッとする感じだしな」

「……っ」


 シガーは顔を真っ赤にして、視線を逸らした。

 指先が落ち着きなく動いている。 胸元に手を当てて、呼吸が少しだけ浅くなっていた。

 俺は一歩、距離を詰める。 そして、そっと彼女の肩に手を置いた。


「証明してやる。お前は魔王軍軍団長が思わず手を出したくなるほどイイ女だってな」

「え……?」


 そのまま、俺はシガーの唇に軽くキスをした。

 驚きで目を見開いた彼女は、動けずにいた。 だが、すぐに俺から離れようとする。


「ちょ、ちょっと……!」


 身を捩るシガーだが、逃がさない。

 俺もその気になっちまったから、抱きしめてもう一度キスをする。

 すると、俺から離れようとしていたはずのシガーだが、徐々に抵抗が弱くなって、しかも固く閉ざして俺の侵入を防ごうとしていた唇が徐々に開き、瞳もトロンとして俺に身を委ね始めた。

 やがて俺は彼女を解放した。 シガーの顔は紅潮し、呼吸は乱れていた。


「……証明できただろ?」


 俺はシガーを見据えた。 シガーは潤んだ瞳で、ゆっくりと頷いた。


「……わ、分かりません……これだけじゃ……わ、私、初めてだから……こういうの」

「じゃあ、もっと頑張って証明しないと分かってもらえないってか?」


 俺はニタリと笑みを浮かべ、そのままシガーを奥へと連れていく。調理場はぐちゃぐちゃになっているものの、家の中、寝室はまだ使える状態だった。


「ま、待って……こんなことしたら、ほ、ほんとに……」


 シガーはベッドの上で、恥ずかしそうにしている。


「ああ、俺がどれだけ本気でお前をいい女だと思ってるか証明してやる」

「だ、だから……待って……あ、待って下さい、わ、私、まともにお風呂も、だから汚くて……」

「何度もキスできるほど極上だ。汚くなんてねえよ」

「し、下着だって……ヨレヨレで……」

「お前はイイ女だよ、シガー」

「あ―――――」


 そして、俺はシガーをふにゃふにゃになるまで抱きまくった。





 ―――めっちゃ美味しいお菓子だった





【回数状況】

・姫騎士勇者ヤミナル:13回

・異世界黒ギャル・花見色香:6回

・菓子職人美女シガー:2回


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