第10話 チョロイン
寝室に戻ったら、爆睡しているイロカ、そして未だに服着たまま硬直している相棒とクロカワが正座でお見合いしていた。
「お前ら、まだヤッてないのか！」
俺が居ない間に、相棒がクロカワを抱いているかと思ったが、まさかまだとは。
どんだけ奥手なんだよこいつら。
「や、だから、レイヴァさん……その、俺達はそういうのは……」
「ったく、ヘタレだなァ、相棒は。ほんとはヤリてーくせに」
「も、もうそれはやめてくれよぉ……」
そして、なんというかもう泣きそうになってるよ。ここまでくると、色々と心配になってくるぞ。
「ったく……で、クロカワの方はどうなんだよ。お前も俺とイロカのエッチを見て、だいぶ興奮してただろ？ 正直に言ってみろ」
「っ……」
クロカワも顔を真っ赤にして俯いた。 こっちもかなり恥ずかしそうにしているが、相棒と違ってちょっとはムッツリスケベなのか？ 少しはそそられたのか？
だが、クロカワは顔を上げて言った。
「……私は……私も、その、やっぱり初めてはもっと特別に……って」
めんどくさ。さっさとヤレばいいのに。マジでこいつ、相棒の女じゃなかったらとっくに裸にして犯してたよ。
相棒もメンドクセー女をあてがっちまったな。いや、ある意味で似たもの同士ってことでもあるのか？
「ったく……まあいいや。もう、お前らがそれでいいならよ。その代わり、ちゃんと相棒も俺を手伝い、クロカワは相棒を手伝えよな？」
「う、うん……」
「は、はい……」
二人は頷いたが、やっぱりまだ恥ずかしがりながら、俺と目を合わせようともしねえ。 だが、まあ、いいだろう。
この二人もそのうち慣れてくれるだろうし、俺の言うことも素直に聞いてくれるだろうし。
「ところで相棒。相談があるんだが……」
「え、相談……？」
「マキ姫についてだ。あの女、どう攻略すればいい？」
そう、俺が一番の問題として気になっているのはそこだ。 あいつをどうにかしねえと話にならねえ。
だが、相棒は俺の言葉を聞いて、目を丸くしていた。
「あの、レイヴァさん……答える前にこっちも教えて欲しいんだけど、マキ姫と会って、なんて言われた？」
「あ？」
「一応……確認しとこーかなって思って……超どテンプレのツンデレかを一応……」
「つんでれ？」
「いや、コッチの話。とにかく教えて」
相棒は俺とマキがさっきどういう会話をしたのか気になる様子。
だから、俺はありのままに答えてやった。
「なんて言われって……あの女はいつもどおりだ。相変わらず俺のことが大嫌いみたいでな。『姫騎士勇者のヤミナルを絶世の美女と呼ばれるあの女を抱いたのかしら？』とか『人間の女を抱いて満足するなんて、下賤な男』とか……あと……スゲー散々なことを早口で言われたぞ？ 『私としては、あなたがどこの女を抱こうと、どうでもいいんだけど、すごく、すごく、すご～～～く、どうでもいいんだけど！ どうでもいいんだけど！ か、仮にも誇り高き魔王軍の軍団長ともあろう男が、人間の女なんて家畜にしかならない下等種を抱いて満足するなんて、ほんとにあなたってどうしようもない男ね！』 だったかな？ な？ ヒデーだろ？」
思い出しただけでも可能性が微塵も感じられない散々な言われようだ。
その酷さを相棒とクロカワに伝えたところ……
「うわァ…………」
「あらァ…………」
なんか、二人が物凄い哀れむような表情をしてるんだけど！ なんで？
「レイヴァさん……少しは乙女の気持ちを理解しないと、ヤミナルとかも含めて攻略大変ですよ？」
「私、さっきまでの行為を見せられて自分が子供なんだと思い知らされたけど……この人の方が……」
なんだ！？ こいつら童貞と処女の経験なしコンビのくせに、この俺にダメ出しされたぞ？
すると、相棒はポンと俺の肩に手を置いて……
「レイヴァさん、何も心配いらないっす」
「は？」
「マキ姫は攻略する必要がないんです。だって、もう――」
相棒は指を立てて、堂々と言い放った。
「とっくに心は攻略されてるんで」
「…………は？」
俺は完全にポカンとした。 口が半開きのまま、思考が止まる。
「いやいやいやいや、待て待て待て。何言ってんだお前」
「もう、ぶっちゃけるとっすね、マキ姫はレイヴァさんを幼いころから大好きで、初恋で、もう結婚することしか考えてないぐらいなんすよ」
「……いや、何言ってんだよお前」
俺は眉をひそめて相棒を見た。 さっきから何を言ってるのか、まるで現実味がない。
「マキが俺を好き？ 初恋？ 結婚？ ……そんなわけあるか。あいつ、俺のこと『駄犬』って呼んでんだぞ。毎回罵倒しかしてこねえんだぞ？ そう、俺だけにしかそんなふうに言わねーんだぞ！」
「それ、好きな人だからソレを悟られないように照れ隠しで言ってるんですよ……レイヴァさんにしか言わないってことは、レイヴァさんだけが特別ってことっす」
相棒は真顔で言い切った。 俺は言葉を失った。 何かがズレてる。いや、俺の認識がズレてたのか？
すると、黙って聞いていたクロカワが、静かに口を開いた。
「……あの、私はゲームのこととか全然知りませんけど、今の話を聞いてるだけで、そのお姫様がレイヴァさんのこと大好きってのは……会ってないのに分かりました」
俺は彼女の顔を見た。
その表情は、どこか呆れが混ざっていた。
「……マジで？」
「ええ。たぶん、レイヴァさんが他の女にばかり手を出してるのが、すごく寂しいんじゃないですか？」
「……」
俺が言葉を失った。
すると、クロカワは相棒を見て……
「ねえ、宙仁くん。ひょっとしてそのお姫様がここにわざわざ来たのも、仕事がどうのじゃなくて、ただ単にレイヴァさんに会いたくて会いに来たんじゃ……」
「エロゲーなんかとは無縁の黒川さんでも分かるぐらい分かりやすいよね……うん、それが正解だよ」
ま、まじか……っていうか、クロカワまでもがそういう認識なのか？
え？ マキが俺のことを好き？ ゾッコン？
「じゃあ……ど、どうすりゃいいんだ？ 俺は」
と、俺が問うと、相棒は真顔で……
「実はマキ姫に関しては初心者プレーヤーのサービスみたいなスーパーチョロインなんです。会って、口説いて、エッチいっぱいするだけで完全攻略可能なんです」
と、俺が散々相棒とクロカワにエッチしろって言ってやらなかったくせに、相棒が俺に対して同じことを言ってくる始末。
「って、ちょっと待て！ 相手は魔王の娘、魔界の姫だぞ！ 会って口説いてエッチしろって、そんなサラリとやるもんじゃねえだろうが！ ミスったら処刑されるんじゃねえのか、俺！」
「いや、ぜっっったいにありえないんで大丈夫っす」
相棒はこの世界や俺の未来を知っているということだが、しかしこれを真に受けてイイんだろうか？
「し、しかし……口説いてエッチしろって……ん～……」
「一発ヤレばそれで完全にデレデレになりますよ。あと、ヤルならかなり強引に、そしてオラオラオラオラって乱暴な感じがメッチャ好まれます」
「……いやいやいやいや、あんな超サディスティックな女にそんなのやったら余計にダメだろうが！」
「それがそうでもないんすよ。あの人、惚れた男、つまりレイヴァさんは色んな女を強引に犯して抱いてて……あの人は自分も同じようにされたいって、いつも妄想して悶々として、あんたに抱かれるより犯されたいっていう感じの人なんで……それどころか虐げられてペットにされたいとか思うような、実はドMな人なんで……もう、そういうプレイしたらご主人様とか言ってくれるっす」
「あ・り・え・な・い・だろーっ！」
嘘だ。絶対にありえねえ。あのマキがそんなことになるなんて、それこそ世界崩壊並みの衝撃だろうが。
「あ、でも一回エッチしたら定期的に相手しないとダメですよ？ たとえば、一回エッチしてそのあと放置してヤミナルとエッチばっかりしてると、嫉妬でヤミナルを殺そうとしたり、レイヴァさんを刺して『コレデアナタハワタシダケノモノ』なんて、ヤンデレバッドエンドコースも一応あるんで」
「……宙仁くん……この世界ってそんなエッチなゲームの世界なのね……というか、あなたは何でそんなゲームをやってるの？」
しかも、サラリとヤミナルや俺が殺される展開もあるとか、本当にそんなことありえるのか？
「ただ、ハーレムエンドを目指すなら、ちょっと工夫が必要になってくるんすけど、それはもうちょいヤミナルさんの好感度が上がってからの話なんですけど、ただ今のうちに言っておくと……」
「ま、待て待て待て、情報量が多すぎて頭の中で整理できねえ。とりあえず、当面問題ないんだったら後回しでいい！」
「あ～……そうすか？ まあ、今の時点だとそこまでは心配ないから……いいのかな？」
