人間らしい
翌日、レイナは支えがあれば立つことができるようになるまで回復していた。
「この調子で回復すれば明日には普通に歩けるようになるだろう。よかったな。」
笑顔でそう言った。しかしレイナの表情は浮かないものだった。
「そうですね。早く回復できてよかったです。」
「あぁ、とはいえ今の段階じゃあ全快とはいえないから今日もゆっくりしてるんだぞ。」
「はい、わかりました。」
レイナはまたベットに潜り込んだ。
私は彼女が浮かない表情をしている理由をなんとなくではあるが理解していた。だが、魔王幹部である私が人間同士のいざこざに首を突っ込むなど、誰が見ても馬鹿げていてありえないことだと理解していた。
だから私は明日レイナが全快したら勇者の元へテレポートの魔法を使って送り返すだろう。たとえそれが私に大きな後悔を残すことになると分かっていてもだ。
だが、せめて今日までは面倒見てやろう。今この瞬間がレイナにとって安息の時間となるように。
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私はどうして魔族幹部である彼女に対してこれほどまでに安心していられるのかわからない。
私には母親がいないからこの表現が正しいのか定かではないが、まるで風邪をひいてしまった子供を甲斐甲斐しく世話する母親のように時々思える。
一度そう思ってから、この短い時間で何度も彼女に甘えたいと思い、その度にそれはありえないことだと私の理性に何度も叱られ、彼女は私だけに特別優しいのではなく誰に対しても同じように接する、特別ではないと何度も自分自身を説得した。
しかしそれでも私の願いは変わらなかった。
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私の部下は本当に難儀なものだなとつくづく思う。
五百年前に私の目の前に現れて以来一切名乗ろうとしない吸血鬼の少女はまたもや自ら厄介ごとを持ち込み、苦悩している。
私からすれば人間など切って捨てて仕舞えばそれで仕舞いではないかと思うのだが、それは彼女が人間を殺せないせいで出来ない、いや、初めから選択肢にないのはそれなりに付き合いの長い私には分かっている。
それ故に口出しも手出しもするつもりはないが、それでも人間がらみのことで苦悶し苦悩する彼女を見ていると人間として生まれた方が生きやすかっただろうなと馬鹿げたことを思うのだ。
それほどに彼女は魔王である私より絶大な力を持っていながら、ひどく人間らしい。