お疲れですな
私のフロアに戻ってきてみると、あんなに元気に話していたレイナは爆睡していた。みたところ魔力は順調に回復していってるようだが疲れは相当溜まっているようだ。
そりゃあんな勇者と常日頃一緒にいれば気疲れするだろうし、おそらくだが普段からあまりいい扱いは受けていなかったのだと思う。だから敵地の真っ只中だというのになんの警戒心も見せずに眠りこけてしまうのも無理はないのだろう。
しかし、なぜレイナはあそこまでぞんざいな扱いを受けていたのだろうか。勇者パーティと対峙したところレイナの補助魔法を要として戦っているように見えた。魔法使いの大魔法も、騎士の大技も、勇者の必殺技だってレイナのバフがあってこそあの威力が出せていたのだろう。その証拠に勇者たちはあれから何度か城に来て私が張った結界に攻撃を仕掛けているが一向に破られる気配がない。魔法使いに至っては大魔法を使おうとする素振りも見えない。
明らかに威力が落ちているのだ。それも私でなくても一目でわかるほどに。
果たして彼らはそれを理解しているのだろうか。もし理解した上でぞんざいな扱いをしていたのだとしたら意味がわからないし理解していなかったのだとしたらただのバカだ。
まぁ、どちらにしろ彼らには誰かを救う器などないことには変わりないのだろうが、それは私も人のことが言えない。なんせ私魔王幹部だし。
「...あの、すみません。」
なんて考え事をしていたら、レイナが声をかけてきた。どうやら目を覚ましていたようだ。
「なんだ?まだ寝ててもいいんだぞ?」
「ありがとうございます、でもたくさん寝たので大丈夫です。」
「そうか、でもまだ体は動かないだろう。もう少しゆっくりしなよ。」
「本当にありがとうございます。あの、少し聞きたいことがあるのですが。」
「ん?どうかしたか?」
「あなたは私を殺したりしませんか?」
「なんだいきなり。私は人を殺したりできないぞ。」
「本当ですか?私のことを踏んづけたり、髪の毛を引っ張ったり、泥水を飲ませたりしませんか?」
私はレイナが魔力枯渇で倒れた時、勇者がレイナのことを踏んづけようとしていたことを思い出した。きっとあの時だけではなくて、常日頃からあのようなことをされてきたのだろう。
「しないよ。私は魔族だが鬼ではないからな。」
「ふふっ、でもあなた吸血鬼ですよね?」
「あ、言われてみればそうだな。」
「変な魔族、でもたとえ嘘でも少し安心しました。」
「そうか、もう一眠りするか?」
「そうですね、じゃあ少しわがまま言ってもいいですか?」
「おう、なんだ?」
「私が眠りにつくまで、手を繋いでいてはくれないでしょうか?」
「手をか?まぁ別に構わないが。」
「ありがとうございます。」
だめだと突っぱねてもよかったのだが、今までの話から察せられる彼女の待遇や今の彼女の置かれている状況を鑑みて、少しでも安心させてやりたかった。
私は彼女が寝ているベッドに腰掛け、そっと手を握ってやった。