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第八十一話 断罪の橙焔―ジャッジメント・サン―

『ッ! 《氷柱雨撃アイシクル・レイン》、《光裂剣シャイニング・サーベル》!』


 報復者リタリエイターは、僕を迎え撃つべくスキルを多重起動マルチ・タスクする。

 

 空からは氷柱つららの雨。

 万が一それをかい潜っても、身体の前で交差させた光の剣で斬り捨てる構えだ。


(この防御を突破できるか、それともできずに敗北するか、だな!)


 どちらにせよ、この一相で趨勢が決する。

 

「《龍鱗ドラゴン・スケール》、《火炎付与フレア・エンチャント》、《灼熱伝導ヒート・コンダクション》、多重付与マルチ・エンチャント!!」


 右腕に龍の鱗をびっしりと生やし、その鱗に火炎魔法スキルを付与する。

 流石ドラゴンの鱗というべきか。

 熱と炎で外側の表面温度は摂氏1000度を優に越えているはずなのに、右腕に熱さを感じない。


 突っ込む速度を緩めず、炎を纏った右腕を大きく弧を描くように振るう。

 その軌跡が橙赤色の炎を空中へ振りまき、拡散。擬似的な熱と炎のバリアを形成する。


 僕の周囲を取り囲む熱と炎は、降りしきる氷柱の大群を瞬く間に溶かし、一切寄せ付けない。


『クソッ!』


 光の剣の出力を最大まで上げた報復者リタリエイターもまた、勢いよく突進してくる。

 瞬く間に詰まる彼我の距離。


 僕は炎の拳を引き絞り、相手は光の剣を突き出す。

 そして――


『喰らえ! 《光裂剣シャイニング・サーベル》―光輝打突剣スパーク・ショットッ!』


 光の剣の周りに無数の紫電が迸ったかと思うと、刀身が輝きを増す。

 輝く刀身が伸び、僕を貫こうとさし迫る――


 それに真っ向から挑む形で、僕は右腕に《衝撃拳フル・インパクト》と《紅炎極砲フレア・カノン》を重ねて起動した。


 怒りの火炎で、相手を焼くように。

 あるいは、自分の心の熱を、死んだように冷え切ったこいつにぶつけるように。

 

「《衝撃拳フル・インパクト》―断罪の橙焔(ジャッジメント・サン)ッ!!」


 橙色の炎が右腕に渦巻き、ダンジョンを赤々と照らす。

 光が、熱が、冷え切った水の世界に波及してゆく。

 右腕に宿した太陽を、全身全霊の力を込めて打ち据えた。


 光剣の切っ先と、超高温の炎を宿した拳がぶつかり合う。


「ぉおおおおおおおおおおッ!」


 雄叫びを上げ、拳振り抜くと、炎の塊が内側から爆発する。

 《衝撃拳フル・インパクト》の指向性を持った衝撃波が炎を纏い、龍の息吹がごとく駆け抜ける。

 その威力は、想定より遙かに凄まじく、相手の必殺技もろとも光の剣を粉々にへし折った。


『……ぐっ!』


 勢いのまま、報復者リタリエイターの横っ面をぶん殴った。

 熱でほっぺたをグリルしていないか、殴ったあとで気になったが、どうやら剣を折るのに全ての炎を使い切ったようでセーフだった。


 ――あくまで、こんがり焼くことはなかった点、についてだけだが。


『ぐべほぉあっ!?』


 報復者リタリエイターの頬がクレーターのようにヘコみ、変な声を上げながら吹っ飛んでいく。

 飛んでいった先にあった岩山の頂上付近にぶつかり、土煙がもうもうと上がった。


「はぁ……はぁ……勝った」


 肩を上下させながら、額に浮いた汗を拭う。

 超高温の炎を扱ったからなのか、それともダンジョンに組み込まれたシステムなのかはわからないが、いつの間にか小雨になっている。


 空を覆う黒雲も、逃げるように遠くへ移動していくのが見えた。


 土煙が晴れ、大の字になって岩肌にめり込んでいる報復者リタリエイターが映る。

 必殺をモロに喰らったことで、意識が飛びかけているらしい。

 動き出す気配はない。


 未だに意識を取り戻さないクレアを背負い直したあと、僕はゆっくりと降下してゆく。

 長き死闘の末、この場における趨勢は遂に決したのであった。


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