第七十七話 エナととーめちゃんと共に
『二対一……いや、三対一。Sランク冒険者としての誇りはないのか!』
「なんとでも言え! 僕は、お前と決闘しに来たわけじゃない!」
大気を蹴り、勢いよく踏み込んだ僕は、《龍鱗》を纏った拳を引き絞る。
更に、《火炎付与》の紅炎を宿し、報復者を捕らえようと迫った。
『くっ!』
報復者は、光の剣で燃える拳を受け止める。
押し切れもしないが、押し負けもしない。
僕の一撃は、相手に届かない。
(僕の一撃は……だけど!)
拳と剣がぶつかり、散ってゆく火花に紛れて、僕は僅かにほくそ笑んだ。
「《火炎付与》―紅華螺旋!」
僕から見て斜め前――報復者の死角となる場所に移動していたエナが、炎を纏った剣を突き出す。
打突と同時に手首のスナップを利かせ、剣に纏った炎が螺旋を描いて跳びまわり、花弁のように宙を舞う。
それはさながら、剣を中心に巻き起こる炎の花吹雪。
鋭い突きと共に巻き起こる火炎の嵐が、報復者の脇腹に炸裂する。
『ぐっ!』
奇襲を受けた報復者は、勢いのまま吹き飛ばされる。
Bランクのエナ単体では、Sランクの相手には到底及ばない。
まともに打ち合えばダメージを与えることすら敵わない。
けれど、ノーガードの状態に全力の一撃を叩き込むことができれば、話は違ってくる。
「逃がさない!」
体勢を崩した報復者に追いすがり、もう片方の拳を全力で振り抜く。
「《衝撃拳》ォオオオッ!!」
肘から先が橙色に輝き、拳が腹部にめり込むと同時に、強烈な衝撃波が放たれる。
ある意味で言ってしまえば、僕の十八番。
《交換》に次ぐ、必殺スキル。
一番使いやすく、一番手に馴染み、もっとも助けられてきた純粋なパワー一辺倒の通常スキルだ。
『ッ!!??』
報復者の身体を衝撃波が突き抜ける。
その威力で報復者はさっきよりも大量の血を吐き出し、意識までもが飛びかける。
――が。
ブチッという音と共に、白目を剥きかけていた相手の目に生気が戻る。
『桁外れの威力だな、今のは……』
報復者は、忌々しげに言い捨てる。
その口元から、赤い筋が伝った。
どうやら、意識が飛ぶ寸前に舌を噛んで正気を保ったらしい。
『さっきの発勁を使った《衝撃波》と同じ通常スキル……だが、明らかに攻撃力が違いすぎる! 一体、どんな手品をッ!?』
「知らないよ! そんなこと!!」
攻撃力だの、手品だの、今はそんなことどうだっていい。
このダンジョン世界を……何よりクレアを好き放題扱ってくれたこいつを、ぶん殴れるのなら、それ以外はどうでもいいのだ。
「うぉおおおおおッ!」
反撃。
それ即ち、相手にチャンスを与えないこと。
動揺の隙を見逃さず、腕を振り上げる。
『ちっ!』
「《衝撃拳》―重炸裂!」
重炸裂を選択した理由は単純。
どの方向へ回避されても、確実に攻撃を加えられるようにするため。
その場で放った五発の衝撃波が、散弾となって襲いかかる。
反射的に右方向へ避けた報復者を、放った衝撃波の一つが打ち据えた。
『んぐっ!』
「はぁあああああっ!!」
残り限られた時間。
もう一片の猶予もない。
ただ、この暴挙を止めるべく、僕はひたすらに拳を振るう。




