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第七十四話 劣勢に陥って

「何がおかしい」

『いや。気付いているか? こうして俺達が戦っている間にも、ダンジョンの崩壊は速度を増している』


 確かに、言われてみればそうだ。

 いつの間にか、極彩色だった空は淡い金色の渦へと模様を変え、さっきまであった岩山は波に飲み込まれて跡形もなくなっている。


 ビュウビュウと強い風が吹きすさび、大気には無数のヒビが入っている。

 実像世界そのものが、いつ崩壊してもおかしくない状況だ。

 クレアの解放する力が、強まっている。


『崩壊のエネルギーは、その中心たるクレアから波及している。ダンジョン内のエネルギーの一部さえも取り込み、崩壊のエネルギーに変換。そうして常に、崩壊の力を増していっているのだ!』


 逆に言えば、この《モノキュリー》から離れている他のダンジョンは、ここほど大きな崩壊に達していないのかもしれないが……このペースで崩壊が進行すれば、ダンジョン全てが完全に堕ちるのも時間の問題だ。


『正直、お前がここまで食い下がるのは予想外だったが……あれだけ時間があって、まともにダメージを与えられたのは一度きり。これでは、先に時間切れがきてしまう。時間切れは、必然的に俺の勝利。もう理解しただろう? お前に勝機など――ない』

「ッ!!」


 時間切れは、ダンジョン世界の完全崩壊を現す。

 それは、報復者リタリエイターの悲願であるが故に、叶った瞬間僕の努力は全て水泡に帰す。


(どうする? 今の段階で僕の全力……それでもこいつに届かない以上、長期戦は避けられない!)


 ただ分が悪いだけなら機転次第でなんとかなるが、今は一秒ごとに敗北が近づいてきている状況。

 逆転の隙を窺っている隙に時間切れが来る。

 そもそも、人は追い込まれるほど思考と視野が狭まっていく生き物だ。


 だが――それに追い打ちをかけるかのように、目の前の男は考えもしなかった切り札を切った。


『さて。お前はきっとこう考えているのだろう。「ユニークスキル二つ持ちは強力だが、直接戦闘に役立つモノじゃないから脅威にはならない。こと、《与魂スピリット・グラント》においては」と』

「それが……どうした」


 確かに、薄々思っていたことだ。


 復讐対象を崩壊させるユニークスキルは厄介だが、《与魂スピリット・グラント》は大したことない。事実そう思ってはいたから、戦闘中ノーマークだった。


『図星のようだが、誤算だったな。どんな力も使い方次第。一見操り人形をつくるくらいしかできないようなものだとしても、《与魂スピリット・グラント》はそう簡単に手に入らないユニークスキルだ。やりようによっては――』


 報復者リタリエイターは、パチンと指を鳴らす。

 すると、周囲に無数の青白い光の玉が出現する。それらはまるで、魂のようで――


「それが、擬似的に造り出した霊魂?」

『当たりだ。そして――』


 報復者リタリエイターは、人差し指を下に向ける。

 すると、それに応じるかのようにして無数の霊魂は眼下に渦巻く水の中へと突っ込んでいった。


 何事かと見守っていると、水の底から大小様々な岩が、青白い光を纏って飛び出してきた。

 おそらく、波で砕けた岩山の破片だ。それが、まるで生き物のように浮いている。


「なるほど。岩山の破片に魂を宿して、操っているわけか……!」

『そうだ。それも、一度に複数な。加えて操るだけでなく、岩一つ一つに自我を持たせることも出来るのだ』

「通常スキル、《遠隔操作リモート・コントロール》の完全上位互換ってわけか」


 《遠隔操作リモート・コントロール》はその性質上、一つの対象しか操れない。

 ましてや、対象をオートで動かすことは不可能だ。


『我が復讐の前にひれ伏せ! 正義面した愚か者よ!』


 高らかに叫び、報復者リタリエイターは振り上げた右腕を、大仰おおぎょうに振り下ろす。


 すると、青白く光り輝く岩の大群が一斉に四方八方へ散る。

 と思ったら、ありとあらゆる方向から、僕めがけて突っ込んで来た。


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