第六十話 憤怒の灼熱地獄
「さて、どう料理しようか……」
僕は、自身のステータスを確認してスキルを吟味する。
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エラン
Lv 326 → 415
HP 8750 → 10200
MP 1490 → 1883/2010
STR 1255 → 1460
DEF 968 → 1090
DEX 280 → 305
AGI 319 → 340
LUK 210 → 232
スキル(通常)《衝撃拳》 《サーチ》 《飛行》 《ズーム》 《速度超過》 《標的誘導》 《超跳躍》 《暗視》 《威嚇》 《衝撃波》 《反発》 《龍鱗》 《身体能力強化》 New! 《遠隔操作》New!
スキル(魔法)《火炎弾》 《冷却波》 《蒼放電》 《紅炎極砲》 《上昇烈風》 《火炎付与》 《閃光噴射》 《積層土壁》 《氷柱雨撃》 《灼熱伝導》 New!
ユニークスキル 《交換》
アイテム 《HP回復ポーション》×128→139 《MP回復ポーション》×44 《状態異常無効化の巻物》×38→45 《魔鉱石・赤》×12 《魔鉱石・黄》×32 《魔鉱石・青》×65 《魔除けのブレスレット》×1 《ガントレット(左手)》×1 《攻略の証》×1
個人ランクS
所属 《緑青の剣》(追放)
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「決まりだ」
相手が水を操る敵だというのなら、こちらは炎を操る執行官になろう。
「スキル《火炎付与》、《灼熱伝導》、多重付与!」
《火炎付与》。
エナが愛用している、武器や物体に火炎属性を付与する魔法スキルだ。消費MPは一分間の付与あたり、15である。
水の天敵に当たる火炎属性をハイド・ウンディーネに付与すると、銀色の球体がボッと音を立てて燃えあがった。
続いて、《灼熱伝導》――対象設定した物体に熱を加えるスキル・消費MPは35、をハイド・ウンディーネに付与する。
すると、銀色の身体はまるで溶鉱炉に入れられた鉄のように真っ赤に輝きだした。
《サーチ》を起動すると、12000あったハイド・ウンディーネのHPがゴリゴリ削られていくのがわかった。
散々手こずらせてくれたんだ。
この程度の地獄なんて、まだまだ生ぬるい。
赫灼に燃えあがる球体を上空に放り投げ、ダメ押しとばかりに《紅炎極砲》を起動。
打ち上げられたハイド・ウンディーネめがけて巨大な炎の玉を撃ち放った。
炎の玉は、燃えあがるハイド・ウンディーネにぶつかるや否や、たちまちそいつの全身を覆い尽くした。
今、ハイド・ウンディーネは身体の内と外から超高温の炎で焼かれているのだ。
《第三迷宮》《トリアース》のラスボス戦で使用した、無属性の物理攻撃系統スキルを組み合わせた《衝撃拳》――龍殺し。
それと同じ事を、火炎魔法スキルの合わせ技で行ったのだ。
名付けるとすれば――
「火炎暴虐技―灼熱地獄ッ!」
対象を火達磨にしたまま、炎の中に閉じ込める、地獄と呼ぶに相応しい必殺技だ。
灼熱を放つ紅炎は、曇天で覆われた空を残酷なほどに明るく照らし出す。
降りしきる雨が、太陽と化した炎の球体によって熱され、表面に触れる前に蒸発して行く。
「――お別れだ」
ぼそりとそう呟いて、パチンと指を鳴らした。
すると、燃えさかるハイド・ウンディーネを取り囲んでいた炎の塊が一気に収縮したかと思うと、轟音を上げて爆発四散した。
火花が、流星のように弧を描いて落ちて行く。
その中心にいたはずのハイド・ウンディーネは、超高温に熱されたせいでとっくに溶けてしまっていたらしい。
今やその姿は、どこにも見受けられなかった。
「終わったみたいだ」
僕は、小さく息を吐く。
それから、エナ達のいる岩山の中腹へむかって、ゆっくりと降下していくのだった。
そんな中、エナの側で倒れているウッズと目が合う。
全ての人間を拒絶するような、冷たいアイスブルーの瞳が、まっすぐに僕を射貫いた。
一体彼は、僕を見て何を思ったのだろう。
これから、何を言うんだろう。
お互いの関係はもう、「助けてくれてありがとう」とか「助けるのは当然」とか、そんなことを平然と言い合えるほど単純なものではなくなっているのだ。
歪み歪んだお互いの感情が、この再開でどんな方向へ捻れ、拗れてゆくのか――今の僕には、皆目見当も付かないのだった。




