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第五十七話 強者のアカシ

《ウッズ視点》


「こ、こんなことがあっていいのかよ……」


 俺は、ただただ戦慄するしかなかった。

 目の前で、女の子一人とクリアスライムを背負ったまま、エナがひたすら水の不死鳥の突進攻撃を避けているが、それは全く目に入らなかった。


 それよりももっと遠く。

 曇天に近い場所でひたすら高威力攻撃スキルを連発しているエランのヤロウに、視線を吸われていた。


 あんな奴に、心を動かされたくなんてなかった。

 どんなに強くなっているとしても、見ないフリをして拒絶してやりたかった。


 だが、そうすることができないのは――俺の拒絶を許さないほどに、ただただエランが異次元クラスに強すぎたからだ。


 周囲の水壁が、エランの放つ衝撃波で大きく波打ち、崩れ落ちそうなほどに激しく揺れている。

 水の中は激しい対流が渦を巻き、巻き起こった泡が水の中で踊り狂っている。


 この場から見えない水面はきっと、大穴がいくつも開いているのだろう。


 そして。

 その桁違いの威力もさることながら、俺をもっとも驚愕させたのは――


「バカな! 伝説レベルの、魔法スキルを越える攻撃力を持つ通常スキルだと!? どうしてアイツが、噂にしか聞かないようなスキルを持ってんだ!?」


 基本的に、通常スキルはそれ単体で攻撃・防御に使えるものはほとんどない。

 特に高クラスモンスターとの戦闘においては、属性を持つ魔法スキルくらいしかまともにダメージを与えられない。


 それなのにアイツは、MPの消費概念がない超高威力通常スキルを扱っているのだ。


 なんだよ。

 アイツが第三迷宮サード・ダンジョン《トリアース》を単騎攻略していると聞いたときには驚いたが。

 結局、チートスキルで調子に乗ってるだけじゃねぇか。

 

「チクショウ……あの力さえあれば、俺だって!!」


 だから俺は、全力でエランを低く見た。強さを否定するように。

 だが――


「例えあなたがエランくんと同じスキルを持っていても、あなたは彼のように強くはなれないわ」


 そのとき、エナが俺の方を振り返らずに答えた。


「あ? なんだよ。あいつより、俺の方が素の身体能力は高いんだ。同じステータスで同じスキルなら、あんなヤツ目じゃねぇ!」

「いいえ。あなたとエランくんでは、身体能力の差を軽々と覆すほどの、決定的な違いがあるわ」

「なんだよそれは!」

「そうね……一言で言えば、覚悟」


 再び突っ込んで来た水の不死鳥をエナは言葉を続けた。


「彼は、こんなところで倒れるわけにはいかないの。この戦いに是が非でも勝利して、助けなければいけない大切な人のために戦う。それが、彼の覚悟よ」

「なんだそりゃ。そんなこと、誰にだって――」

「あなたにはできる? 自分を見すてた相手のために、スキル反動臨界症になるリスクを背負ってまで、戦い続けることが。それも、命を賭けて守りたい人が苦しんでいて、一刻も早く助けなければならない状況下で。それでも憎しみしか抱いていない相手を守るだけの強い覚悟と執念を、あなたなんかが持っているの?」

「ッ!?」


 一際語気強いエナの言葉に、俺は思わず押し黙る。


「彼は、弱かった頃から怯える人の前に立つことのできる人だったわ。その上で、誰も悲しませないために、これからも側で守り続けるために、死ぬ気で生き残ろうとする人なの。だから、彼は強い。誰も死なせず生き残るための執念があるから、敵の特性を瞬時に見抜いて、そのときできる最善手を迷いなく打てるのよ」


 俺は、空で戦うエランを見すえる。

 頼りない、守られる側の顔つきのくせに、必死の形相でスキルを打ち続ける姿。

 炎のように揺らめくオレンジ色の瞳が、絶えることなき執念と覚悟を何よりも雄弁に物語っている。


 だからこそ、俺は悟った。

 コイツは、俺とは違う聖人ヒーローなのだと。


 だからこそ、俺は改めて気付いた。

 やっぱり、この太陽のように眩しい男が、忌々しいほど大嫌いなのだと。


(もし、お前が勝つのなら……)


 俺は、懐から小さな石を取り出した。

 禍々しい黒紫色のオーラを放つそれは、《憑怪つくかいの石》。

 数ヶ月前に、宝箱から入手した稀少アイテムだ。


(これを使って、お前に……)


 俺は、空でスキルを放ち続けるエランを睨みつけるのだった。


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