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第五十一話 水の不死鳥

《ウッズ視点》


 ――時を、エラン達が丁度、《モノキュリー》に突入したときまで遡る。


△▼△▼△▼


 第一迷宮ファースト・ダンジョン《モノキュリー》虚像の第一階層さいかそう


「くっそ! しつけぇ!!」


 水面に浮かんでいる大小様々な氷の上を跳びまわりながら、俺は冷や汗を流す。

 炭を煮込んだような漆黒の空から、一体のモンスターが襲ってくるのだ。


 黒い空に、真っ青なシルエットがくっきりと浮かび上がる。

 翼を大きく広げたそれは、鳥の形をしていた。


「いい加減にしろ! スキル《閃光噴射フラッシュ・ジェット》ッ!」


 鳥のシルエットめがけて、一条の光線を放つ。

 光線は黒い背景にくっきりとラインを描き、モンスターの身体を穿った。


 だが、身体にコイン大の穴が開いても、飛翔速度は全く落ちない。

 そればかりか、開いた穴が即座に塞がってしまった。


「ちぃっ! またかよ」


 焦りと忌々しさに、思わず舌打ちをした。


 エランが《トリアース》の最下層を一人で攻略していると聞いた俺は、一度家に戻ってみっちり単騎攻略の準備をした後、《モノキュリー》に突入した。


 僅かばかりだが、雑魚モンスターを大量に狩ってレベルを上げ、手持ちのナイフを磨き、武器屋で火打石式拳銃フリントロック・ピストルや剣・防具を調達。つい三十分ほど前に万全の状態で《モノキュリー》に挑んだのだが――突入直後に襲ってきたこのモンスターとずっと戦っているのだ。


 その間、何度も手応えアリと思える攻撃が通った。

 なのに、身体が傷付いた瞬間、モンスターの身体はきれいさっぱり元に戻ってしまうのだ。


「どうなってんだ!? コイツの身体はよぉ!」


 不安定な氷から氷へ飛びながら、悪態をつく。


 どんなに攻撃しても、すぐに元に戻る。

 身体が水でできているようで、不定形だからか、攻撃が通らないのか?


『ピィイイイイイッ!』


 高らかにホイッスルのような声を上げ、モンスターが羽を畳んで弾丸のように回転しながら突っ込んで来た。


「クッ!」


 咄嗟に横の氷へ飛んで、突進を躱す。

 高速回転する水の身体が鋭く掠め去っていく。


「このヤロウ! とっとと落ちやがれ!!」


 体制を立て直し、右手をモンスターに向ける。

 

「スキル《火炎放射フレイム・ラジエーター》!」


 《火炎放射フレイム・ラジエーター》。

 MPを20消費して起動する、火炎魔法スキルだ。

 射程こそ短いが、近~中距離における攻撃手段としては高い汎用性と火力を発揮する。


「喰らえぇ!」


 鮮烈な紅炎が右手から吹き出し、無防備なモンスターへと伸びてゆく。

 超高温の炎が瞬く間にモンスターの全身を包み込む。


『ピャァアアアアアアッ!』


 苦しげに呻き声を上げながら、モンスターは空中で翼をばたつかせる。

 モンスターを構成する水が瞬時に蒸発し、空気に溶けるように身体が消えていく。


「や、やった……か?」


 モンスターの影も形もなくなった空中を眺めていた俺は、ようやく落ち着けると思い、ほっと肩をなで下ろす。


「ははっ。なんだ、楽勝じゃねぇか。攻撃を受けてもすぐに治るってんなら、跡形もなく消し去っちまえばいいだけじゃねぇか」


 掠れた声で高笑いする。

 が――勝利の余韻は、一瞬にして吹き飛んだ。


「なん……だとぉ!?」


 驚愕に目を見開く。

 無数の氷が浮かんでいる水面がむくりと立ち上がり、空中に水の塊が浮き上がる。

 浮き上がった水の塊は、生き物のように形を変え、やがてさっき倒したはずの鳥のモンスターになった。


「ばか、な……!」


 否応なしに、脂汗が吹き出してくる。

 聞いたことがあった。

 寿命を迎えると自ら燃えさかる炎の中に沈み、何度でもよみがえる炎の鳥がいるという伝説を。

 ソイツの名を借りるとすれば、今俺の目の前にいるのは――


「水の不死鳥フェニックス……だとッ!?」


 第一迷宮ファースト・ダンジョン《モノキュリー》の第一階層さいかそう

 そこで立ちふさがった死なないモンスターを前に、俺の心臓は破裂しそうなほどに警鐘を鳴らしていた。


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