第五話 一対多
(もうダメだ!)
思わず目を瞑る。
が、そのとき。
死の予感でクリアになった頭に、起死回生の一手が浮かんだ。
(そうだ、僕にはまだ攻撃手段があるじゃないか!)
カッと目を見開く。
親指と人差し指の角度が90度になるよう伸ばし、両手でピストルを作った。
飛びかかってくる跳蜂の群れへ、人差し指の銃口を向ける。
それから、大声で叫んだ。
「《火炎弾》ッ!」
刹那、両手の人差し指から火の弾が飛んだ。
風を切って飛翔する二発の火炎弾は、正面から突進してきた二匹の跳蜂に着弾。
たちまち火達磨になって、地面に落下した。
魔法スキル《火炎弾》。
小口径の炎の弾丸を、音速より速い速度で撃ち出す炎魔法。消費MPは、一発当たり「3」、今撃った分で「6」だ。
これは後から知ることになる話だが、《火炎弾》は魔法スキルの中でもかなり燃費がいい魔法スキルらしい。その分、一発当たりの威力は控えめだが……
「十分だ! Sクラス相手にこの威力と弾速……勝算はある!」
仲間が二匹落とされても、突進する速度を緩めない敵に、人差し指を向けた。
「喰らえ! 《火炎弾》―連射ッ!」
掛け声と同時に、無数の火炎弾が虚空を駆ける。
着弾と同時に燃えあがる跳蜂の身体。夜空で燃え尽きる花火のように、一瞬だけ煌々と輝いて、落下してゆく。
「レベルアップしました! レベルアップしました! レベルアップしました! ……」
Sクラスのモンスターを片っ端から撃ち落としているからだろう。さっきからレベルアップの音声が止まらない。
スキルやアイテムも、バカみたいに入手しているはずだけど……それを確認している暇はない。
突っ込んでゆく仲間が次々と僕に撃ち落とされて、跳蜂達もヤケになったらしい。
さっきよりも勢いを増して突っ込んでくる。
(このままじゃ、捌ききれない!)
けれど、土壇場こそ男の花道。
頭をフル回転させて、起死回生の一手を探す。
そして――見つけた。
(あった! この方法なら、きっと……!)
その瞬間、弾幕を突っ切って一斉に跳蜂達が飛びかかってきた。
その鋭い大顎と毒針が、僕に迫る。喰らえば文字通り蜂の巣だ。
けど、喰らうつもりはない。
「《交換》――《空気障壁》を捧げ、我が手に《飛行》を!」
魂にも似た光球が、向かってくる敵と僕の身体から抜け出して、入れ替わる。
「あらよっと!」
地面を軽く蹴って、空中に飛び上がる。
ユニークスキル《交換》の力で得た、跳蜂の飛行能力だ。
肉薄してきた跳蜂達の上をとり、すかさず《火炎弾》を起動。
「連射ッ!」
指先から恐ろしい速度で発射される炎の弾丸が、雨のように敵の頭上に降り注ぐ。
眼下で破裂する爆炎をかいくぐり、地面に着地した。
「半分以上は減らしたはずだけど、まだだいぶ残ってるな……!」
歯噛みしつつ、飛び回る敵達を見やる。
まだ相当数残っている。
連射でも、一体ずつしか消せない都合上、どうしても時間を食う。
手こずっている隙を狙われたら厄介だ。
「さっきからレベルアップの通知が止まない。もしかしたら、対集団戦に向いたスキルをゲットしている可能性も……!」
すかさず僕はステータスを確認し、跳蜂を倒したことで得たスキルを確認した。
◆◆◆◆◆◆
スキル(通常)《衝撃拳》 《サーチ》 《飛行》New! 《ズーム》New! 《ドロップ増加+20%》New! 《ダメージ増加+30%》New!
スキル(魔法)《火炎弾》 《魔力壁》 New! 《氷三叉槍》New! 《冷却波》 New!
◆◆◆◆◆◆
……うん、範囲攻撃のスキルは無さそうだ。
であれば、次の手を打つまで!
「《交換》――《ドロップ増加+20%》を捧げ、我が手に《蒼放電》を!」
《蒼放電》は、さっき確認した跳蜂のステータスにあった魔法スキルだ。
名前からして、たぶん電撃魔法。
これしかもう、打つ手はない……のであるが。
……。
…………。
「あ、あれぇ?」
なんか、《交換》が発動しないんですけどぉ!?
ど、どど、どうしよう!!
どうして《交換》のスキルが使えなかったのか。その理由は……次話をお楽しみに!