表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/84

第四十三話 誰がための決意

 ――。


「――ねぇ、今の話どういうことなの? 《モノキュリー》へ行くって」


 話が終わったのを悟ったのか、エナが待ちかねたように聞いてきた。


「ああ、今から事の詳細を話す」


 僕はエナに向き直って、声の主と話したことや、これから第一迷宮ファースト・ダンジョン《モノキュリー》へ向かうと決めたことなどを伝えた。


△▼△▼△▼


「そうなんだ」


 ひとしきり話し終えると、終始黙って聞いていたエナが神妙な顔つきで呟いた。


「エランくんは、クレアさんを助けて、彼女の秘密を探るために、今から《モノキュリー》へ行くのね」

「そんなところだ。最下層に落とされてから、クレアには何度も助けられた。だから、クレアのために命を張るのは当然だし……背中を預けた仲間として、彼女のことを知っておく義務もあると思うから」


 そう答えると、エナは穏やかな表情で頷いた。

 それから小声で「妬けちゃうな」と呟く。


「どうかした?」

「ううん、なんでも」


 エナは首を横に振る。


「でも良かったわね、エランくん」

「何が?」

「憎きリーダーを助けるいい口実ができて」

「うぐっ」


 不意打ちで図星を突かれ、眉をひそめた。


「……ば、バレてたのか」

「当然。もちろんクレアさんのことがメインだろうけど、ついでにウッズを助けるつもりなんだってことは、わかっていたわ」

「助けるんじゃない、ぶん殴るんだよ」

「ええ、そうね」


 エナは悪戯っぽく笑った。


「まあとにかく、大至急、《モノキュリー》に向かう。本当は体力を回復してから行きたかったけど、背に腹はかえられない。エナはここで待っていてくれ」

「え? 私も行くけど」

「はい?」


 一瞬呆気にとられてしまう。

 少しの間無言の時が流れ、ようやく彼女の言葉の意味を理解した僕は、慌てて告げた。


「ちょっと待って! それはダメだ。エナを危険に曝すわけにはいかないよ」

「それは私も同じ。エランくんを一人で危険な場所に行かせるわけにはいかない。私だって、腐っても《緑青の剣》のエースだったんだから。足手まといにはならないはずよ」

「それは……まあ」


 エナの強さは、僕もずっと見てきたからよく知っている。

 いつまでも弱者だった僕は、彼女と出会ったときモンスターから守った以外、ずっと守られる側だった。


「けどやっぱり――」

「お願い。私を一緒に連れてって。あのとき助けられなかったんだから、今度こそ側で守らせてよ」


 必死に訴えかけるエナに気圧され、押し黙る。

 瞳を揺らして見つめてくるエナに根負けしてしまい、僕は首を縦に振った。


「わかった。僕の我が儘に付き合ってくれ」

「ええ、地獄の果てでも付き合うわ」

「じゃあ、二人で……」


 二人で行こう。そう言おうとしたとき、ぽにゅんと柔らかい何かが、僕の顔面にぶつかってきた。


「うおっ!? なんだ」


 びっくりして、その柔らかい何かを引きはがす。

 それは、とーめちゃんだった。


「お前も一緒に来てくれるのか?」

『もきゅ!』

「そうか。ありがとう」


 頭を撫でると、とーめちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。


「ていうか、この子はダンジョンの外でも生きられるんだ」

「そうみたいね。一見人間の女の子にしか見えないクレアさんが、この地上世界で生きられないのに、スライムは生きられるなんて不思議」


 ダンジョン生物は地上で生きられるのに、クレアは生きられない。

 じゃあクレアは、ダンジョン生物ですらないというのか?

 

 そんな疑問が頭を過ぎったが、一刻も早くダンジョンに入らなければならない状況だから、考えるのは後にしよう。


 僕はリュックに干し肉やヤワイモなどの食料を詰めて肩にかつぎ、クレアを背負う。

 そして、エナととーめちゃんを引き連れてログハウスを出た。


 目指すは、空に浮かぶ最凶さいきょうの迷宮、《モノキュリー》。

 地上に生きる人々を見下ろしているそれは、青空の中で不気味な様相を呈していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ