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第三十六話 賞賛の声を受けて

 ――全ての時が止まったかのような、張り詰めた白い世界を歩く。

 上も下も、右も左もわからない。

 確かに地面を踏みしめているはずなのに、宙に浮いているかのような気さえしてくる。


(マジで、これちゃんと進んでるのか……?)


 不安になり始めた頃、遙か先にぽつんと一つ、入り口にあったものと同じ形の扉が見えた。

 方向感覚が狂って、いつの間にか引き返していたのだろうか?


 最初こそそう思ったが、その扉に向かって歩いて行くうちに、そうでないことに気付いた。

 形は同じだが、僅かに色が異なっていた。

 入ってきた扉は灰色だったが、今回のものは緑褐色だ。

 つまり――


「出口だ……」

「うん。そうみたいだね」


 クレアも力強く頷いてみせる。

 いよいよだ。

 ごくりと唾を飲み込む。


 石扉の前までたどり着くと、一言「開けるよ」と呟く。

 無言で頷くクレアを流し見て、勢いよく石扉を押した。

 両開きの重い扉が音を立てて開き、この白い世界よりも遙かに眩しい光が、開け放たれた視界から差し込んできた。


「……っ」

 

 そのあまりの眩さに、思わず目を細める。

 少しして、ようやく明るさに慣れてきた僕は、信じられない光景を見て、目を大きく見開いた。


 まず目に飛び込んできたのは、真っ青な空。

 空間が湾曲しているダンジョン内で、本物とも偽物ともとれない空を何度か見てきたが、今回は正真正銘本物の蒼穹そうきゅう


 そして、青空の下に広がるのは長く続く石畳の道と、いらかを争う建物の群れ。

 久しく見ていなかった、外の景色だ。

 が、それはあくまで日常の景色。驚くには刺激が少なすぎる。


 僕を驚かせたのは――


「――見ろよ! 本当に出てきたぜ!」

「うぉおお、すげぇ! マジで単騎クリアしてんじゃん!」

「《開かずの扉》が、ダンジョン攻略者の出口だって噂、ホントだったんだ!」

「スッゲ~、胸元に《攻略の証》付いてるぜ。俺、生で見んの初めてだ。鳥肌やべぇよ」

「てか横にいる女の子誰? 《攻略の証》付いてないし、一緒のパーティとかじゃなさそう。パーティ組んでたら、エランさんの攻略と同時に《攻略の証》が勝手に付くはずだし」

「じゃあエランくんの付き添い? サポーター? もしかして……彼女!?」

「だろ? だって、聞いた話じゃエランてヤツは、単独でSSクラスのモンスターブッ潰せる逸材いつざいなんだし。サポーターなんざ要らねぇだろ」

「とにかく、攻略おめでとう!」


(え? は? なに? え!?)


 何が何だかわからなくて、半ばパニック状態だった。

 目の前には、たくさんの人、人、人。

 話したことのない多くの人間が、僕の周りに集まって、口々に歓喜と賞賛の声を上げている。


「ちょっ! お、落ち着いてください! 一体これ、どういう状況なんですか!? ていうか、どうして僕の名前を――」


 周りを取り巻く人々の圧に気圧されて、一歩後ずさる。

 すると、真正面にいた青髪の優しそうな青年が、苦笑いを浮かべながら答えた。


「知っているさ。有名人だからね」

「へ? 有名人て……心当たりが皆無なんですが」

「4時間くらい前に、最下層に行っていたっていう《テンペスト》ってパーティが帰ってきてね。その人達が、みんな君の噂を振りまいてたんだ。たった一人で、SSクラスのモンスターを討伐した最強のダンジョン挑戦者がいるって。最初はみんな半信半疑だったんだけど、彼等が嘘を付いている風には見えなくて……」

「それで、試しにダンジョンを攻略した者が帰ってくると言われている《開かずの扉》の前で、噂を信じた人達が集まったってワケ」


 青年の隣にいた金髪の女性が、青年の言葉を引き継いだ。


「ああ、なるほど。それで……こんなに集まったんですか」


 改めて、目の前にいる人達を見まわす。

 おそらく、4,50人はいるだろう。

 その誰もが、尊敬と憧憬しょうけいの眼差しで見つめているのがわかった。


 この人達が全員、僕を見に集まっているとは。

 名声を目当てにダンジョン攻略を目指す人がいる気持ちも、少しわかる気がした。

 と、興奮冷めやらぬ雰囲気を放っている、僕よりいくらか年上の女の子達が、身を乗り出して質問攻めにしてきた。

 

「ねぇねぇ、キミ! 今何歳?」

「じゅ、17です……」

「えぇ~、ウチより年下じゃん! てか、目大きくて丸顔でチョー可愛い!」

「身体もぜんっぜん細いのに、めっちゃ強いとかズルくない?」

「ギャップ萌え~」

「は、はぁ……どうも」


 頬を触ったり手を握ってきたり、やりたい放題の女の子達。

 そのテンションに付いていけず、とりあえず頷くことしかできない。

 あと、ジト目で僕の方を睨んでくるクレアが怖い。


「す、少し落ち着きましょうか」


 必死で女の子達を宥めている内に、視界の端にある人物が映った。

 人だかりの一番奥。

 一際目立つライムグリーンの長髪を持つ、高身長の女の子が見えた。その人物を見た瞬間、ドキリと胸が高鳴るのを感じた。

 

 間違いない。あの子は……


「……エナ?」


※エナは、《緑青の剣》のエースの女の子です

次回、エナとの再開シーンです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちやほやされてる…w [気になる点] >丁度4時間くらい前に、 ナレーションじゃなくてセリフ部分なのでアレですけど、ジャストの意味の「丁度」とアバウトの意味の「くらい」が両方使われてたのが…
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