第三十三話 龍殺し―ドラゴン・キラー―
(スキル反動臨界症になるとか、身体が衝撃に耐えられないだろうとか、そんなことはどうでもいい! この一撃に、僕の全てをかける!)
スキル《硬質化》を左腕にかけ、皮膚を鋼のように固める。
その腕に、《衝撃拳》をかけ、道中で手に入れた《衝撃波》、《反発》を多重付与した。
《衝撃波》も、《衝撃拳》と似たような、衝撃波を放つスキルだ。指向性を持った衝撃波を放つ《衝撃拳》とは異なり、広範囲を吹き飛ばすものだが、組み合わせれば相性の良さによる相乗効果が狙える。
《反発》は、付与した物体Aと、指定した物体Bが触れあった瞬間、まるで磁石の同極同士のように、強く反発する力が働く。
(《反発》の物体Aを僕の左腕に、物体Bをブル・ドラゴンに指定……!)
攻撃力の高いありったけのスキルを左腕に集中させ、突進してくるラスボスを迎え撃つ。
左腕に渦巻く破壊力の波に、さしものブル・ドラゴンも一瞬躊躇するような顔をしたが、すぐに平静を取り戻して叫んだ。
『ソンナモノ、我ガ龍鱗デ防ギ切ッテ見セルワ!』
彼我の距離は、もう目と鼻の先。
勝ち誇ったような表情をしながら、ブル・ドラゴンは頭を少し下げている。万が一にも、逆鱗を狙われないようにとの保険だろうが……そんなもの、僕の前では無意味だ。
「ユニークスキル《交換》――《軟化》を捧げ、我が手に《龍鱗》を!」
刹那、ブル・ドラゴンの全身を覆う青緑色の鱗が、バリバリと音を立てて後ろに散っていく。代わりにむき出しになった身体が、ぐにゃりと軟体動物のように歪んだ。
『ナ、ナニ……ッ!?』
驚愕に目を見開くブル・ドラゴン。
僕は、不敵にほくそ笑んだ。
《龍鱗》が、ブル・ドラゴンの身体の一部ではなく、常時発動しているスキルなら、《軟化》と取り替えてもブル・ドラゴンは無意識に《軟化》を発動してしまう。
その結果、ブル・ドラゴンは硬い鱗を失った代わりに、文字通りウナギのできそこないのような見た目になっていた。
『貴様ァアアアアアアアアアッ!!』
口を大きく開き、食い潰さんとするブル・ドラゴン。
そのガラ空きになった下顎を、全身全霊の力を込めて殴り飛ばした。
『終わりだ! 《衝撃拳》―龍殺しァアアアアアアアッ!!』
乾坤一擲。
拳がブル・ドラゴンに触れた瞬間、圧縮したパワーの塊が突き抜けた。
衝撃はブル・ドラゴンの全身を駆け巡り、断末魔を上げる暇すら与えず、粉々に粉砕した。
それでも尚、止まることを知らない衝撃波は、分厚い雲を割り、天高く突き進んでゆく。
「お、終わった……」
割れた雲の向こうから青空が覗くのを見ながら、僕はぼそりと呟いた。
「や、やった! エランくん!」
パタパタとクレアが駆け寄ってくる。
が――彼女は不意に足を止めた。
「え、エランくん大丈夫?」
「あ、ああ」
震える唇を噛みしめて答えるが、大丈夫じゃないことは僕が一番わかっていた。
身体の震えと寒気、吐き気が身体を蝕んでいる。短時間でスキルを大量に行使した反動による、スキル反動臨界症の症状だ。
加えて、左腕はスキルを重ねがけした負荷と衝撃波の反動で、骨がボキボキに折れており、最早動かすことすら敵わなかった。
「心配しないで、大丈夫だから」
よろよろと歩き出すが、突如視界がぐにゃりと歪む。
「あ、れ……?」
平衡感覚がおかしくなり、瞬く間に視界が暗転していく。
「エランくん!?」
糸が切れたように身体が倒れ込む最中、驚きと焦りが入り交じったクレアの声を聞いた。
それを最後に、僕の意識は急速に薄れていったのだった。
必殺の一撃が決まり、遂に崩れ落ちたブル・ドラゴン。
が、反動で倒れたエラン。果たして、命を取り留めるのか!?




