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第三十話 ラスボスの降臨

『グァアアアアアアアアアアアッッッ!!』


 ラスボスステージにたどり着くや否や、そいつは猛々しく吠えた。

 それは、敵を威嚇する咆哮のようでもあり。また、ここまで踏破とうはしてきた僕を労い祝う福音のようにも聞こえた。


「出たな……!」


 ビリビリと震える大気の中、僕はそいつを見上げる。

 ジャイアント・ゴーレムと戦ったステージの何倍も広く高いこの空間そらを、そいつは縦横無尽に飛びまわっている。


 地下深くのはずなのに、遙か天井には分厚い雲で覆われた空が広がっていて、稲妻が明滅めいめつしているのが見えた。

 その稲妻を全身で浴びながら、そいつは僕の方に近づいてきた。


 空に架かる河川かわそのもののように、長く太い身体。青緑色に輝く、鋼鉄のような無数のうろこあまねく攻略者をねじ伏せ恐怖におとしいれる、絶望と暴力の具現。

 伝説上の怪物、ドラゴン


 赤く鋭い目が、真っ直ぐに僕を見下ろし、睨みつける。

 その迫力に、否応なく鳥肌が立ち、全身から気持ち悪い汗が噴き出した。


 クレアととーめちゃんに至っては、気を失って目を回してしまっている。


「こいつを倒せば、最下層クリアか」

『モウ我ヲ倒セル気デイルノカ』

「しゃ、喋った!?」


 急に人間の言葉を話し出した龍に、一瞬呆気にとられる。

 が、すぐに平静を取り戻し、龍を睨み返した。


「まあね。次元が違う存在ってのはわかるけど、本気でやらせてもらうよ」

『フン。我ヲ前ニシテ一歩モ退カヌカ。ソウイウ愚カ者ハ、スグニ死ヌ運命ダ。名声ニ目ガ眩ミ、己ガ命ヲ捧ゲルトハ』

「違うよ、別に。名声が欲しいわけじゃないし、死ぬのも御免だ」


 そう答えると、龍は少し興味を示した。


『ホウ? デハナゼ、私ニ挑ム? 五ツノ迷宮ダンジョン、ソノ三番目ノ守護者タル、ブル・ドラゴンに』

「僕はもう、この最下層に落とされた時点で死んでたはずなんだ。それでも僕は生きてたから、絶対に生きなきゃいけない。生きて、僕を殺したヤツを見返すんだ。それと……」


 僕は拳を握りしめ、小さく深呼吸した。


「名声のために命を捨てに来る愚か者も、死の直前は絶対に後悔する。どんなものよりも、一つしか無い命が一番大切だから。それに、金や名声に拘らない優しい人も、このダンジョンにはいることを知った」


 死にかけながら、僕を巻き込まないように逃がそうとしてくれた、カルムの姿を思い出す。

 そして、お別れも言えずに離れてしまった、大切な人――エナの顔を。


「ダンジョンに挑んだことを後悔したあげく殺されるなんて、彼等にそんな酷な運命を歩ませたくはない。少なくとも、お前を倒せばこのダンジョンの最強は消える。愚かな人間も、そうでない人間も、簡単に殺させないために、僕はお前に挑むんだ」


 しばらくの間、呆気にとられたように黙っていたブル・ドラゴンだったが、ふとした瞬間に大口を開けて笑い出した。


『ハッハッハ! 面白イナお前ハ。良イダロウ、全力ヲ以テカカッテコイ!』


 刹那、ブル・ドラゴンの口が大きく開かれ、喉の向こうが赫灼かくしゃくに輝く。

 その輝きが巨大な炎の玉となって、僕めがけて放たれた。


「くっ! スキル《紅炎極砲フレア・カノン》ッ!」


 咄嗟に、同じ高威力系火炎魔法を起動し、火球を放った。

 彼我の丁度中間地点で火球と火球が衝突し、爆炎と熱風が吹きすさぶ。


 が、相手の攻撃の方がやや威力が高かったらしく、熱波のほとんどは僕の方に吹きつけられた。


「な、なんだこの威力!?」

『ドウシタ? 啖呵ヲ切ッテオイテ、ソノ程度カ!』


 間髪入れずに爆炎を切り裂いて、ブル・ドラゴンが突進してきた。


「舐めるな!」


 僕は、左手を引き絞る。

 そこには新たに装備した、黒地にメタリックオレンジのラインが入ったガントレットがはめられていた。(ちなみに、《魔除けのブレスレット》は、ガントレットの上から重ねてはめている)


 道中でゲットしたアイテム《ガントレット(左手)》。

 強固炭素粒子ダイヤモンド・パーティクルや対衝撃繊維などを組み合わせて作られた、軽くて丈夫な籠手こて。装備すると、パワー系スキルの威力が20%上昇、反動を50%軽減する。


(手加減なんてしたら、一瞬でやられる!)


 スキル《衝撃拳フル・インパクト》を左手に起動。

 ガントレットがオレンジ色の光を放つ。


「出し惜しみはなしだ! 《衝撃拳フル・インパクト》ッ!」


 腰を捻り、全身全霊を込めて、肉薄するブル・ドラゴンめがけて左手を突き放った。


遂にまみえた、第三迷宮のラスボス。

果たして、勝負の行方はいかに?

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