第二話 フル・インパクト
宝箱を開けた瞬間、真っ白な煙が飛び出し、もうもうと立ちこめた。
「な、なんだこれ! めっちゃ煙たい!」
まさか、開けちゃいけない玉手箱だったか?
煙が晴れたらおじいちゃんになってるとか、そんなオチ?
慌てて煙から抜け出し、湖の側まで行って自分の顔を見る。
自分で言うのもなんだが丸顔で頼りない表情、黒髪に橙色の瞳を持つ少年が映し出された。
うん、よかった。歳はとっていない。
――なんて悠長なことしてる場合じゃない!
『グォオオオオオオオオッ!』
雄叫びを上げるサイクロプス。
その叫び声だけで水面が大きく波打ち、風が逆巻く。
あまりの大声に、危うく意識が飛びかけた。
(す、凄まじい威圧感……!)
Sクラスモンスターの肩書きは本物だ。
「ていうか、さっきの煙は何! もしかしてハズレ? 僕の人生終了!?」
急いで宝箱の元へ戻って中を覗くが、宝箱の底は空っぽだ。
つまり、煙が出てきただけということになる。
「うぉおおおおい! アイテムくらい入れとけよ! ここダンジョンの最下層でしょぉ!?」
ギャンギャン喚き立てる僕の前で、サイクロプスはゆっくりと右腕を上げる。
このままでは脳天に拳を喰らって人生の幕切れだ。
「な、何かしないと! な、何か」
脂汗をドバドバ流している僕の頭に、直接機械音のような音声が流れてきた。
「ユニークスキルが追加されました」
この音声は、レベルアップや新スキルを獲得した時に流れる自動音声だ。
(え、ユニークスキル?)
弾かれたようにステータスを確認する。
(あ! ユニークスキルが……追加されてる!)
ユニークスキル 《交換》――自分の通常スキル・魔法スキルを、相手の持つスキルと交換できる。
え、つっよ!?
僕は、今まさに拳を振り下ろそうとしているサイクロプスを見上げる。
上手くやれば、コイツの持っているスキルを我が物にできる!
とりあえず、通常スキル《サーチ》を起動して、素早くサイクロプスのステータスを確かめた。
◆◆◆◆◆◆
サイクロプス
Lv 68
HP 1870/2200
MP 70/70
STR 780
DEF 692
DEX 218
AGI 97
LUK 119
スキル(通常) 《威嚇》 《衝撃拳》
スキル(魔法) ―
ランク Sクラス
◆◆◆◆◆◆
「攻撃力780!? バケモンかよっ!!」
いや、実際にバケモンか。
レベル68でこの攻撃力。いくら魔法攻撃を持たない、パワー特化型のモンスターとは言え、一撃でも食らえばお陀仏だ。
たぶん《空気障壁》では防げない。
スキルの効果は、元々の攻撃力(STR)や防御力(DEF)に上乗せされる形で作用する。
僕の貧弱な防御力で障壁を展開しても、まるで紙切れのように破ってくるだろう。
だから、ここは敵のスキルを奪うしか手はない!
(おそらく、《威嚇》はさっきの咆哮で敵を威圧するスキルだ。てことは、奪うとしたらもう一つの方……!)
《衝撃拳》。明らかにヤバい響きのスキルだ。
たぶん、780のゴリラ火力に上乗せする形で起動する、超パワーのスキルだろう。
そんなもの、ただの一撃だって貰ってやるわけにはいかない!
その瞬間、遂に拳が振り下ろされる。
空から山が降ってくるかのような絶望感と焦燥にかられながら、ユニークスキルを起動した。
「《交換》――《アイテム効果+10%》を捧げ、我が手に《衝撃拳》を!」
刹那、僕とサイクロプスの身体が金色に輝き、胸元から魂みたいな光の玉が飛び出した。
その玉は光の尾を引きながら空中でクロスし、サイクロプスから出た玉は僕の胸へ、僕から出た玉はサイクロプスの胸へと吸い込まれる。
「さあやるぞ! お前のスキルの力、お前自身でとくと味わえ!」
落ちてくる拳を見据え、地面を踏みしめる。
右手を思いっきり引き絞り、振り下ろされる拳を真っ向から殴りつけた。
「《衝撃拳》ッ!!」
果たして、勝負の行く末やいかに!