第十九話 《交換(リプレイス)》の真価
「《衝撃拳》ッ!!」
届かぬのならせめて、一矢報いる。
しなる腕を鞭のように振るい、三日月型の衝撃波を放つ。
衝撃の波はジャイアント・ゴーレムの足下をすくうように肉薄し、足下を掻っ攫う――かに思えた。
『グォオオ!』
小さく吠えたかと思うと同時に、ジャイアント・ゴーレムの膝から下が紫色に輝く。
光の具合こそ違えどそれは、間違いなく《衝撃拳》の前兆。
嫌な予感が全身を駆け巡った瞬間、衝撃の渦を撒き散らしてジャイアント・ゴーレムは空高く飛び上がった。
一瞬前、ジャイアント・ゴーレムのいた場所を、僕の放った剃刀のような衝撃波が掠め去る。
「ちくしょうっ!」
まさか、《衝撃拳》を足に発揮し、その反動で空へ跳ぶなんて。
身体は硬いのに頭は柔らかいらしい。一番厄介なタイプだ。
風に流される身体を捻って強引に着地し、上を見上げる。
飛び上がったジャイアント・ゴーレムの四肢に、赤い球が形成されてゆくのが見えた。
その光景に、僕は唖然としてしまう。
「んなっ!? あれは《紅炎極砲》!?」
しかも今度は、同時に四つ。
いくらなんでも、《冷却波》で相殺しきれるものじゃない。
「そんな……あれを四発もだなんて」
「死んだぜ? なァ、俺達絶対殺されるゥ!」
地面に這いつくばりながら、青ざめるリーダーやバール達。
しかし、死を覚悟する時間は与えられそうにない。
火球はみるみる肥大化し、今にも僕達に向かって放たれようとしている。
「こうなったら一か八かだ!」
果たして今からしようとしていることが、起動しかけているスキルに通用するのか未知数だが、もうやるしかない。
「《交換》――《灯火炎》を捧げ、我が手に《紅炎極砲》を!」
口早に唱えた瞬間、完成しかけていた炎の塊が消える。
代わりに、弱々しい炎が四つ、ジャイアント・ゴーレムの周囲に浮いていた。
(上手くいった!)
ほくそ笑む僕の脇で、倒れていた人々が口々に「今、何をしたんだ?」「スキルを消すスキルか……?」などと呟き、畏怖の目を僕に向ける。
起動しかけていた高威力火炎魔法の《紅炎極砲》と、火炎魔法とはいえ炎を指先に灯すだけで殺傷力の低い《灯火炎》を咄嗟に交換したのだ。
発動を始めたスキルに有効なのか、その部分は賭けだったが、なんとかなった。
けれど、安心している暇はない。
『グォオオオオオオオッ!!』
雄叫びを上げるジャイアント・ゴーレム。
その豪腕が妖しい紫色を帯び、過剰なまでのエネルギーが収束していくのが目に見えてわかる。
数秒もしないうちに、《衝撃拳》が放たれるだろう。
「あの野郎! どうせ攻撃するなら僕だけを狙え! 一々殲滅級の範囲攻撃スキルばかり使いやがって!」
思わず激高する。
とそのとき、脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
(そうだ、実際に僕だけをピンポイントで狙わせれば良いんだ!)
思いついたが吉日。
忌々しいスキル《標的誘導》を起動し、自身に付与する。
青白く光る鋭い目が、僕の方に向けられた。
「これでいい。少なくとも、倒れている人が犠牲になることはない……あとは!」
見かけによらず《衝撃拳》を駆使した俊敏な動きをする敵に対応するには、こちらもスピードがいる。
スキル《飛行》を起動し、ジャイアント・ゴーレムのいる上空へ一直線にのぼりながら、眼下に倒れている人の一人を見やる。
「スキル《サーチ》!」
倒れている人のステータスが瞬時に瞼の裏に映されるが、前半はすっ飛ばし、後半のスキルだけを確認する。
スキル(通常) 《ズーム》 《ダメージ増加+20%》 《拘束》 《超跳躍》
「……これだ! 《交換》――《ドロップ増加+20%》を捧げ、我が手に《超跳躍》を!」
素早く、役立ちそうなスキルを交換する。
スキル《超跳躍》。
確か洞窟蜘蛛も所持していた。脚力が急上昇するスキル。
とにかく逃げ回れるだけのスピードと瞬発力がいるこの戦いには、必需品だ。
瞬間、上空に来たことで真正面に位置しているジャイアント・ゴーレムが、攻撃を仕掛けた。
紫色に光る腕を振るい、衝撃波を放つ。
僕は、空中に浮かぶ無数の四角いブロック――その一つに足を付けて、すかさず《超跳躍》を起動。
ブロックを蹴った反動で加速し、衝撃波を躱す。
(行ける……っ! この速度なら躱せるっ!)
不敵に微笑んだそのとき、ジャイアント・ゴーレムの周囲に蛍のような光の玉が無数に浮かび上がる。
次の瞬間、蛍のような光がモチのように伸び、レーザー光となって一斉に放たれた。
魔法スキル《閃光噴射》の一斉掃射。
光の牙が、僕へと肉薄する!
ジャイアント・ゴーレムとの激戦はまだ続く!