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第十六話 戦慄。桁外れの巨人

「んなっ!?」


 洞窟を抜けた瞬間、足が止まった。

 そこは、さっきのドデカスライムがいた部屋よりも、何倍も大きな空間だった。


 おそらく、空間そのものがねじ曲がっているのだろう。

 ダンジョンの下層にはよくある仕掛けだと聞いているが、実際に見るのは初めてだ。


 赤くうねりを上げる空に、そびえ立つ奇妙な形の尖塔せんとう

 正方形に切り取られた石のような塊が無秩序に分散し、空に浮いているという奇妙な景色。


 しかし、驚いたのはそこじゃない。

 だだっ広い世界の中心。ヒビ割れた地面の上に、ゴツゴツとした体つきの巨大なモンスターが立っている。その場からかなり離れたここから見て、サイクロプスと同じくらいの大きさの巨人が。


「遠近法で見て、対峙したときのサイクロプスと同じか、それ以上の大きさ……どんだけだよ」


 自然と冷や汗がしたたる。


 と、その巨人の足下に何やら豆粒みたいなものが幾つもあることに気付いた。

 それらは巨人の周りを取り囲み、動いている。

 次の瞬間、巨人の足下で爆発の光が走った。


「あの光は、攻撃の……じゃ、まさかあの豆粒は……人!?」


 間違い無い。

 見て取れるだけで、30人程度。

 おそらく、最下層攻略に来たパーティだ。


 不意に、巨人の腕が上がる。

 足下の人間に、拳の鉄槌てっついを喰らわせる気だ。

 そんなことはさせまいと、皆一様に攻撃スキルや魔法スキルを放ち、応戦しているが……まるでビクともしない。


 マズい! そう確信したとき、巨人の拳が振り下ろされる。

 刹那、隕石が地面に激突したかのような轟音ごうおんとどろき、巨人を中心に衝撃波が嵐となって吹き荒れる。


 地面全体がまるで豆腐にでもなったかのように、ぐにゃぐにゃと揺れた。


(こ、この攻撃は……っ!)


 これも見覚えがある。

 ――自分が使いまくっていた技だから。


 《衝撃拳フル・インパクト》。

 何から何まで、サイクロプスに似ているスキル構成だけど、大きく違う点が一つ。

 

「この攻撃力……サイクロプスとは比にならない!」


 突風に巻き上げられて、木の葉のように舞っている人々を見ながら、戦慄に身体を震わせる。

 ――と。


「ゼェ、ゼェ……。ちょ、ちょっとエランくん。走るの速すぎだって……はぁ、はぁ」

『きゅー……きゅー』


 息せき切って、クレア達が走り込んできた。


「もう少し手加減を……って、あれ?」


 クレアの視線は、すぐに目の前の巨人に釘付けとなった。


「なぁに、あのバカデカイやつ」

「たぶん、サイクロプスの完全上位互換だ。今の僕でも勝てるかどうか……」

「風に巻き上げられてる虫みたいなのって、人間だよね? だとしたら、巨人あいつ大きすぎない?」

「ああ」


 冷や汗が頬を伝わる気持ち悪さを感じつつ、巨人を見据える。

 まるでラスボスの貫禄かんろくだ。


「どう考えても、あいつとやり合うのは分が悪い。できれば戦いを避けて、通り抜ける手段を探したい……けど」


 そうさせてはくれなさそうだ。

 風に巻き上げられた人々は、一様に地面にたたき付けられ、転がっている。

 二の足で立っている者など一人もいない。

 死屍累々とは、このことだ。


「え、エランくん! あの人達ピンチだよ! 助けないと!」

「待って!」


 感情のままに飛び出したクレアのえりを掴んで、止めた。


「どうして止めるの? あの人達、このままじゃ死んじゃう!」

「わかってる。けど、お前じゃ勝てないでしょ。スライムに掴まって全裸にされて、死にかけたのを忘れたの?」

「そ……それは」


 とたん、クレアは押し黙る。

 たぶんわかっているはずだ。自分が捕まっていたスライムより、目の前にいる巨人の方がはるかに強いことを。


「でも……私は!」


 クレアの目尻に、小さな光るたまが生まれて、なめらかな頬をすべり落ちた。


「何度も言わせないで。お前じゃ無理だよ」

「そんなこと知ってる! だけど、助けたい!」


 キッと、黄色く光る瞳が僕を射貫く。

 弱いくせに、強い眼差しだ。


(まるで、昔の僕だな……)


 ふと、いつかの自分を思い出し、自嘲気味に笑う。

 それから、クレアの決意に満ちた瞳を見つめ返した。


「わかってる。だから、お前の代わりに僕が行く」

「……え?」

「お前はここで見ていてくれ。せっかく拾った命なんだ。蛮勇ばんゆうに先走って、捨てようとしないで」

「う、うん」


 拍子抜けしたように頷くクレアを尻目に、僕は全速力で巨人に向かって駆けだした。


相対するは目を疑うほどに大きな巨人。

果たして、エランはどう対応するのか!? 激戦が幕を開ける!!

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