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しあわせのたぬき  作者: 月美てる猫
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第四章 たぬき達の旅立ち〈後編〉 ②

《これまでのあらすじ》

 夫婦2人の空想から生れた5匹のタヌキ。2人と5匹は家族のように幸せな時を過ごす。

 しかしある時見た悲惨な戦争の夢は未来に起こりうる現実だと悟る。光と影、生命と霊力というこの世の二面性を知り、2人は5匹を生かす方法を考える。戦争の夢に現れた東京に住む本土タヌキ、北海道に住むカムイなど、力を持った精霊も悪夢の真相を究明し、この世を幸せに導くパワーの源をさぐるが、5匹のタヌキの可能性に期待を寄せ成長を見守る。

 5匹は「人を幸せにするタヌキ」という宿命を背負いながら、自ら進むべき道を切り開いていく。やがてタヌキ達は「幸せにしたい」人間の子供「かずみ」と出会い、その母子へ接近する。母親の「はるか」はタヌキ達に心を開き、母子を幸せに導く奮闘が始まる。

 そこへ、魔物を操る能力を持つ人間が母子とタヌキ達に近づいてきた。タヌキ達は魔物との戦いで自分達の力不足を悟る。タヌキ達は自分達の魔力を高めるために修行の旅に出た。

 旅の目的地、ウサギの里では精霊と魔物との戦いが起きていた。タヌキ達はウサギの里を守る「鳥王」から、魔物と化した精霊モンガを救ってほしいと頼まれる。ウサギの里で出会ったウサギの戦士、自分達とそっくりのタヌキの精霊と共に戦いの場へと向う。


《この章の前書き》

 ウサギの里から北へ進み目的地、羽幌町沖の島へ到着した5匹は次第に魔力を高めていく。ウサギの戦士に従いながら魔物と化したモモンガの精霊を助けるというミッションに協力する。またそれと同時に羽幌周辺の魔物達を掃討する大掛かりな作戦が遂行されようとしていた。



(第四章 たぬき達の旅立ち〈後編〉つづき)



 平和で静かな夜があけた。早起きのカッちゃんが

「コケコッコー」

 と朝を告げ、息をのんだ。焼尻(やぎしり)島や羽幌(はぼろ)町方面を警戒していたトビがカモメを次々に運んでくる。偵察(ていさつ)に行ったカモメの精霊が無残な姿でイカダに(しば)られ流されていたという。

「らびらびらびラビティ」みんな、起きて!

 浜辺でカッちゃんがおいおい泣いている。6羽のカモメは死んではいない。ただ1羽あたり十数本ものハリが身体に突き刺さっていて、それぞれもがいている。針は赤黒く透き通った憎悪の念だ。精霊へ突き刺さりしばらく刺さったまま(とど)まるようだ。ウサギ達が治療にあたっている。


 ふと崖の方を見るとおびただしい数の魔物が崖の上に立ってこちらを見ている。リーダーが冷静に言う。

「実態はない、投影のようだ」

 海は西にあり崖は東にあって、朝日が崖の方から射している。日の光が強くなるにつれて、魔物の姿は消えていった。月舟から空飛ぶサーフボード「柳星」が出され、ボードに乗ったウサギ達が崖の周辺を見るが、魔物の姿は見えない。海鳥達が飛びあたりを注意深く見ている。リーダーがつぶやく。

「警告なのか?なぜ攻めてこない?」

 ウマウマが言う。

「ここには攻めてこないと思います」

「うさうさうさうさ」ウマウマどうして?

「昆布が教えてくれました。この島は海に守られています」

「うさうさうさうさ」ああ、そうなんだね。

 うさうさがみんなの方を向いて、

「うさうさうさうさ」ここには攻めてこないみたい。

「らびらびらびラビティ・・」それは幸いね。でもこれからどうする?逆にモモンガの里に乗り込む?


 奇妙な会話だった。ウサギ達はウマウマやウサウサの言うことに反論もしなかった。あっさりこの島が海に守られていて敵は攻めてこないという結論としている。ウサギ達が円卓を出して「どうしようか」と思案している。


「うさぴょんうさぴょんぴょん」あの子達はどうしているだろう?

 そういえば、あの(しば)られタヌキ達がテントにこもったまま出てこない。身体の具合が悪いのだろうか。エゾtがテントを開けようとすると、

「入るな」と、あのリーダー格の声。

「入るな」と言われるとなおさら入りたくなる。巻き物を開いて昨日の呪文を唱えた。

「だだだだだたぬうき」

 テントがひっくり返って中から叫び声が聞こえた。

「うわーっ、何をするんだ!」

 もう一度同じ呪文を唱える。

「だだだだだたぬうき」


「フギャー」


 もう一度同じ呪文を唱えて、ひっくり返ったテントはもとどおりにひっくり返ったが、そのもう一度ひっくり返ったときに聞いた鳴き声に、牛と馬を除いて全員が身震いをした。おそるおそる、エゾtがテントのチャックを開けると、

「だだだだだ」うううわあっ

 縛られタヌキ全員が、テントの中であっちこっちを向いてひっくり返っている中で、身のこなしの軽い動物が一匹、4つ足で立ってこちらを向いて「フーっ」と怒っている。子ネコの精霊だった。

 一瞬たじろぎ、一歩、二歩とみな後ろに下がる。エゾt達タヌキ5匹同様、ウサギ達もネコは苦手だった。


「な、な、なんだ、どうしてテントにそれがいるんだ」

 リーダーが後ずさりしながらタヌキに言う。


「なんだか知らないけど(なつ)いちゃって、一緒に寝ていたんだ。それだけのことだ」

 だからどうした、と開き直る縛られタヌキ。


 エゾt達5匹のタヌキはネコ嫌いの義明に似てネコが苦手だったが、縛られタヌキ達は、ネコは特に苦手でもイヤでもないようだった。三毛(みけ)でまん丸い目をしていてまだ生まれて半年くらいであろうか。ネコ好きの人間ならば誰もが「カワイイ」と言って頭を撫でそうな、気もするが、ウサギも海鳥も誰もカワイイとは言わない。


 重傷を負ったカモメ達が意識を取り戻したようだ。偵察に行ったそのカモメ達によれば、島へ帰ったらこう伝えろ、と言われたという。

 


「アザラシを捕えた。昼までに羽幌川河口まで来い」

 


 カモメ達の話では魔物達の数は目にしただけで500体、それ以上かもしれない。モンガ本体は羽幌川上流の山中にいて、その手前にウサギの魔物が出入りする(とりで)がある。モモンガの里を滅ぼしたウサギの魔物と思われるが、

「モンガ本体もそのウサギも強い霊力を持っています」

 という。ウサギは全身が黒く、悪気のオーラでぼやけて実態が見えにくく常に揺れていた。モンガは精霊か、と疑うほどおどろおどろしい姿だった。ウサギとモンガが細かい針状の霊気を飛ばして同じ攻撃をしてきた。他にもう一体、ウサギの魔物がいるが、モンガのコピーに姿を変え、捉えたアザラシとともに河口付近で待機している、という。

「イカダで流される前に、気を失うほどの針を浴びました。その前に少しだけアザtさんと話ができました」

 アザt達も強い魔力を持っていた。容易に捕まるはずはなかったが特産品の甘海老が点々と落ちているのを拾いながら陸を歩いているうちに、うっかり落とし穴にはまった、とのことだ。そしてアザtの言葉を伝える。

「油断した、戦力的にはこちらが圧倒してる。でも気を付けないと・・・」

 カモメがじっとリーダーの目を見て、

「人間がいるかもしれない」

 そうアザtが小声で言ったという。


 リーダーは考えた。戦力的には不足はなかった。アザt達を救出しなくてはならないが、アザt達の魔力であれば今頃はもう自力で脱出しているかもしれない。

 それにライデインが密かに周辺の野山から援軍を差し向けている。リーダーのみがその援軍のことを聞いていた。かなりの戦力だ。意思を持たない魔物の集団など恐れるに足りない。おそらく集められた魔物達は、ひとたまりもなく崩壊するだろう。ただ、自分達に与えられたミッションはモンガを改心させて連れ戻すことのみだ。

 気になるのはモンガ本体の魔力がどのくらいなのか、モンガをそそのかしたウサギの実力はどのくらいなのか、そして、

「陰で糸を引く人間がいるのか・・・」


 並みの精霊はふつうの人間に対して直接の攻撃はできない。ライデインのような強力な魔力を持つ精霊でなければ。ただ、人間も精霊に対しては攻撃はできない。義明や春美のような精霊と直接触れ合う能力を持った人間でない限りは。だから、ふつう精霊は人間から直接危害を加えられることはないのだ。

 ただ、「ふつうの人間」でも人間の恐ろしさは、生身の動物達を容赦なく殺すことができるということだ。この世界は人間に支配されていて、「動植物は人間の人質に捕られているようなものだ」、そうリーダーは考えている。

 かつて幾たびか雷電海岸へ乗り込んできた人間達は周辺の貴重な動植物を踏み荒らすようなそぶりを見せた。中にはよい人間もいる。雷電周辺の美しい自然を観光客に伝え、森林を育て、守るべき豊かな動植物をPRしてくれた。

 だが己の利益のみを追求するよこしまな人間も来る。そういう者には容赦のない妨害をした。近年やってきた悪気(あくき)の漂う人間には黒い影が見え、魔物をあやつり、ウサギ達精霊を悩ませた。リーダーがつぶやく。

「いったいその人間は何者で何をたくらんでいるのか・・・」

 数百体もの魔物を組織できる人間がいるものだろうか。


 近年やってきた人間とははるかの従兄妹(いとこ)、和政と「その部下」だった。ただ、和政は悪気(あくき)を漂わせていたわけではない。壮大な夢とビジョンを持って、このエリアにふさわしい都市建設を真剣に考えていた。


 北海道の日本海側海岸線を北上する道路を小樽市までが追分(おいわけ)ソーランライン、石狩から北に天塩(てしお)町までをオロロンラインという。その両ライン上に自社の拠点を置きつつ商業施設や工業施設建設のプランを立て、地域経済、産業の発展に寄与しよう、という構想であった。風光明媚(ふうこうめいび)なのは良いが産業の発展が遅れている海岸線を自社が手がける開発行為を起点に、あらゆる産業への関わりを自社で寡占(かせん)化するシミュレーションだった。物流拠点を配置することで建築資材や製造物、生産物の独自輸送インフラを確保し、働く人の雇用を生み出し、自然エネルギーの電力プラントや教育施設も建築して働く人達の生活基盤を整え暮らしやすさを約束し人口の増加も果たす。何より北海道という土地の、豊な自然と食糧は本州や世界から見てもうらやむものがあり、海岸線の拠点はやがて内陸へも拡大して自社は北海道になくてはならない一大ネットワークの中心的役割を果たす、というロマンであった。

 着眼点は悪くない、と、誰もが感心したが、誰もが懐疑(かいぎ)的であった。市町村の行政関係者からの理解を得ることができず、地元商工会や住民から反対の声を浴びて苦悩するうちに、


「この地域には魔物が住んでいる」


 と地元の良心を(さげす)むような発言もし、やがて和政は自社の経営幹部によりこのプロジェクトから外され、代わりに石狩市と岩内(いわない)町については従兄妹のはるかが担当することになった。

 和政が想定していた物流施設や商業施設の拠点は、北から羽幌、石狩、岩内であった。岩内、石狩の担当からはずれたものの、まだ羽幌については部下を派遣させて、残務整理と称して地元との折衝(せっしょう)を続けていた。まだ自身の構想をあきらめきれずにいたのだ。

「この地域には魔物が住んでいる」

 そう和政が思う「魔物」とは、和政の構想に賛同をしない地域住民の気分感情を間接的に指していた。地域住民の発想を変えるための説得なり、夢を語る情熱の姿勢なりを見せることが王道であろうが、よこしまな発想はその逆、つまり、魔物を使って良心的な人間やその地に宿る精霊を攻撃することが近道、そうその和政の部下は考えているのだ。

 いま羽幌に来ている和政の部下は「嘉藤(かとう)」という。嘉藤には魔物が見えていなかった。魔物を扇動(せんどう)する能力もない。しかし「波長」「相性」が魔物と合う。魔物が嘉藤に入り込んで嘉藤の邪念(じゃねん)なり悪知恵なりを魔物にとって都合のいいように導きだし、活用するのだ。


「なあ、嘉藤さん、島であいつらが悪知恵を絞っているようだよ」

「ああ、ひどい連中だ。なあ、あの島、取れないか?」

「ああ、あの島いいねえ、鳥も羊もいる、欲しいねえ」

「取っちゃえよ。あの島が取れたら海も陸も思いのままだぜ」

「だが、嘉藤さん、俺に海で戦えっていうのかい?」

「やつらの狙いはモモンガだろ、主力がそっちに向かっている間に、雑魚(ざこ)どもを引っ張ってって島を襲わせればいいんだよ。簡単じゃねえか。モモンガなんかもういらねえ、俺たちは島を手に入れようぜ」

「ふふん、あんた、金儲けに俺らの身内を使う気じゃねえだろうな」

「岩内で実験済の(おり)を使うさ。無傷で捕獲してまた山に帰すよ。大丈夫だ。俺がついているだろう、それにここの連中は殺生(せっしょう)を進んでしようとしない。間の抜けた連中さ」


 会話はそれぞれ独り言である。だが無意識に魔物とよこしまな人間はつながるものなのだ。魔物は本来組織的に戦うということはしない。めいめい勝手で言うことを聞かない者ばかりだ。魔物は人間のしたたな兵法を盗み取る。地元の人間達には見えない魔物と精霊の戦いは少なからず地域に悪影響をもたらし、そこによこしまな人間が付け入る隙ができる、嘉藤はそこへ入り込むチャンスを目に見えない邪念の空気を通じてつかもうとしているのだ。

 嘉藤は羽幌から石狩、雷電(らいでん)に至る沿岸を抑える和政の計画について、早期実現は無理だと判断すると、天売島、焼尻島へ目を向けた。

 ネコ以外の「ある肉食動物」を誘導し入り込ませるが、それと同時に自身が開発した檻を自治体に売り込み、「肉食動物駆除」の実績をあげて確固たる信頼と会社の拠点を築き、肉食動物出現に応じて島にとって必要とされるであろうビジネスを根付かせる構想でいた。


バサバサバサバサ

 雷電海岸から月舟を追ってきたウミウ、カモメ、ツバメ達がリーダーの前に隊列を組んで集結した。更に海にはアザラシ10頭、シャチが1頭、イルカが5頭。海岸付近での戦いに持ち込めたら圧倒的に有利なはずだ。

 ライデインが呼んだ援軍は内陸の方からは、ヒグマ、キツネ、エゾシカ、ナキウサギ、トビが奇襲をかける作戦だった。山と海で敵を挟み打つ形になる。

 アザラシやシャチもライデインがアザtを通じて道東から呼び寄せていた。

 

 南の方から月舟が近づいてくる。エゾナキウサギの月舟だった。エゾナキウサギは内陸部、北海道の中央に位置する大雪(たいせつ)山系などに生息していて、大雪山系の繁殖地を守るエゾナキウサギの精霊達は、北海道内の情勢を常に敏感に感じ取り、自分達が懇意(こんい)に交流している東西南北の精霊達と情報交流を緊密に行っている。

 リーダーが手を振ると、月舟から拡声器で「シキシマウサギのリーダーさんお久しぶりです」と、エゾナキウサギのリーダーが甲板から手を振る。月舟は着陸し、エゾナキウサギのリーダーが下船し、拡声器を持って「おはようございます、みなさん元気ですか」と挨拶をし、ナキウサギは拡声器を持ったまま、ウサギのリーダー同士が握手をした。

 ナキウサギによれば、魔物のウサギがいる砦が真近に見える山中にはすでにヒグマ、エゾシカ、キタキツネが陣をかまえ、扇型(おおぎがた)にトビやタカ、エゾナキウサギの月舟数隻が取り囲んでいる、とのことで、

「合図があればいつでも攻撃をしかけます。海の方へ逃げた魔物を迎え撃ってください。でも、みなさんの出番は無いかもしれませんけど」

 拡声器でそう言い、拡声器で「それでは」と言ってナキウサギの月舟は元来た空路を戻っていった。魔物に気づかれないよう、大きく迂回して山中へ入るようだ。月舟を見送るウサギ達。


 

 ネコを抱いていた縛られタヌキが口を開いた。

「なあ、どうしてそんなに兵隊がたくさん来るんだ。この辺りって普通、クマとかシャチとかアザラシとか、そんなに来ないだろう」

「・・・?」

 戦いを有利に進めていくためにどうしようか、アザラシを救出するためにどうするか、ということをみなが考えているときに、何を言っているんだ、と、ウサギ達が縛られタヌキを見る。


 5匹のタヌキ達とウサウサは海辺の散策をしている。タヌタヌがカニを見つけたらしく、棒で突っついている。ウサウサが初めて見るカニに興奮している。ウマウマは少し離れたところで、岩に腰掛け海を見ながら葉巻をおいしそうにふかしている。うっしっしはその横でモーニングコーヒーをカフェオレで飲んでいる。

 

 海鳥が朝の営みを開始している。この島には100万羽もの海鳥が生息している。野生のアザラシもイルカも立ち寄るようだ。それに比例して多くの鳥や海獣の精霊もいるのだが、戦いなど無縁、のどかで平和な暮らしぶりである。

 

 縛られタヌキが続ける。

「武器を持ったりするから相手も攻めてくるんじゃないのか」

 これには誰も反論しない。元々ウサギ達も野山の精霊達も戦いも武器を持つことも好まない。だが魔物に土地を明け渡して逃げるわけにはいかない。縛られタヌキのリーダー格が更に続ける。


「こっちの戦力を見て、相手も兵隊を増やすんじゃないのか」

 その通りだ。意外にまともなことを言うと半ば感心しつつ、リーダーが、

「相手は魔物なんだ、魔物に取りつかれて不幸な目にあっている精霊と生身の動物達を助ける、そのために我々は武器を取り戦う」


「魔物って、本当に悪い者なの?」

「・・・?」

 おしゃべりタヌキ以外の1匹が初めて口を開いた。よく見ると捕らわれタヌキは皆同じではない。リーダー格は 男の子、他に、毛あしの長い女の子と毛あしの長い男の子、毛あしの短い女の子と毛あしの短い男の子。毛あしの長い女の子が続けた。


「悪い者と良い者の違いがよくわからないよ」

「・・・」

 これは難しい物言いだった。言っていること自体がにわかに理解できなかった。毛あしの短い子が、補足するように、

「この子は良い子だと思う?悪い子だと思う?」

 テントの中に入ってきた子猫のことだ。ウサギ達はネコは苦手だ。良い子か悪い子かと聞かれるとなるほど返答に困る。


 毛あしの長い男の子が、

「この島に魔物が来ないのはこの島がちゃんと平和だからだよ。人間達はネコを殺さずに保護しているんでしょ?」

「・・・?」

 その子猫から見れば自分達ウサギも魔物に見えるのかもしれない。平和な島に上陸した自分達ウサギこそ用無しであろう。島が平和だと魔物が来ないというのは理想的な話だが、いまの状態はウサギ達の目からは決して平穏無事な状態ではない。 


 毛あしの短い子が、

「人間って恐い生き物だよね。でも、武器なんか持たなくてもなんとかしようって頑張っている人もいるみたいだよね」

「それはそうだが・・・」

 リーダーがつぶやいた。

 ネコを捨てる人間がいる一方で、保護活動をしている人間もいるという。ウサギの目から見てネコは魔物のように恐ろしい。だがこの島では人もネコも海鳥も武器を持って戦うなどしない。人間は平和的な解決を模索している。ネコの保護やこの島が平和であることはいいとして、対岸には魔物がひしめいている。カモメが重傷を負ったことや、アザラシが捕らわれていることは放置できない。


 リーダー格が、

「ここは冷静に話し合ったほうがいいと思う」

 それはそうだ。だが話し合ってわかる相手とは思えない。だから「モンガを捕えて連れ帰れ」という鳥王からの命令なのだ。毛あしの長い女の子がまたおかしなことを言う。


「みんなが魔物の味方になったら戦争しなくていいよね」

 毛あしの短い女の子がさらにおかしなことを言う。

「あ、それいいね。こっちが魔物になれば向こうの魔物はいい子になるよ。」

 毛あしの長い男の子が

「そうだ、みんな魔物になって仲良くすればいいんじゃない?」

 毛あしの短い子が

「ここは魔物に任せて、もうみんな帰ろうよ」



 だんだんとウサギ達の表情が険しくなる。



 リーダー格のタヌキが慌てて、

「おい、こら、お前達は口を開くな、話の持って行き方ってものがあるんだ、ぶち壊す気か・・・」


 ウサギ達がテントに近づいてきて、

「うわー、何をするだ、やめろ」


 縛られタヌキ達はふたたび縄で縛られた。ライデインからは「連れて行くように」言われていたが、「縄で縛ってはいけない」とは言われていない。



 この世に生まれたばかりのこの「縛られタヌキ」達は、リーダー格が比較的成長が早いものの、他の4匹はまだそれに追いついていない。だからこの5匹を派遣した者からは「余計なことはしゃべるな」、と言われていたのかもしれない。5匹はその悪気(あくき)漂う者の性質を引き継いでいた。「様子を見に行け」と言われ、更に「人間や魔物に逆らうなと言え」と言われていたので、自分達なりに無邪気に素直にそういう物言いをしたまでであったが、当然のように怪しまれ、縛られた。


 ただし、この縛られタヌキ達、凄惨(せいさん)な戦いの現場を見るにつけ、次第に心が揺れ動くのである。兵力拡大はいかがなものか、話し合いが必要、いや、手を引いた方が楽では、などと。さらに

 


「俺たちはどっちの味方をしたらいいんだ」

 と、縛られながら考える。

 


 日が高くなってきた。今日は暑くなりそうだ。

 ウサギは日焼けに弱い。大昔、砂浜で人間の神に皮をはがされ炎天下に放置された実話をウサギ達は思い出していた。 

 

 すぐに作戦を遂行する。魔物は約500体、潜んでいるだいたいの場所はツバメ達からの報告でつかんだ。山中のクマやキツネにはそのまま待機、ウサギ達はタヌキ5匹を伴ってボートでアザラシを救出に向かう。アザラシ救出後にポンが花火を打ち上げて総攻撃を開始。魔物の駆逐をしつつ、雷電海岸のウサギ、海鳥が、敵の砦を攻めてモンガを支配しているウサギの魔物を倒し、総員でモンガを包囲して捕える。5匹のタヌキ達はアザラシ救出後はアザラシとともに海岸で待機。ウマウマとうっしっしは月舟で留守番をする。


 月舟から2艘の星舟が飛び出した。水面ぎりぎりに飛び、大きく迂回(うかい)しながらアザラシが捕えられている河口付近を目指す。


 海沿いに走る国道のトラックやバスや民家に隠れながら、少しずつ河口付近に近づく。アザラシの姿が見えた。無事なのか?山の方ではナキウサギの指揮で魔物が潜んでいるあたりを包囲している。いまのところ山から海へ魔物が下りてくる気配はなく、あたりに魔物の姿は1体も見えない。

 罠かもしれない、と、思いつつゆっくりとアザラシの近くまで寄る。アザラシ以外は誰もいない。偵察のツバメが飛んで帰ってくる。

「敵がいないようですが、アザラシはそこから動こうとしません」

 偵察のツバメの姿はアザt達から見えていたと思われる。アザラシだけに河口から海に入って水中から沖合の島まで逃げ帰ってこれそうなものだが。

「らびりんらびらん」4頭しかいない。

「うさりんうさりん」ラシラシはどこ?


 星舟はアザラシのいるあたりまで近づき着陸する。リーダーが、

「アザt、ラシラシはどうした?」


 突如、土の中にめり込んでいたモンガのコピーがアザラシ達の向こうから躍り出てきて

「モンガモンガ」

 モンガのコピーが口を大きく膨らませ、巨大な念力弾を、着陸したばかりの星舟へ、

ドシュン

 放たれ、星舟一艘を木端微塵(こっぱみじん)に粉砕する。念力弾をよけたタヌキ、ウサギ達が辛くも地面へころがり立ち上がって構えるが、モンガのコピーの片腕にラシラシが捕えられているのを見て、ウサギ達は攻撃をためらう。

 しかし、

「モンガあ・・・」

 ラシラシを捉えていたモンガのコピーの背中へ真っ赤な念力弾が「ドカっ」と刺さり込み、胸で膨らむと、

ドカン

 モンガのコピーは粉々にくだけながら燃え尽きた。


「ラシラシーーー!」

 それまで動かず、声も立てなかったなかったアザt達は地面に落ちたラシラシのもとへ駆け寄り、ラシラシを抱きしめペロペロとなめた。


 その背後から、モンガのコピーを粉砕した主が、スウッと姿をあらわし近づいてきた。モンガの本体だ。

「モンガ、お前・・・」

 リーダー等ウサギ達は絶句していた。あまりにも変わり果てたモンガの姿に。


「もんがもんがもんがもんがーがドンナモンガ」こんな姿で驚いたね、でもね、リーダー、たまにね、正気に戻るときがあるんだよ。いまのうちだよ。逃げるなら。


 そう話すモンガの体は2メートル四方くらい、手足を広げ毛皮(もうひ)を開いたまま、その開いた毛皮は赤黒く透き通りうずを巻いている。頭は丸みがなく角ばり、髪をふり乱した鬼のようだった。右手に、

「うみうみうみうみうみがらあす」

「ウミウミ!」

 ウミガラスのウミウミを抱いていた。


「もんがもんがもんがもんがーがドンナモンガ」このウミガラスが、僕を見て「ママ」って言ったんだ。そうだよね、僕の目の前で羽化(うか)したもんね。


 ウミガラスのウミウミはモンガを親だと思っていたのだ。羽幌に来たがっていたのは親だと思っていたモンガに再会したいからだったのか。

「もんがもんがもんがもんがーがドンナモンガ」この子を見て、それから、アザラシの兄弟を見て、どうしても殺したいとは思えなかったんだ。でもいまだけだよ。

 すぐにまた魔物に戻るから。だから、早く、逃げ、た、ほうが、い、いよ」


もんがもんがががががががが・・・

 モンガがひとまわり、ふたまわり大きくなっていく、身体から念波がここまで伝わってくる。


「一旦退却だ、アザラシ達は海に出ろ」


ズズズズズズズゴワーーーー

 すさまじい念力の圧がかかり、ウサギもタヌキ達も後ずさりする、思わずみな右前足を上げて光の盾を出す。


 ビギギギギギギーーー

 細い鋭い念が何百、何千と飛んでくる。ウサギやタヌキの盾につきささり、そして突き破ってくる。


「たぬりんたぬりんたぬりん」

 タヌリンが金の玉を胸の前に両手で突出し念を発すると「狸場理(たぬきばり)」があたりに張り巡らされ、モンガの攻撃を防ぐが、

ゴゴゴゴゴゴゴ

 強烈なモンガの念にタヌリンが押され気味になる。


 狸場理の中、ウサギ達が一斉に(やじり)の矢を放とうとする。モンガの強力な重力波が起きているうえに、モンガに抱かれているウミウミが気になり強く弓を引けない。

「足元を狙うんだ!」

 リーダーが叫ぶ。矢の何本かがモンガの足に刺さる。モンガは痛そうに顔をゆがめる。ウサウサがようやく二本足で立って弓を構えるが、矢を放とうとすると弦が()ねるが矢がぽろんと足元に落ちる。


 背後から殺気を感じ、リーダーが振り向くと、真っ黒いウサギの魔物が立っていた。全身がにわかに膨らんでモンガと同じような真四角な腹になると、


ズズズズズズズゴワーーーー

 黒ウサギの魔物からもすさまじい念力の圧が発せられる。


 リーダーが目を閉じ、パッと目を見開くと赤い光の玉が目の前で薄く広がり、魔物の攻撃を跳ね返す場理(ばり)の壁となる。リーダーらウサギ達がその兎場理の膜を前足で押し支えながら、両目から赤い光線を発射して黒ウサギを攻撃する。

ピーーーーー

 黒ウサギが数歩後退する。


 すると黒ウサギを取り囲むように次々に黒い影が飛んできて、黒ウサギの正面を覆い隠す。影の中央、薄ぼんやり見える赤黒い輪郭のウサギから勢いを増して針の念が飛んでくる。どこからともなくコウモリ型の魔物が何羽も取んできて音波を狸場理めがけて発射する。タヌリンの場理が揺らぐ。

 ラビティ姉妹が弓矢の先を鹿角(しかつの)に変え、ラビティとラビりんがモンガへ、ウサリンとウサぴょんが黒ウサギへと矢を連射する。鹿角には魔除けの呪文が施されている。黒うさぎとモンガの攻撃が緩んだ。だが執拗(しつよう)に場理への攻撃が続く。


 正面からモンガ、背後から黒ウサギの念が、上空のあちこちからコウモリの念が飛んでくる中、

「たぬたぬたぬ」イャーっ

ドシュぅぅぅン

 タヌタヌがモンガへ波動を放つと、赤黒いうずまきのような身体に吸収される。モンガの攻撃が止まった。

「えぞりん」

 えぞりんがでんぐり返って怪獣に変身すると、すかさず

ゴオッ

 火の玉を黒ウサギの方へ飛ばす。黒い影のおよそ半数が燃えて消える中、黒ウサギは火の玉を吸収する。火の玉は黒うさぎにはダメージを与えないようだ。首をかしげるエゾリンの怪獣。頭に(はてな)マークがついている。

「だだだだだたぬうき」

 エゾtが巻き物をまっすぐモンガに向けると

バリバリバリっ、ずどーん

 電撃が走った。ライデインから教わった技だ。モンガの全身に電気が走り身体を傾けた。

「ポン!」

 そして、ポンが放った渾身(こんしん)のポンは、

「モンガガ」

 直撃し、少し身体をのけぞらせ、よろめきながら4、5歩下がる。


「ふーーーーっ」

 ウサギのリーダーが目を血走らせていたかと思うと、目の前に光る球体が出て、

ズドン!ドカン!

 黒ウサギめがけて玉がまぶしく光ながら飛び、黒ウサギに直撃して爆発し黒ウサギの頭に光がまとわりついた。


 黒ウサギとモモンガの攻撃が止まった。


 タヌリンが、叫ぶ。

「たぬりんたぬりんたぬりん」すぐに一か所に固まって!

 何を思ったのか?みながタヌリンの方を見る。

「たぬりんたぬりん」月舟が来る、早く!

 タヌリンを中心にウサギ、タヌキが集まる。


「おい!ダダ語のやつ、あの呪文を唱えろ!」

ひゅーいーーん

 向こうから月舟が、コウモリ型の魔物をかきわけ急速度で接近してきた。月舟から叫んだのは縛られタヌキだ。


「だだだだだだ、たぬうき」

 月舟がさかさまに傾き、河口に固まっていたタヌキ、ウサギも全員、さかさまにひっくり返って、さかさまに飛んできた月舟の甲板に落ちた。

「だだだだだだ、たぬうき」

 エゾtがもう一度同じ呪文を唱えると、月舟は元通りの上下逆となり、甲板の上にはめいめいひっくり返ったタヌキ、ウサギがいる。タヌリンを中心に集まっていた全員が月舟に回収されていた。


シゅぅッーーー

 風を切って飛び去る月舟。

 月舟は旋回しながら、河口にいるモンガと黒ウサギを見る。追ってくる気配はない。モンガはウミウミを抱いたまま山の方へ歩いて行き、ゆっくりと姿を消した。黒い影やコウモリは四方へ散り、その中心にいた黒ウサギは月舟をじっと見ていたが、その場でゆっくりと姿を消した。


 アザt達アザラシは海上へ逃れていた。仲間のアザラシやイルカが警護し、沖合へ進んでいる。


 月舟を操舵(そうだ)していたのはウマウマだった。縛られタヌキ達のリーダー格が、

「ネコが縄を噛み切ってくれたんだ。そして早く助けに行けってさ」

 毛足の長い女の子が

「月舟に乗って逃げようかとも思ったんだよ。ネコ達がいっぱい集まってきて、助けに行けっていうから」


 月舟は島の元の海岸に着いた。カモメのカッちゃんが飛んできて、

「ご無事でしたか、でも山の方が大変です。クマさんもキツネさんも姿が見えません。全滅したかもしれません」

 カッちゃんやツバメ、鳥達の情報では魔物を扇型に取り囲むような陣形をして待機していた山のクマやキツネに向かって魔物達が攻撃をしかけてきた。魔物達はいつの間にか数を増やし、気が付くとまわりを幾重にも取り囲まれていた。当初は砦を中心に500体ほどしか見えなかった魔物達がいつのまにか4倍にも数を増やしていたという。ふいを突かれたクマやキツネやシカの連合軍は総崩れとなり、壊滅的な状況だという。


「4倍だって、魔物が2000体も集結しているのか?」

 信じられない数だ。しかも意思をもたないはずの魔物達は統率がとれ、あの黒ウサギやモンガと同じように、無数の鋭い針の念を飛ばしたという。コウモリ型の魔物は超音波を巻き散らして精霊の思考を狂わせ、ウサギ型の魔物は斧をふりまわしては草木をなぎ倒しながら炎を巻き散らし、激しく攻め立てたとのことだ。敵は近隣から魔物を呼び寄せている。黒い影が続々と集まりこの地で魔物の姿を形成しているという。



 ポンがカッちゃんを呼んだ。

「ぽんぽんぽんぽこぽん」ねえ、大王様のところまで飛んでくれる?

「はあっ?」

 札幌までは200㎞近くある。

「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽこ」すごいポンならあいつをやっつけれるかもしれない。

 ポンの攻撃はコピーを一撃で倒した実績があるし、さきほどの本体にも「ポン」では倒すには至らなかったがそれなりの効果があった。「すごいポン」ならあいつを倒せるかもしれないと、ポンは思った。ただ、すごいポンを出すときには誰かに断らなくてはならない、あの時、洞爺湖(とうやこ)での春美との約束だった。

 タヌキ達の攻撃は相手を打ち砕くだけではない。ポンのポンは相手が心のある者であれば夢を見させて心を再生させることもできる。タヌキ達はモンガをやっつけて救いたいと考えていた。悪い子にも夢を与える、それも春美との約束だった。


 カッちゃんはポンからの言伝(ことづて)を胸に、札幌をめざして飛んだ。


「なあ、それ、俺とかあれとかじゃだめなのか?」

 捕らわれタヌキのリーダー格が自分とウマウマを指さして聞くが、ポンは受付けない。「許可は大王様から」、と決めている。



 ウマウマは肩が凝ったのか、ウサギの戦士達に肩もみをさせている。

 うっしっしは縛られタヌキに懐いたネコをシッポでじゃらしている。

 エゾt達5匹は浜辺にレジャーシートを敷いて昼寝を始めた。慣れない戦闘で少し疲れて眠くなった。潮風が心地よかった。


「うさぴょんうさぴょんうさぴょん」もう、ほんとにあんたは、弓矢ぐらい撃てるようになってよ。

 四女のウサぴょんがウサウサに教育的指導をしている。

「うさぴょんうさぴょん」ほら、こうやって・・・

 二本足で立たせて弓を引かせるがやはりぽろりと矢が足元に落ちる。


 ラビティ、ラビりん、ウサリンは鹿角の弓矢に念をこめる。

 ウサギのリーダーはツバメを集めて情報収集をしている。


 向こうからナキウサギの月舟が近づいてきた。船はハリネズミのようだった。悪気のこもった「針」が無数に突き刺さっていた。





 モモンガ救出と金の玉奪回というのが当初目的でしたが、事態はあたり一帯の魔物を相手にする戦いへと発展してきました。タヌキ達の未知なパワーが勝利への決め手になるかもしれません。ポンが放つ「すごいポン」はこのあとの戦いで発揮できるでしょうか。

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