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嗤う35

 クルトとゴールドは古代樹が密集する上層下位を数時間もの間、休憩無しで走破していた。魔物に見つかれば死ぬフロアは警戒を怠ることはできず、直ぐ傍に巨大な亀が数十匹動いている状況にクルトは心身ともに疲弊していた。


 スヴェルヘイムの仲間とリーアが連れ去られて半日は経過した。早く助けたいという一心でクルトは黙々と先に進むゴールドの後を追いかけていた。


 緊張で吹き出す汗は尋常じゃなく、ここまで生死を分けたダンジョン攻略をしてこなかったクルトは剣を握る手が震えていた。


 光苔が照らす道を通過し、大樹に体が隠れていることを確認しながら手汗を革の防具で拭う。そこで、前方にいるゴールドがぴたりと止まったことに伏せの姿勢をとった。


 ゴールドに説教された成果で、迅速な行動を行ったクルト。ゴールドと同じように音を立てずに覗き込む。


「あれは……闇ギルドの連中だ。こんな大人数でどこに行くつもりだ」


 視界の先には大勢の集団が居た。薄暗い日陰では視認性が悪いが、ぞろぞろと動く集団を捉えることはクルトでも難しくない。


 黒い装束を着ている闇ギルドの連中は洞窟内から現れ、その数は軽く見積もっても三十人は超えている。


「……あそこが拠点なんですよね?」


 クルトは問う。黒装束の連中と出会ったときの人数は三十人弱。今、目の前に見えている数とほぼ同数である。闇ギルドの人数があれで全部でないにしろ、約半数は眼下の集団の可能性が高い。


 クルトは希望が見えてきていた。一人でもリーア達を助けることは不可能じゃないはずだと。


「ああ、あれだけの人数が出ていったんだ。中は手薄だろうな」


 ゴールドもまた、クルトの思考を読んでいた。クルトと約束したのは闇ギルドの根城の案内。ここでお別れになる手筈で、ゴールドはここで引くつもりだった。


 冒険者であるゴールドは手を貸してやりたい気持ちもあったが、引き際を弁えている。しかし、やることができた。


「なら、今がリーアを救うチャンス……」


 その通り、少数ではなく単独で闇ギルドに挑むならば真っ向での戦闘をしても勝機はない。第二級冒険者になったばかりのクルトでは剣技も拙く、隙をついたとしても勝ち目はない。


 力がないクルトでは戦いをせずに潜入し、囚われの彼女等を救うしか方法がなかった。


「お前は仲間を救い出せ。洞窟内がいくら手薄になったとしても空っぽというわけではあるまい。慎重に行けよ。お前が見つかって死ねば、仲間たちが死ぬのも時間の問題になる。クロスティがギルドに救出依頼を出したとしても最低十日はかかるからな……」


 ここまで危険を承知で案内してくれたゴールドにクルトは感謝し、覚悟を決める。


「……ゴールドさんありがとうございました。オレがリーアを仲間を救い出してみせます!」


 ミスは出来ない。必ず救い出さなければならない。仲間と約束をしたから、もう約束を破ることはしたくないから。


「ああ、私は囮を引き受ける。迅速に救出して下層に移動することを私は望む」


 ゴールドとしては闇ギルドの連中と共にしたユウシャが気になる所だが、冒険者として受け持ったのはスヴェルヘイムの救出。奴隷として買ったとはいえ、お金が返金されたうえに拘束権はない。


 危険な橋を覗くぐらいはするが、冒険者は危ないと分かっている橋を渡ることはない。


「え? ゴールドさんは帰るんじゃ……」


 クルトはてっきりここまでの依頼のはずだと思い返してみるが、数刻前に口答で契約した内容は間違っていない。なのにどうして、とクルトはゆっくりと剣を抜いたゴールドを見る。


「本来なら帰ったさ。私の命は安くはないからな。だが、可能性があると判断した場合は別だ。あいつらが出ていった後を追いかける。もしも、引き返してくるのが早いようなら私が囮となろう。無理そうなら逃げるけどな」


 これは善意から。亡くなったスヴェルヘイムのリラーギルとの借りを返すため。


「……ありがとうございます。恩は必ずお返しします」


 クルトは心の底から感謝する。だが、お辞儀するのは後だ。――今はやらなくちゃならないことがある。


「期待しておく。……健闘を祈るぞ」


 ゴールドも短く返答すると背を向けた。クルトもまた剣を握り、大切な人がいる場所へと一歩踏み出した。

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