夢
「アリス、旅をする中でやりたいことは何かあるか? あるんだったら言ってくれ」
真上から照りつける日差しの下、次の目的地であるドライ王国を目指しながら荷車を引いていたデュランはふとアリスへ旅の目標を話していなかったことを思い出した。
それと同時にアリスがやりたいことは何かあるのか気になったので訊いてみた。
「……やりたいこと、ですか? 考えたこともなかったです。ちょっと時間をください」
「分かった。ゆっくり考えてくれていいからな」
アリスがそう言ったので考えやすいようにアリスが乗っている荷車の速さを少し落とすと、ヴィンデへ目線でアリスが考える手伝いをしてくれるよう頼む。
すると何故かヴィンデがジト目をこちらへ向けてきたので早く行けと目配せをし、荷台からリンゴを取り出して食べた。
「――アリス、やりたいことって突然言われてもピンとこないわよね。
私とデュランが旅の目標にしてることを言うからそれを参考に考えてみて」
「分かりました! よろしくお願いします!」
デュランはアリスがヴィンデの言葉へ満天の星空のような笑顔で返事をしたので、可愛くて頭をなでそうになったが考える邪魔をしてはいけないと自重した。
「我ながら曖昧な目標だけど、私のは旅をする中で困っている人を助けるって感じね。こんなご時世だからこそ、少しでも助け合わなくちゃね。
デュランは強い相手と闘って剣技を極めるって感じかしら? いずれ伝説の剣神を超えるのが夢らしいわよ」
「とっても素敵な目標だと思います! それからデュランの夢は妻である僕の夢でもあります! 夢を現実にするお手伝いがしたいです!!」
ヴィンデは興奮気味なアリスに迫られて少しびっくりしていたが「その前に自分の目標を考えなさい」となだめ、水が欲しくなったのか荷台から水筒を取り出した後。
アリスを見守りながら水分補給し出したので、小さく切ったリンゴをヴィンデへ渡した。
「あまり難しく考えるなアリス、あくまでも目標だから実現不可能そうなものでもいいんだぞ。
何なら世界中のおいしい物を食べるみたいなのでも大丈夫だからな」
しばらく待っているとアリスは考えがまとまったのか一度デュランの方へ視線を向けたが、何故かまた悩みだしたのでこちらから話を振ってみた。
「そうですね――一つだけ頭に浮かんだのですが目指していい目標なのか分からないんです。
この目標を叶えるには越えなければいけない壁が多すぎますから」
「分かった。取りあえず聴いてから判断する、話してくれ」
「はい、僕は――」
そうしてアリスが話し始めたのは世間一般で夢物語と言われるようなものだったが、
「――戦争を終わらせたいです。もう、親を亡くして泣く子供や子供を亡くして泣く親がこれ以上増えないように」
同時にとてもアリスらしい素敵な目標だとデュランは思った。
デュランは戦争を終わらせるためにはどうするのがいいのかと一瞬考えた後、戦争の原因である考え方を広めた教団とその本拠地である国を潰せばいいと結論づけた。
「よし、分かった。
ヴィンデ、起源統一教団をぶっ潰すぞ!! 最終的な目的地はアイディール神国だ!!」
「……それが出来たら苦労はないって言いたいけど、デュランなら出来ちゃいそうよね。
仕方ないわね、私も付き合うわよ。いくらデュランでもアイディール神国を一人で相手するのはきついでしょうから」
なのでヴィンデへとそう言うとアリスは目に見えて表情を崩し、焦りながらデュランを止めにかかってきた。
「ちょ、ちょっと待ってください!? そんな簡単に決めていいんですか!! 相手は国を消せる兵器を持っている超大国なんですよ!!!
デュランがいくら強くても危険なんですからもっとしっかり考えてください!!?」
「よく考えたぞ、考えた上で潰すって言ってるんだ。アリスの夢は夫である俺の夢でもあるからな」
デュランに自分の言葉をそっくり返されたアリスは一瞬固まったが、二人の無茶な戦いを止めるために言葉を続けた。
「じゃあもう一度よく考えてください! 彼らは多種族を助けたという理由で人族の国であるウィンクルム連邦国さえも消したのですよ!!
デュランが人族でも彼らは容赦なんかしませんよッ!?」
「知ってるよ、前にヴィンデと一緒にいるからって理由で教団の連中に襲われたことがあるからな。まぁ、うるさいから斬ったが」
「えぇっ! 教団員を斬ったアァッ!?」
しかし衝撃的なことを言われたことでアリスの頭は真っ白になり、今度こそ完全に固まった。
そのまま動きを止めていたアリスはいつの間にか荷車を引くのを止めていたデュランに荷台から引っ張り出された。
「なっ、何を」
「アリス、分かったか? 俺はもう教団に喧嘩を売ってるんだから今更過ぎるんだよ、そんな心配。
それと一回しか言わねぇからな、今からいう言葉をよく覚えておけよ」
デュランはお姫様抱っこしたアリスへ微笑みかけた後、
「――俺の名前はデュラン・ライオット! 剣神を超えて世界一の剣士になる男だ!! だから!!! だから――妻の願いを叶えるなんて朝飯前だ。
遠慮なんかすんな、お前は俺の妻なんだろ?」
そう宣言しながら不敵な笑みを浮べた。
その言葉を聴いたアリスは顔を真っ赤に染め上げて何も言えなくなり、唇を奪ばわれて黄色い声を上げた。
「アリス、暗くなってきたから今日はここで野営しようぜ。アリスは食べたい料理とかあるか?」
「わ、分かった。ぼ、ぼぼ、僕は天幕を張るね! 料理はなんでもいいよ!!」
デュランがそう言いながら天幕の部品を取り出しているとそれを取り上げるようにアリスは持ち、少し離れた所で天幕を組み始めた。
その行動にデュランが疑問符を浮べていると何故かまたヴィンデがジト目をこちらへ向けてきたので考えるのを止め、料理の準備のため荷台からレンガを出して即席の窯を作った。
「アリスは何でもいいみたいだし、取りあえず野菜と薫製肉のスープでいいか。
新鮮な肉があったらステーキも用意できたんだが手持ちがないしな、デザートはリンゴの蜂蜜漬けにするか」
「でゅ、デュラン。天幕を張り終わったよ」
大鍋でスープを作っていると天幕が組み終わったのか、こちらへきたアリスが少し緊張気味に近づいてきたので味見をお願いしてみたが。
満面の笑みを浮べたので味は悪くないようだった。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
「うんっ? 何だ?」
窯の火を消して皿へ盛り付けようとしていると、叫び声が上から聞こえてきたので視線を向けたデュランは翼の生えた恐竜のような怪物――ドラゴンがこちら目がけて突っ込んできてたので斬撃を飛ばして片翼を斬った後。
止めを刺すため、デュランは地を蹴って飛び上がった。
「アリス! 晩飯にドラゴンステーキも追加だ! 旨いぞ!!」
「当たり前のように空を飛ばないでくださいッ!?」
「――グギャッ!?」
アリスがそう言った次の瞬間、ドラゴンは空中で真っ二つになり。文字通り体をバラバラに解体された。
その後ドラゴンは見事ステーキへと生まれ変わり、デュラン達の晩飯として食べられるのでした。
晩飯として食べようとした相手に食べられるとはこの世は弱肉強食とは言え、何とも可哀想なドラゴンですね。南無。
宴の後書きに置いておいた※簡単な登場人物紹介を小説の一番上に移しました。




