悪党
「両断とはやってくれるねぇ~、流石は筆頭大魔王を殺した化け物だ~ね。
でもあっしの能力影の支配者は影そのものを実体とする能力、あっしを殺すのなら例の天下無双とやらを使わないと無理だね~。
もっともそんな隙を与えるつもりはないけどねぇ」
スピネルはそう言いながらも新たに創り出した分体を何度でも殺してしまうデュランへ恐怖を抱き、魔法なしでこれならば魔法を使わせたらベルメーアの影の中に隠れ潜んでいる自身の影を斬られてしまうかもしれないという根拠のない恐怖がスピネルを支配していた。
一応魔法を暴かなくてもデュランを殺せた場合でも黒神様は吸血鬼という種族は処分をしない仲間達へ約束したらしいが、目の前の剣士には切り札である影の世界を使ったとしても対処すると確信できてしまう凄みがあった。
スピネルの本能がここで逃げ出さなければ確実に殺されると全力で警鐘を鳴らし、恐らくこのままだとその通りになるとどこか冷静な部分が理解していたが。
スピネルの悪党としての矜持とルビーへの思いが、ギリギリで逃げ出そうとする己を押さえつけていた。
「よくさえずる蝙蝠だな、アリスが消えてからもう二分は経っている。
楽に死ねると思うなよと言いたかったがもういい。貴様の言う通り、使おう」
「使うって例の魔法をかい、だからそんな隙は与えねぇって――グゲェッ」
魔法を使うというデュランの言葉に焦って不測の事態が起きた時のため待機させていた百体の分体を出してしまい、デュランが魔法を詠唱するための時間を稼がせてしまった。
このままだと魔法を使われてしまうと判断したスピネルは分体ではなく、魔王として全力で闘う時だけしか使わない本体を出した。
影を何らかの方法で直接破壊でもされない限り再生できるとは言え本体が万が一破壊されればしばらくの間は弱体化を余儀なくされるため出したくなかったが、魔法を使わせたら影を何らかの方法で攻撃してくると確信していたスピネルは仕方なく本体で攻撃を仕掛けた。
「――勝利だけを願うなら剣は牙と変わりなし、貫き難き仁の道。守り抜くもの人という」
「あっしらよりもあんたの方が化け物じみてるねぇ~、でも魔法は使わせないよ~」
しかしデュランは棍棒へ蹴りを入れて動きを止めると、そのまま棍棒を踏み台にして天高く跳躍してしまった。
まるで極まった曲芸師のサーカスでも見ているかのような気分になったスピネルは思わず本音を漏らし、改めてデュランの底知れぬ実力を感じて冷や汗を流したが。
棍棒を武器として使っているのは相手を吹き飛ばすことができる武器だからである。
そうして吹き飛んだ敵を切り札である影の世界で攻撃するのがスピネルの必勝パターンの一つだった。
デュランに通じるかは分からなかったが、空へ逃れたのならばもしかしたら殺せるかもしれないとスピネルは思った。
「我が身は無辜の民がため、剣となりて敵を討つ 」
「影から距離を取ろうったって無駄なんだよねぇ~、影の世界!! 串刺しになっちゃいなよぉッ!!!」
影の世界は影から影へ槍などの武器を移動させることでどんどんと武器を加速させ、最後には殺人的な加速をした武器を影から放って相手を攻撃する切り札であり。今までこの攻撃で死ななかった相手はいなかった。
しかし――
「ただ一筋の閃光を、恐れぬのなら来るがいい――天下無双」
――剣神と化したデュランを殺すには、いささか速度が足りていなかった。
スピネルは放った武器全てが同時に切断された光景を視界へ入れると魔法を使ったデュランを殺すのは不可能だと理解し、すぐに逃げ出そうとしたが体が動かず。自身の体へ視線を向けたことで本体も両断されていることに気が付いた。
それでも本体が斬られても再生できるためスピネルはなんとか生き残れたと笑みを浮かべ、ルビーの元へ帰ったら何をしようかと考えたところで――絶対に攻撃されてはならない影も斬られているのを理解して青ざめた。
「バカ、な。そんなバカな! ありえな――あぁ」
スピネルはなんとか影を元へ戻そうとしたがどうすることもできずに絶望した。
そしてこの時になってようやくスピネルは今まで殺してきた者達がまだ死にたくないと言っていた気持ちが分かり、今までの自分自身がどれほど酷いことをしてきたのか分かった。
だがどれほど後悔したところで過去には戻れないし、やったことは変えられない。
だったらせめてルビーへの思いをこの世に残して死にたいと思い、ルビーの写真の裏側へメッセージを残した。
――あっしはたくさん人を殺した悪党だけどよ、ルビーお前は違う。だからお願いだ、幸せになってくれ。
スピネルは最期にもっと早くルビーと出会いたかったと、一筋の涙を流しながら死んだ。




