宣誓
黒神から伝えられた三日後までに間に合わせるためデュランは全力で走り、連合軍が戦争を仕掛けるよりも早くグリード王国へと着くことができたが。
かつてグリード王国から一方的な侵略を受けて愛すべき家族や故郷を奪われた多種族の復讐を止めるべきなのか、また仮に止めるとしてもどうやって止めればいいか方法が分からなかったため。
グリード王国の近くにて天幕を張り、幻惑魔法で見つかりづらくしてから中で会議をしていた。
「……グリード王国へ戦争を仕掛けてくる多種族は皆、起源統一教団の被害に遭っている被害者だ。
人族である俺が戦争を止めるよう言っても逆効果だろうし、何よりも止まれないだろう。大切な仲間や家族の命を奪われてるのだから」
「そうね……私もそう思うわ、相手が大切なものを奪ったのに復讐しちゃダメなんて言えないものね。
戦争を止めるのが本当に正しいのか、なんて誰にも分からないもの」
「――それでも! 僕は戦争を止めるべきだと思います!!」
デュランとヴィンデが戦争を止めるべきなのかという根本的なことについて悩んでいると、アリスがそれでも戦争を止めるべきだと叫んだことで全員の視線がアリスへと集まった。
「連合軍の多種族の皆さんにもグリード王国の人族の皆さんにも家族がいます!! 亡くなっている方も今生きている方もきっと、彼らが幸せになることだけを願っているはずです!!
なのに戦争で殺し合うなんて家族が悲しみます!! だから一人でも彼らのために泣く家族を減らすため、この戦争は止めるべきだと思いますッ!!」
「そうは言うがなアリス、デュラン達の言うとおり彼らも元は被害者だったんだ。
止めると言ってもどうやったって遺恨が残る。また戦争が起きるのを先延ばしにするだけじゃないか?
実際、俺だって姫がいなかったら復讐しようとしてただろうし。何よりも俺と違ってもう守るものがない者達が大半だろう? 止めるのは難しいんじゃ……」
ルイスはアリスへ対してそう反論したが、次の瞬間。アリスが放った言葉で絶句することになる。
「人族も多種族も全員殴り倒してから説得します! そして説得が相手に通じるまで何度でも殴り倒すし、ぶっ飛ばします!! 戦争なんて絶対にさせません!!!」
「なっ!? そ、えっ」
それは説得というにはあまりにも荒々しいやり方であり、言ってしまえば脳筋戦法と言っても過言ではないものだった。
しかしその言葉を聴いたデュランは目から涙を流すほど呵々大笑した後で「よし分かった。アリスの作戦、全員右ストレートでぶっ飛ばすで行こう。オー!」と言って会議を終わらせた。
アリス以外の全員はそんな作戦で大丈夫かと思ったが、いつも通りデュランならなんとかしてしまうのだろうと溜息をついてから同じように「オー」と棒読みで声を上げました。
なお。肝心のデュランは「オーッ!」と言いながら拳を突き上げているアリス可愛いなぁ、と考えながらこの戦争を止めるためにある嘘をつく決意をしていました。後でアリスから怒られるのを承知の上で。
会議から三時間後、グリード王国を四方から取り囲むように現れた連合軍と迎撃のため出てきた王国軍の前にデュラン達は立ち塞がってた。
「悪いが奴隷紋のせいでデュランの命令には逆らえないんだ、全力で闘うが恨むなよ。
――元スミス王国親衛隊隊長ルイス! 押して参る!!」
「私は光波ブレードしか手持ちの武器がないんだ。だから申し訳ないがしばらくの間、そうして痺れておいてくれ。
正直、多種族の体はもう調べ尽くしていて興味がないからね」
「私は元姫ですから闘いは不得意ですの! ですからゴーレム様、後は頼みましたわ!!」
東側では予め強化魔法で身体能力を限界以上に高めたルイスが鞘に入れたままの剣で連合軍をちりのように舞い上げ、自身よりも大きな巨人族さえも吹き飛ばしている。
そしてルイスの手が回らない場所はリーベが散布した痺れ薬とノアが魔法を使って創り出した巨大なゴーレム達が対応し、連合軍をなんとか押さえ込んでいた。
「我が輩、奴隷紋のせいで命令に逆らえないでござるww、すまないでござるがここは通さないでござるよww」
西側では巨人族の十倍ほどの大きさの巨大な木製の巨人をクラウンが数十体創り出し、巨人族以外の多種族を戦闘不能にしてから木製の巨人が持つ檻の中へ次々と放り込んでいき。巨人族は巨大な木製の竜に飲み込まれて動きを完全に封じられていた。
「復讐がしたい連合軍の気持ちも分かりますが、貴方達の亡くなった家族と今も生きている家族のため! この場は全力でぶっ飛ばします!!」
南側では新たに手に入れた武器である棒――春風を手にアリスが連合軍と向き合い、春風と風属性の精霊魔法でその場の全員をぶっ飛ばしていた。
「悪いけど、私の武器は銃だから手加減できないの。だから、そこで眠ってなさい」
北側ではヴィンデの全力の幻惑魔法を使ったことで連合軍は全員夢の世界へと旅立っていた。
「テメェら今まで好き勝手やって来たんだろうが、今日で終わりだ。
ぶっ潰してやるから、かかってこい」
そして連合軍を迎え撃とうと出てきた王国軍はアリスのためやる気MAXのデュランの殺気で大半が気絶し、残った者達も死の恐怖に震えて動けなくなっていましたが。
彼らの創り出した巨人と天使はロボットであるために怯まず、デュランを排除するためその武器を向けました。
かつて存在した巨人族の神であるオーディンを再現して作られた機械の巨人一万体は光波ブレードを手にデュランへと同時に斬りかかりましたが。
それよりも速く飛ぶ斬撃で光波ブレードを持っている両手を斬り飛ばされ、その光波ブレードに体を斬られたことで半分の巨人がスクラップになりました。
次に機人族の神である天使ガブリエルを再現して作られた天使百万体は包囲してから、光波ブレードと同じエネルギーの弾を飛ばす光線銃でデュランを狙い撃ったが。
その全てを寸分違わずに返され、自身の撃った弾でその身を貫かれた百万体の天使は再びデュランを銃で狙おうとしていましたが。弾を返すのと同時に放っていた飛ぶ斬撃でこちらも同じくスクラップになりました。
「ば、化け物だアアアアアアアアッッッッ!!!!」
人族の力を他の多種族並に引き上げるパワードスーツ纏った王国軍はその光景で心を折られ、その強化された身体能力で我先にと逃げ出しましたが。
すぐに残りの五千体の巨人を斬り終えたデュランが追いつき、天晴の峰で四肢の骨とパワードスーツを破壊されてしまい。そのあまりの激痛に王国軍は全員あっさりと意識を手放しました。
「これでよしっと、後はこの国の王と連合軍だけだな」
そうつぶやいたデュランが四方を見渡すと連合軍は全員が生き残ったまま壊滅していました。
作戦が上手くいったようで安堵していたデュランはまだ終わってないと、この国の王であり――アリスの父親でもある男をぶっ飛ばすため。遠目に見える変なデザインの城目がけて空中を移動するのでした。
守衛をぶっ飛ばしながら城を破壊して王の居場所を探していたが面倒くさくなったので城中の気配を探り、ようやく隠し通路を使って逃げようとしている王の気配を見つけたデュランは隠し通路の出口で待ち構えることにした。
そして安心しきった顔で隠し通路を出てきた汗だらけの背中を天晴の峰で張り倒し、その顔が恐怖で染まったのを確認してから天晴の峰を翻し。首元へ天晴の刃を突きつけた。
「よう王様アァ、俺はず~~とテメェをぶん殴りたかったんだ! やっと殴れるぜェッ!!」
「ヒィッ、ま、待てっ。お主が何者かは知らぬが、金ならいくらでもやるぞ!! どうだ、それで手を打たないかッ!!」
「ほう、そいつはありがたい話だな――」
その言葉を聴いたデュランはニッコリと笑顔を浮べながら汚い汗を創った布で拭いてから天晴を納刀した。
その光景を視認した王は助かったとでも言うかのように目を輝かせたが、デュランが拳を握ったことで頬を引きつらせた。
「――だが断る! テメェだけはぶん殴らねぇと気が済まねぇ!! 死ねええええええッッッ!!!l」
「や、止めろオオオオオオオオオオオォォォッッッッ!!!!!!!!!!!」
そうして王の無駄に整った顔を破壊した上で四肢をへし折ったデュランはその首を掴み、王国軍と連合軍がいる外まで持って行き。嵐流刃で頭上の雲を全て散らしてから声を張り上げた。
「――俺の名前はデュラン・ライオット! この戦争を見かねて介入した者であり、剣神の生まれ変わりだ!! 起源統一教団は俺が必ず潰す!!!
だから各種族は自身の家族の元へと帰るがいい!! お前達の無念は必ず俺が晴らす!! この剣に誓ってッ!!」
――ウオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!
デュランは自身の宣誓で喜びに沸く多種族達の姿を目に入れつつも、こちらを睨みつけているアリスへ後で土下座しようと心の中で決意した。
そして残っていた王国軍がこの宣誓で戦意を失って投降したことで、グリード王国での戦争は始まる前の段階で完全に終息したのだった。
なお。アリスへ相談せずにこの宣誓を行った罰としてデュランは一週間程アリスと寝ることはおろか会話さえしてもらえず、泣きながら土下座し続けたことでなんとか許してもらえたのでした。マル。
この話を見返していたらノアとリーベを描写するのを忘れていたので慌てて書き直しました。
この二人は正面戦闘得意じゃないからどうしようかなぁ、と悩んでて結局描写を入れるのを忘れてました。すいません。
ちなみに他にも手直ししてますがいつものことなのでどこを直したかは書きません、というか全部の話に(改)って書いてあるから今更だしね(笑)